専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
急性膵炎のはなし7 抗菌薬は使うな
急性膵炎シリーズも残すところあと少しです。そして、本日の話題は急性膵炎シリーズで最も伝えたいことと言っても過言ではありません。これは、ガイドラインでも強く主張されていることですので、先に結論をお伝えしておきます。
「軽症膵炎では抗菌薬を使うな」
研修医の先生に、急性膵炎の患者さんの治療プラン立ててみてというと、まず成因評価、重症度評価はしてくれることが多いです。で、実際の治療プランを立てていくとなると、抜けるのが疼痛管理(ガイドラインでも文章量が少ないので、今回は触れません)、入れすぎなのが抗菌薬です。輸液量を最初から完璧にプランしてくれる先生はなかなかいないのですが、これはやむを得ないでしょう。前回の通り、輸液は奥が深いのです。
さて、抗菌薬を入れた先生に理由を問うと、「炎症反応が高かったので」と言われます。
そりゃあ炎症反応は高いでしょう。だって膵炎なのだから!最近流行りのCOVID-19(純粋にSARS-CoV-2感染の症例)に対してCRPが高いからと言って抗菌薬が有効ですか?癌で腫瘍性にCRPが上がっている患者さんに抗菌薬は有効ですか?潰瘍性大腸炎が増悪してCRPが上昇している患者さんは抗菌薬を投与したらCRPが下がるのですか?研修医の先生方、CRPが上がっているから抗菌薬を投与するという考えはいい加減捨てましょう!
急性膵炎でCRPが上がっているのはなぜなのか? 急性膵炎で抗菌薬が有用な場面はなにか? まず、これを検討しましょう。
まず急性膵炎でCRPが上昇する理由についてお話しします。これは、細菌感染症による炎症反応の上昇ではなく、化学炎症によるものです。つまり、タンパク分解酵素により「自己消化」がおこったことによる炎症反応の上昇なのです。「まだ」細菌感染は成立していません。ですので、急性膵炎での抗菌薬は原則的に不要なのです。
しかしながら、壊死組織、というのは栄養もたっぷりで細菌感染をきたし、しかも血流が届かないので膿瘍化する可能性もあります。
実際、膵炎の治療では亜急性期~回復期にきたした感染が治療を難渋させます。ですので、抗菌薬が必要な症例、不要な症例を分ける必要があります。
これまでの研究で「重症例での早期抗菌薬投与(壊死部への感染が成立してからでは抗菌薬の影響が十分に及ばないからだと考えます)」が有効であるということが明らかにされています。投与する場合はカルバペネム系など広域スペクトラムな抗菌薬を選択します。しつこいですが、軽症例では抗菌薬は不要です。今後は「CRPが高いので抗菌薬入れました」は厳禁です。
しかし、重症度に関わらず抗菌薬を投与する場面があります。それは胆石性膵炎で胆管炎を合併している時です。この時は胆道感染症として抗菌薬を入れましょう。
話が長くなりすぎたので、もう割愛しますが、腸管滅菌(選択的消化管除菌)というものが僕が医者になったころはされていましたが、今はエビデンスがないとのことでガイドラインでは非推奨です。経口の抗菌薬をかませるようにと上級医から指示があった場合は、ガイドライン見ながらその必要性を再度確認しましょう。
急性膵炎は最終的に感染との戦いになることも多いです。適切な抗菌薬の投与を心がけるようにしましょう。この後、経腸栄養の話なども出ますが、重症の膵炎の場合は感染コントロールが非常に大切になります。経腸栄養も実は感染コントロールのために大切なのです。
最後になりますが、偉そうに色々書いていますが、僕も抗菌薬の適正使用についてICTからたびたび指導を受けています。正直抗菌薬苦手なのでわかんないことも多いです。僕も勉強しながらより適切な抗菌薬使用を行えるように励んでいます。抗菌薬の適正使用は、未来の医療のために重要なことです。
(Nao)
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急性膵炎のはなし6 蛋白分解酵素阻害薬
さて、膵炎の治療で議論が尽きないのが、蛋白分解酵素阻害(膵酵素阻害薬と表現されることもあります)の投与の是非です。ガイドラインでは「推奨」とはなっていません。でも、多くの施設で投与されているのが実情ではないでしょうか。
