専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

特発性気腹症

2025.10.06
カテゴリー: 消化器内科

救急外来で急性腹症の方が来院したとき、鑑別すべき疾患はさまざまですが、単純X線やCTで腹腔内遊離ガス(free air)をみたときにはまず消化管穿孔を第一に考えると思います。

 

腹腔内には通常空気は存在しないため、

腹腔内にairがある=腸管に穴が開いて腸管内容物が腹腔内に流出している

と考えられるわけです。

 

消化管穿孔とひとくちに言っても穿孔部位によって対応は異なり、上部消化管穿孔の場合には絶食・補液、胃管挿入、PPI投与で保存的に加療されることが多いです。一方で、下部消化管穿孔の場合には、汎発性腹膜炎をきたすため、基本的には緊急で手術の方針となります。

 

ですが、外科をローテーション中に部消化管穿孔が疑われたにもかかわらず、穿孔部位が同定できなかった症例を経験したので、それに関して調べたことについてご紹介したいと思います。

 

原因の同定できない腹腔内遊離ガス像のことを「特発性気腹症」と呼びます。

その原因は、ガスの流入経路から大きく5つに分類されます。

(Gantt CB Jr et al: Am J Surg 1977; 134: 411-414)

 ・胸腔内(気胸、縦隔気腫、閉塞性換気障害、肺炎、胸部外傷など)

 ・腹腔内(空腸憩室症、呑気症など)

 ・産婦人科的疾患(急性卵巣炎、卵管脱出、分娩後の運動など)

 ・医原性(卵管通気法、開腹術、腹膜透析など)

 ・その他

 

特に、消化管由来の腹腔内遊離ガスの原因としては、

 ・腸管内圧の上昇に伴いガスのみが流出するような粘膜の脆弱性の存在

 ・ガスのみが流出するような微小穿孔の存在

などが考えられています。

 

特発性気腹症に関してはしばしば保存的治療を選択することもあり、その条件としては

 ①腹膜刺激症状がない

 ②意思疎通が良好で腹部症状の経時的変化を評価できる

 ③炎症反応が軽度

 ④CTで腹膜炎、腹水等の所見、その他器質的疾患を認めない

などが考えられています。

(国友ら: 日腹部救急医会誌 2018; 38: 1163-1165)

 

また、特発性気腹症と考えられた症例でも、腹痛があること、炎症反応が高いこと、腹水が存在していることなどが手術の選択に関与しているといった報告もあります。

(佐藤ら:日臨外会誌 2013; 74: 346-351)

 

つまり、検査所見も重要ですが、身体所見を正確にとることが手術を選択するかどうかにおいて非常に重要ということです。緊急性を要する場面でも適切に必要な身体所見をとれるようにしていきましょう。

(ねぎとろ)

 

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胆嚢炎を診断する時の3つのコツ

2025.09.15
カテゴリー: 消化器内科

心窩部痛、炎症反応の上昇などから胆嚢炎を疑われ、コンサルトを受け診察に行く。エコー上、胆嚢はやや大きいものの、いわゆる腫大の基準は満たさない(過去の胆嚢炎の記事はこちら

 

胆嚢結石は一応あるが、壁の肥厚もないし、胆泥貯留もないし。画像上は胆嚢は責任病変じゃなさそうだ。念のためCTもとってみるが、所見としては同様。

 

「炎症反応も高いし、心窩部痛もありますが、Murphyもはっきりしないし、胆嚢炎ではなさそうですね。focusはちょっとはっきりしないです。禁食で様子見てもらって改善なければまた連絡ください。」

 

その後、禁食にして一旦は改善したものの、食事再開すると同様だとのことで再コンサルト。今一度エコーを当ててみると、疑いようのない胆嚢炎の所見…。「胆嚢炎でした。すみません…」

 

こんな恥ずかしい経験、消化器内科の医師なら一度くらいはあるのではないでしょうか(私だけならさらに恥ずかしいですが・・・)。

 

こんな経験をしないために、胆嚢炎を否定しきれず、他の原因も指摘できない時の3つのコツがあります。

 

