専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
心室中隔穿孔
80歳台の女性が呼吸困難感を主訴に救急搬送されてきました。数日前から症状が悪化してきたとのこと。胸部レントゲンでは両側にうっ血と胸水を認めました。心電図では前胸部誘導で異常Q波とST上昇がありましたが、採血検査ではトロポニンが上昇しているものの、CKとCK-MBは正常範囲でした。心エコーも前壁~中隔のAkinesisがあり、心嚢液はありませんでした。
発症時期は分かりませんが、数日から1~2週間前発症のSTEMIに伴う心不全と判断し、血行再建は急がずに、まずは心不全のコントロールを付ける方針とし、NPPVとフロセミドの静注を開始。利尿も順調に得られて安心していたのですが、翌日の胸部レントゲンでは思いのほか改善していませんでした。いや、レントゲンだけ見ると、むしろ悪化していました。
さて、何が起きたのでしょうか?
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編集長は心音を聴取する時は、心尖拍動の触知をするのをほぼルーチンにしているのですが、この時は心尖部から胸骨寄りでThrillを触れました。また汎収縮雑音も聴取しました。心エコーを改めてやってみると、こんな画像が得られました。
そう、STEMIの重篤な機械的合併症の一つである心室中隔穿孔(VSP:Ventricular septum perforation)でした。入院時にはThrillは無かったので、おそらく入院後にVSPを発症したのだと推察しました。(画像は心尖部からの四腔像)
VSPをまとめておくと・・・、
STEMIでもNon-STEMIでもVSPは発症しますが、再潅流療法が行われるようになってからは頻度は非常に少なく、STEMI患者で0.21%、Non-STEMI患者では0.04%とされています。しかし発症して手術をしなければ、2か月以内の死亡率が90%と報告されています。
一方で手術をしたとしても、死亡率は50%を超えていて、ショックを呈する患者では手術死亡が81~100%という報告もあります。最近では経皮的に閉鎖デバイスを用いたメタ解析がありますが、それでも死亡率は32%と高率であることには変わりありません。
発症のタイミングは24時間~2週間と言われていて、前壁梗塞でも下壁梗塞でも起こり得ます。症状は軽い息切れの悪化からショックまで非常に幅広いようです。治療は前述の通り外科的修復もしくは経皮的閉鎖デバイスですが、手術時期については一定の見解はないものの、梗塞領域が線維化する数週間後に施行した方が良いとの意見が多いようです。
冒頭の症例は、高齢で認知症もあったことなどからご家族と何度も相談した結果、手術は行いませんでした。あなたも心不全を合併したSTEMI患者で予想と違う経過の時は、頻度は低いもののこのような合併症が無いか考えてみてください。
(参考文献:JACC CardiovascInterv 2019; 12:1825、 EuroIntervention 2016;12:94)
(編集長)
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