これまでの研究データを考えると、軽症~中等症にあっては投与については不要ではないかというのが個人的な意見です。医療費を挙げることにつながってしまっているだけで、予後の改善には寄与していない。重症については論文により結論に差があります。ガベキサートメシル(FOY)の投与が有効性が示唆される論文もあります。
蛋白分解酵素阻害薬は、僕は正しくは海外の実情を知らないのであくまで一般的に言われているところによると、海外では蛋白分解酵素阻害薬はほぼ使用されていないが日本ではかなり積極的に使用されている。という風に言われています。海外で積極的な検討がされていないので、なかなか大規模な研究結果が出ない、という側面はあるかもしれません。
蛋白分解酵素阻害薬が10年後、20年後にどのように推奨が変わっていくのか注目です。
(Nao)
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急性膵炎のはなし5 急性膵炎と内視鏡
急性膵炎に内視鏡がかかわるのか。実は3通りのかかわり方があります。
1つ目は内視鏡検査の結果としての膵炎。
ERCP後膵炎や、当院では経験がありませんがEUS-FNA後の膵炎、経口ダブルバルーン内視鏡後の膵炎などがあります。
2つ目は胆石性膵炎に対しての治療としての内視鏡。
3つ目は重症急性膵炎後の被包化壊死などに対しての治療としての内視鏡。
3つ目はまたお話しする機会があるかと思いますので、今回は2つ目についてお話しします。
胆石性膵炎に対しての内視鏡治療の姿勢は、多少施設によって差があると考えます。ガイドラインに照らし合わせると、胆管炎合併例、胆道通過障害の遷延が疑われる症例では早期のドレナージを考慮するとなっています。胆管炎合併例は当然緊急治療を行ったほうが良いです。当院では必ず速攻で治療します。
では、「胆道通過障害の遷延が疑われる症例」とはどのような症例でしょうか?
遷延が疑われる、ということは他院ですでに経過見られた症例ならともかく、自分で診断した症例の場合は半日~1日程度経過観察することになります。それでは、その間に重症化してしまう可能性がある。
当院では、ただ胆管結石併存の膵炎は当然緊急ERCPは見送りますが、症状やデータが改善傾向でない限り、それ以上の重症化を阻止するために原則的に緊急でERCPを行っています。そのおかげか、胆石性膵炎で診断時よりさらに重症化するという症例はかなり稀です。
ただ、ERCPにより膵炎を重症化させる恐れがあるということは常に念頭に置いて治療適応を検討すべきですので、その点は抑えていてください。
膵炎の話題はさらに続きます。
(Nao)
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急性膵炎のはなし4 治療のバンドル
バンドルとは“束”のことですが、ここでは急性膵炎のより良い治療を行うために、実践すべき医学的根拠の高い治療を示しまとめたものをバンドルと呼んでいます。これは別に僕が言っていることではなくガイドラインで示されたもので、膵炎に限らず多くのガイドラインで“バンドル care bundle”は使われています。
実は急性膵炎の治療において実臨床ではこのバンドルを遵守した治療が行われていないことがわかり、より実践度を高めることを目的としてガイドラインの改定が行われましたので紹介していきます。最後に、バンドルの中のコアバンドル(あくまで個人的なやつですが)を示しますので、結論だけ見たい方は最後まで飛んでください。
1.急性膵炎診断時、診断から24時間以内、24-48時間の各々の時間帯で、厚労省重症度判定基準の予後因子スコアを用いて重症度を繰り返し評価する。
⇒ 当科では診断時は当然ですが、翌日、翌々日は連日採血をします。翌々日は全身状態に応じて全例ではないですが、造影CTを含めた画像評価を行います。
2.重症急性膵炎では、診断後3時間以内に、適切な施設への転送を検討する。
⇒ 当院は重症膵炎を診る施設ですので、膵炎の紹介は一切断らないようにしています。
3.急性膵炎では、診断後3時間以内に、病歴、血液検査、画像検査などにより、膵炎の成因を鑑別する。
⇒ 特に胆石性は必ずチェックします。