・MRIという手がある。

 ⇒T2強調でpericholecystic high signalという胆嚢周囲のhigh signalが胆嚢の炎症を反映して認められることがあります。

 

・「胆嚢炎ではない」、とは言わない。

 ⇒当たり前の話ですね。断言するとカッコいいですが、「原因ははっきりは指摘できません」とか、「胆嚢炎も否定はできませんが積極的には疑いません」くらいにしておきましょう。

 

・時間を空けてもう一度エコーをする。

 ⇒午前のコンサルトなら夕方と翌日くらいには繰り返しエコーを当ててみましょう。胆嚢が収縮している、ほかの原因が判明した、などが判明するまで、エコーで確認を続けても損はありません。消化器内科医にとってエコーは聴診器みたいなものですからね。

(Nao)

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◆内科専門研修プログラム説明会を開催します

水戸済生会の内科研修プログラム説明会をZoomで開催します。

J2が対象ですが、水戸済生会の内科専門プログラムに関心のある方なら、医学生でもJ1でも参加可能です。あなたの参加をお待ちしています♪

日時:2025年9月26日(金)

   19時開始(40~50分程度の予定です)

場所:Zoom

内容:①内科専門研修の概略

   ②消化器内科の専門研修

   ③腎臓内科の専門研修

   ④循環器内科の専門研修

   ⑤膠原病内科の専門研修

   ⑥血液内科の専門研修

   ⑦脳神経内科の専門研修

   ⑧質疑応答

申し込み方法

下記リンクの問い合わせフォームからお申し込みください。フォーム内の「お問い合わせ内容」欄に「内科専門研修プログラム説明会参加希望」と入力し、送信して下さい。

自動返信メールが届きますが、後日改めてZoomのURLをお知らせいたします。

お申し込みはこちらから

 

消化器内科の専門研修2025

2025.02.17
カテゴリー: 消化器内科

前回は水戸済生会の内科専門研修プログラムの概略を紹介しましたが、今回は消化器内科の専門研修について紹介します。

 

今年度(令和6年度)の消化器内科には8名のスタッフと消化器内科志望の専攻医が4名います。当院では専門研修1年目(つまり卒後3年目)の後半から他施設をローテして、専門研修2年目(つまり卒後4年目)の後半から当院での研修にほぼ固定というパターンが多いので、現在は専攻医4名とも院外での研修をほぼ終了し、院内のローテもしくは消化器内科の研修を行っています。

 

どの病院でも消化器内科は患者さんも多く、とても忙しい診療科ですが、水戸済生会の消化器内科は以下のような特徴があります。

 

① 高いQOL

チーム制を実効性のある形で導入しているので、仕事の時はみっちり仕事。休みの日は、完全オフ。仕事と趣味を両立できます。それを実現するために、上下の隔たりなく仲間として全員で力を合わせて診療しています。

 

② 幅広い治療手技

内視鏡治療は当然のこと、当院ではエコー下穿刺治療、血管内治療もすべて自科で行います。食道静脈瘤に対するBRTOや憩室出血や腹腔内出血も血管内治療グループと共に治療にあたりますので、消化器内科がカバーすべきほぼすべての治療手技+αを習得できます。

 

③ 高難度治療

EUS下穿刺治療、胆道鏡(SpyGlass)を積極的に行っており、さらに小腸内視鏡も導入されました。これからの内視鏡医に求められる新しい治療技術も身に着けられます。また、外科との合同手術(LECS)も導入し、協力して治療を行っています。

 

④ IBD(炎症性腸疾患)診療

IBD診療も積極的に行っております。典型的初発症例の寛解導入は当然ながら、ステロイド抵抗例などの難治例、外科治療を考慮すべき重症例まで対応しています。IBDの基本治療薬である5-ASA製剤の使い分けはもちろん、栄養療法、血球除去療法、免疫抑制剤、生物学的製剤など、ありとあらゆる医療リソースを用いたIBDの幅広い治療戦略を学ぶことができます。

 

冒頭でも紹介したように専攻医が4名いますが、すでに数多くの症例を経験し、どんどん上達しています。あなたも水戸済生会の消化器内科で一緒にレベルアップを目指しましょう!

 

ご質問など、どんな小さなことでも遠慮なく、下記の問い合わせフォームからご連絡ください!

(編集長)

 

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「胃腸炎」よもやま話

2023.10.09
カテゴリー: 消化器内科

皆様こんにちは。消化器内科の蒼いRX²です。

「胃腸炎」の季節ですね。

 

「『胃腸炎』はゴミ箱診断」

「カルテに『胃腸炎』と書くな」

「下痢がない『胃腸炎』はない」

『胃腸炎』に抗生剤使うな」……

 

オーベンからこんな風に言われたことはありませんか?今回は俗にいう「胃腸炎」について少し掘り下げてみます。

 

☆今回のポイント
① 「胃腸炎」のmimickerを押さえる!
② 「胃腸炎」は臨床像にとことんこだわる!

 

①「胃腸炎」のmimickerを押さえる!
mimickerとは、本来は“ものまねをする人”という意味ですが、ここでは症状がとても似ていて誤診しやすい疾患を指します。「胃腸炎」のmimickerはあまりに多すぎて書ききれないので、ここでは致死的な疾患を3つだけ挙げますので是非覚えておいて下さい。

 ・敗血症:特に腎盂腎炎・胆管炎
 ・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
 ・アナフィラキシー:消化器症状の頻度は25~30%

 

どれも見逃したら大変なことになる疾患ですね。これらの典型的な臨床像を思い浮かべると、問診や診察で除外すべきポイントが見えてきます。

 

さて、これらに共通するとても重要なバイタルサインがひとつありますね……“呼吸数”です。「ん?この人胃腸炎っぽいけど、なんか呼吸が速いなぁ」と思った瞬間、ギアを入れ替えましょう。頻呼吸は急変の予兆です。迷わず血液ガスを取ってください。小児や高齢者は特に要注意です。

 

付け加えると、心筋梗塞の中でも特に下壁梗塞は嘔気・嘔吐を伴うことが多く「胃腸炎」と間違われやすいなので重要です。また、「女性を見たら妊娠と思え」は今も昔も変わらないクリニカルパールですが、特に異所性妊娠は常に鑑別に挙げておくことが大切です。

 

②「胃腸炎」は臨床像にとことんこだわる!
ではどんな条件がそろえば「胃腸炎」と呼べるのでしょうか。「胃腸炎」と呼ぶくらいなので、上部・下部消化管両方の症状が、上から下へ出てきます。つまり、「嘔気・嘔吐 → 下痢」という、この順番で出てこない限り、「胃腸炎」と呼んではいけません。

 

えっ順番も大事なの?と思うかもしれませんが、下痢が先行して嘔吐が後から来る疾患には虫垂炎、腸閉塞(閉塞機転より肛門側から軟便が出てくる)などが挙げられます。

 

また救急で超有名な林寛之先生は、ご自身の著書の中で「胃腸炎」に特徴的な臨床像を以下のように挙げられています。

 

 ・水様便がピーピー大量
 ・発熱や腹痛はあっても軽い(腹部所見に乏しい)
 ・嘔気・嘔吐が比較的強い

 

これらの臨床像を全て満たし、基礎疾患のない患者であれば、病歴と身体所見だけで自信をもって「胃腸炎」と診断できますので、採血やCTなど不要です(研修医の練習のためにエコーぐらい当ててあげると患者さんの満足度も上がって一石二鳥かもしれませんが)。

 

逆に完全に満たさないのであれば、カルテ上のプロブレムは「#胃腸炎疑い」よりも「#急性下痢症」や「#心窩部痛 #下痢 #発熱」などにしておいた方が無難です(バイアスがかかるのを避けるため)。

 

また血便など非典型的な症状があれば、それは絶対に「胃腸炎」ではないのでギアを入れ替えて精査すべきです。

少し長くなってしまいましたが、改めて今回の2つのポイント、
① 「胃腸炎」のmimickerを押さえる!
② 「胃腸炎」は臨床像にとことんこだわる!
これらをしっかり意識して診療にあたってください。それではまた。

 

<参考文献>
1) 林寛之著『ステップビヨンドレジデント4 救急で必ず出会う疾患編 Part2』羊土社
  胃腸炎mimickerの表は必読です!
2) CDS勉強会資料『便通異常』林寛之先生

(蒼いRX²

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肝性脳症にまつわる誤解 その③

2023.07.03
カテゴリー: 消化器内科

皆様こんにちは。消化器内科の蒼いRX2です。肝性脳症にまつわる3つの誤解、いよいよ今回でラストです!

 

誤解③ とりあえずアミノレバン入れておけばOK!

 

おそらくこれが一番よくある誤解だと思います。この先がとても重要なので、皆様もう少しだけお付き合いください。肝性脳症の治療の本質は、誘因を検索し、その誘因に対して適切に介入することです。その過程を怠り、とりあえずアミノレバンでお茶を濁すような対応をしていると、思わぬ落とし穴に嵌ります。

 

さて、肝性脳症の誘因となるものはたくさんあるのですが、ここでは絶対に見落としてはならないものと、臨床でよく遭遇するものを紹介します。

 

☆絶対に見落としてはならない肝性脳症の誘因

①    消化管出血:特に食道静脈瘤破裂

②    感染症:特発性細菌性腹膜炎(SBP)など

 

吐血や血便のエピソードはないか?血液検査で貧血の進行がないか?もしあるなら、忙しい救急外来でも直腸診をためらってはいけません。エコーで腹水貯留が増悪していないか?しているなら腹腔穿刺・培養を一度は考慮すべきです。

 

☆臨床でよく遭遇する肝性脳症の誘因

①    便秘

②    脱水

③    薬剤・アルコール

 

肝性脳症の患者が来たら、必ず便通に関する問診は行うようにしましょう。食事がとれないことや下痢、利尿薬の過剰投与により患者はしばしば脱水になります。最近新たに処方された薬はないか?特にベンゾジアゼピン系睡眠薬は要注意です。またアルコール性肝硬変の患者が結局断酒できていないことはあるあるですね。患者の家族からの情報収集も非常に重要です。抜かりなく行いましょう。

 

これらの誘因に対するアプローチを適切に行った上で初めて、ではアミノレバンを投与しようか、という段階に進むわけです。どの製剤をどのように使うか、栄養管理は具体的どのようにするかも重要ではあるのですが、ここにはとても書ききれないのでご興味のある方は是非参考文献をご覧ください。

 

いかがでしたか?3回にわたり肝性脳症に関してお送りしてきましたが、救急外来や一般内科外来で忘れた頃にやってくる重要な疾患です。忙しい中ではありますが、雑なマネジメントで患者の命を危険に晒すことがないよう、是非よく復習しておいて下さい。

 

それでは、また次の機会にお会いしましょう。

 

参考文献:1) Hospitalist vol.6 No.3 2018『肝胆膵』

(蒼いRX²)

ERCP中

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肝性脳症にまつわる誤解 その②

2023.06.12
カテゴリー: 消化器内科

皆様こんにちは。消化器内科の蒼いRX2です。前回から肝性脳症にまつわる3つの誤解についてお話していますが、今回はその2回目となります。

 

誤解② 肝硬変患者の意識障害 ⇒ 肝性脳症!

 

「先生、この意識障害の患者さんアンモニア測っておいたほうが良くないですか?」

 

救急外来で一度は耳にするやりとりですが、ちょっと掘り下げてみましょう。ざっくり結論を言ってしまうと、肝性脳症におけるアンモニアは、感染症におけるCRPみたいなものです。

 

「アンモニアが高いから肝性脳症」「アンモニアが正常だから肝性脳症ではない」「アンモニアが高いほど肝性脳症の重症度が高い」はい、これ全部間違いです。ただしアンモニアを測定することを全否定しているわけではなく、実際には「あくまで参考程度にチェックしておく」といった感じでしょうか。

 

肝性脳症の主病態は、肝臓の尿素サイクルの障害によりアンモニアが代謝されないことと習ったと思いますが、実は芳香族アミノ酸やGABAなどアンモニア以外の物質の関与も指摘されています。血中アンモニアが増加する要因は肝性脳症以外にも多数あり、重要なものだけ以下に挙げます。

 

 ・検体取扱い不良(すぐに冷却せず、長時間室温で放置)

 ・消化管出血 

 ・てんかん後

 ・薬剤:バルプロ酸、αGI、5-FU

 ・ウレアーゼ産生菌による尿路感染症

 

高アンモニア血症の有無と肝性脳症の有無が1:1対応でないことがお分かり頂けたと思います。では、どのように肝性脳症を診断するのでしょうか。

 

①他の意識障害の要因が除外されていること

②肝性脳症を来しうる要因があること(詳しくはPart3でお話しします)

これらの臨床的文脈を踏まえたうえでの総合判断となります。繰り返しになりますが、ア

ンモニアの測定が全く無意味というわけではなく、あくまで参考としてチェックします。

 

余談です。肝性脳症で有名な身体所見である羽ばたき振戦ですが、これも肝性脳症に特異的な所見ではありません。尿毒症などによる代謝性脳症でもみられることがあります。ところで皆様、羽ばたき振戦がどんな所見か、ご自身の身体を使って再現できますか?(流石に両手を広げて本当に羽ばたいてしまう方はいませんよね…?)自信がない方はYouTubeにたくさん動画が上がっていますので、是非チェックしておいてください。

 

今回も長くなってしまいました。次回でいよいよラストですので、もう少しだけお付き合いください。 

参考文献:1) Hospitalist vol.6 No.3 2018『肝胆膵』

(蒼いRX²)

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肝性脳症にまつわる誤解 その①

2023.06.05
カテゴリー: 消化器内科

皆様、はじめまして。消化器内科の蒼いRX²と申します。昨年度まで近くの研修病院の総合内科で勤務していました。初投稿の今回は、肝性脳症にまつわる3つの誤解を解いていきたいと思います。

 

誤解① 肝硬変患者の意識障害 ⇒ 肝性脳症!

誤解② 高アンモニア血症+意識障害 ⇒ 肝性脳症!

誤解③ とりあえずアミノレバン入れておけばOK!

 

誤解① 肝硬変患者の意識障害 ⇒ 肝性脳症!

「肝硬変の人が意識障害で救急搬送?どうせ肝性脳症でしょ!」と短絡的に考えてしまいがちですが、本当にそうでしょうか?

 

AASLDガイドラインでは、肝性脳症の診断において、意識障害の原因となる他疾患の除外を行うことを推奨しています。1)  まずはAIUEOTIPSの基本に立ち返って考えてみましょう。その中でも特に重要なのが、頭蓋内出血、低血糖、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、アルコール性ケトアシドーシス(AKA)です。

 

アルコール性肝硬変では、頭蓋内出血のリスクは5倍に跳ね上がるとも言われています。2)

低血糖は意識障害において真っ先に除外すべきですし、鑑別から落としがちなのがDKA, AKAです。「肝性脳症っぽいな~」と思いつつも、まずは瞳孔と粗大な麻痺の評価をしつつ、血液ガスでアシドーシス、血糖異常、電解質異常はチェックしておいた方が良いでしょう。何事も基本が肝心です。

 

少々長くなってしまいました。誤解②と③は次の機会にお話ししましょう。

 

参考文献:

1) Hepatology. 2014;60(2):715-735

2) BMC Gastroenterol. 2008 May 24;8:16

3) Hospitalist vol.6 No.3 2018『肝胆膵』

 

(蒼いRX²)

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ピロリ菌除菌について

2023.04.24
カテゴリー: 消化器内科

H.pylori感染では胃粘膜の慢性炎症を背景として胃・十二指腸潰瘍, 胃癌をはじめとしたH.pylori関連疾患を引き起こし, 胃酸分泌能など胃機能への影響や消化管以外の疾患との関連性も指摘されています. 

 

『H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版』では, H.pylori除菌が強く勧められる疾患として, H.pylori感染胃炎, 胃・十二指腸潰瘍, 早期胃癌に対する内視鏡治療後胃, 胃MALTリンパ腫, 胃過形成性ポリープ, 機能性ディスペプシア, 胃食道逆流症, 免疫性血小板減少性紫斑病, 鉄欠乏性貧血が挙げられています.

 

実際には, 上部消化管内視鏡検査で前述のH.pylori感染関連疾患を認める場合, H.pylori感染診断検査を行います. 当院では血清抗H.pylori抗体測定で感染診断を行うことが多いです. 他に, 迅速ウレアーゼ試験, 鏡検法, 培養法(内視鏡による生検組織を用いる), 尿素呼気試験, 便中抗原測定法などがあります.

 

感染診断検査で陽性の場合, 1次除菌としてアンピシリン+クラリスロマイシン+PPIを7日間内服します. 1次除菌の成功率は75-90%で, 飲み忘れや中断なく内服すること, 除菌中の喫煙を避けることで除菌成功率が高まります. 除菌薬終了後4週以降に除菌判定検査を行います. このときは除菌前の影響を受けない尿素呼気試験(抗菌薬やPPI内服中は偽陰性となり得る), もしくは便中抗原検査(PPIの影響を受けにくい)を行います.

 

1次除菌失敗の場合, 2次除菌としてアンピシリン+メトロニダゾール+PPIを7日間内服し, 終了後4週以降で再び除菌判定検査を行います. 2次除菌も失敗の場合, 3次除菌へ進みますが, 3次除菌以降は保険適応外となります. ペニシリンアレルギーや腎機能低下のある患者さんでは, 抗菌薬の変更や減量が必要です.

 

除菌によって胃癌リスクは低下しますが, 除菌後長期経過後の胃癌発症も報告があり, 基本的には除菌後も1年ごとの上部内視鏡検査をお勧めしています.

 

参考文献:H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016年度版 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会

(やまガール)

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消化器内科の専門研修2023

2023.02.06
カテゴリー: 消化器内科

今回は消化器内科の専門研修について紹介します。

 

今年度(令和4年度)の消化器内科には7名のスタッフと消化器内科志望の専攻医が5名います。専攻医5名のうち、2名が他施設の内科専門研修プログラムからのローテーションで来てくれていますが、3名は当院の内科専門研修プログラムに在籍しています。

 

そして次年度(令和5年度)からは消化器内科志望の専攻医が4名加わってくれます。(なんと、応募してくれた専攻医全員が消化器内科志望でした♪)他施設からのローテーションの2名は自施設に戻りますが、それでも2名の増員となるので、ますます活気がでますね。

 

どの病院でも消化器内科は患者さんも多く、とても忙しい診療科ですが、水戸済生会の消化器内科は以下のような特徴があります。

 

① 高いQOL

チーム制を実効性のある形で導入しているので、仕事の時はみっちり仕事。休みの日は、完全オフ。仕事と趣味を両立できます。それを実現するために、上下の隔たりなく仲間として全員で力を合わせて診療しています。

 

② 幅広い治療手技

内視鏡治療は当然のこと、当院ではエコー下穿刺治療、血管内治療もすべて自科で行います。食道静脈瘤に対するBRTOや憩室出血や腹腔内出血も血管内治療グループと共に治療にあたりますので、消化器内科がカバーすべきほぼすべての治療手技+αを習得できます。

 

③ 高難度治療

EUS下穿刺治療、胆道鏡(SpyGlass)を積極的に行っており、さらに小腸内視鏡も導入されました。これからの内視鏡医に求められる新しい治療技術も身に着けられます。また、外科との合同手術(LECS)も導入し、協力して治療を行っています。

 

④ IBD(炎症性腸疾患)診療

IBD診療も積極的に行っております。典型的初発症例の寛解導入は当然ながら、ステロイド抵抗例などの難治例、外科治療を考慮すべき重症例まで対応しています。IBDの基本治療薬である5-ASA製剤の使い分けはもちろん、栄養療法、血球除去療法、免疫抑制剤、生物学的製剤など、ありとあらゆる医療リソースを用いたIBDの幅広い治療戦略を学ぶことができます。

 

冒頭でも紹介したように専攻医が5名いますが、他院のプログラムから来た専攻医は、自院ではあまり内視鏡などの手技をできていなかったようですが、当院ではすでに数多くの症例を経験し、どんどん上達しているようです。あなたも水戸済生会の消化器内科で一緒にレベルアップを目指しましょう!

 

ご質問など、どんな小さなことでも遠慮なく、下記の問い合わせフォームからご連絡ください!

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新しい内視鏡が入りました!

2022.10.31
カテゴリー: 消化器内科

タイトル通りですが、当院の内視鏡システムが更新されました!

 

 

当科はオリンパス社とフジフィルム社2社の内視鏡を揃えています。これは、世界のほとんどのシェアを持つ2社の内視鏡の特性を理解しつつ使いこなせる医師を育てるためです。当院で育った若手医師はそのままどこの病院に行っても、選り好みすることなく、与えられた内視鏡の特性に合わせて内視鏡検査や処置にあたることができます。

 

若干マニアックな話が入りますが、是非内視鏡医を目指すあなたは読んでいただければと思います。

 

今回の更新はフジフィルム社でした。オリンパス社が一足先にLED光源になっておりましたが、今回フジフィルム社もレーザー光源からLED光源になりました!元々画質には定評のあったフジフィルム社ですが、LEDになりその画質に磨きがかかっています。経鼻内視鏡については目を見張るものがあります。

 

オリンパス社の画像取り込み方式は高速面順次方式と言い、赤緑青の光を高速で切り替えながら照射し、それで得られた3色の色を重ねて一つの画像にしています(実際は、特殊光観測のための2色を加えた5色のようです)。フジフィルム社は同時式で通常のデジタルカメラと同様の方式です。一般的には面順次方式のほうが画質は向上させやすいという評判があるのですが、フジフィルムは同時式で面順次方式に負けない(それ以上の?)画質を出してきています。

 

 

ちなみに、面順次方式では撮影の瞬間にぶれたりすると色分解が起こってしまうのですが(以前の光源では白色光源の前に3色の色のフィルムを高回転で回して撮像する方式で、色の切り替え速度が遅かったこともありこれが起こりやすかった)、LEDのX1シリーズでは色分解がほとんど起こらず、両社とも技術の進歩を感じます。

 

話がブレブレしてしまいましたが、要するに、画質が非常に良くなりました。経鼻内視鏡は近接撮影が強化され、拡大内視鏡の40倍程度と同等の血管情報を得ることができるとのことです。

 

最近の内視鏡学会の主流の意見は、スクリーニングは経鼻内視鏡で十分であるという論調になっているように感じますが、個人的には懐疑的な考えでした。しかし、この経鼻なら!本当にスクリーニングでは経口内視鏡なんか要らない、と心から言えます。

 

ちなみに、当院のオリンパスの経鼻内視鏡は、X1シリーズの最新の光源が入っているにもかかわらず、ちょっとした事情で290という一個前の経鼻内視鏡のままのため、オリンパスの本領が発揮されていません。来年、オリンパスの経鼻内視鏡もちゃんと更新になる予定ですので、非常に楽しみです。

 

尚、実は今回フジフィルム社のAiも入れてしまいました。まだまだ粗削りな技術ですが、市中の基幹病院として実戦でのフィードバックを私たちからも入れさせていただき、更なる技術の発展に貢献したいと思っています。

 

これがAi

 

Aiが私たち内視鏡医の仕事を奪うのか。そんな後ろ向きなことは考えず私たちはAiにタスクシフトをしつつ私たち人間にしかできないことをしっかりこなしていこうじゃないですか。いつの日か内視鏡入れて、何も考えずに抜くだけでAiが病変を指摘してくれるようになり、私たちは内視鏡切除適応病変を切除するだけでいい、なんて日が来たら良いですね。

(Nao

 

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