4.胆石性膵炎のうち、胆管炎合併例、横断の出現または増悪などの胆道通貨障害の遷延を疑う症例には、早期のERCP+ESTの施行を検討する。
⇒ 当院はほとんどすべての症例で診断後数時間のうちにERCPを行っています。
5.重症急性膵炎の治療を行う施設では、造影可能な重症急性膵炎症例では、初療後3時間以内に造影CTを行い、膵造影不良域や病変の広がりなどを検討し、CT gradeによる重症度判定を行う。
⇒ 造影CT可能な施設ではどこでも膵炎と診断したときには造影CTを考慮すべきと考えます。
6.急性膵炎では、発症後48時間以内はモニタリングを行い、初期には積極的な輸液療法を実施する。
⇒ これは別に説明しますが、膵炎の治療=大量輸液と言っても過言ではないくらい大切なことです。
7.急性膵炎では、疼痛のコントロールを行う。
⇒ 以前は、ソセゴンは乳頭括約筋を収縮させ、膵炎を増悪させるといわれていた時代がありましたが、現在は予後に影響しないと研究で結論付けられています。必要な症例では積極的にオピオイドを含めた鎮痛を行います。
8.軽症急性膵炎では、予防的抗菌薬は使用しない。
⇒ これは非常に大切なことですが、残念なことに多くの消化器科医がルーチンで抗生剤投与します。これを読んだ皆さんはぜひ正しい抗生剤使用を心がけましょう!
9.重症急性膵炎では、禁忌がない場合には診断後48時間以内に経腸栄養(経胃でも可)を少量から開始する。
⇒ これは別の記事で触れますが、自分でも守れていない。でも非常に大切です。
10.感染性膵壊死の介入を行う場合には、step-up approachを行う。
⇒ 超音波内視鏡の普及、技術確立により内科の治療選択幅の広がり、救命率の向上につながっている分野です。これは機会があれば別に触れます。
11.胆石性膵炎で胆嚢結石を有する場合には、膵炎鎮静後、胆嚢摘出術を行う。
⇒ これはまぁそうですよね。
以上が急性膵炎のバンドルになりますが、項目が多いのでさらにまとめます。
膵炎の治療は、多くの先生がこだわりをもって行っておられると思われ、当院でも消化器内科的approachと救急科的approach(私は病院前診療のOJTを行っているので救急科の先生との交流も深いのです)に違いがあるなと感じています。ですので、私と意見が合わないなというエキスパートの先生がいらっしゃれば、私自身のアップグレードのためにも是非ご意見をご教授いただけたら嬉しいです。
さて、個人的なコアバンドルですが、急性膵炎の治療は
・初期のバイタルの安定
・心不全との戦い
・多臓器不全を起こさせない
・回復期の炎症のコントロール
がカギになります。
そのために
1.重症度の正しい評価
2.大量輸液
3.しっかりとした鎮痛
4.適切な抗生剤使用
5.早期からの腸管使用
が重要です。
引き続き、必要と思われる項目については各論で触れていきます。
(Nao)
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急性膵炎のはなし3 輸液
今回は急性膵炎と輸液についてです。
急性膵炎の治療で一番大切な治療は何でしょうか? それは大量輸液です。1にも2にも大量輸液、これが大切です。
急性膵炎でなぜ大量輸液が必要なのか。それは、重篤な炎症が膵および膵周囲で引き起こされることにより、炎症性サイトカインが放出され、血管透過性が非常に亢進します。すると、血管内の水分がいわゆる”3rd space”に流れることで、血管内脱水を引き起こします。結果DICを引き起こしたり、血流障害から多臓器不全に至ったりするわけです。
さて、血管透過性が亢進した患者さんに大量輸液をしたらどうなるでしょうか。そう、全身パンパン、浮腫みまくります。なので、重症膵炎の患者さんは、最初っからトリプルのCV入れちゃいましょう。膵炎の輸液1個目のポイントは、重症は最初からCV、です(ガイドラインに書かれているわけではありません)。
輸液の種類ですが、基本的には細胞外液です。乳酸リンゲル液vs生食の研究がなされていますが、乳酸リンゲル液のほうが予後が良いことがわかっています。生食の大量輸液による高クロール性代謝性アシドーシスが一因になっているでしょう。なお、乳酸リンゲル液以外の酢酸リンゲルや重炭酸リンゲルを含めた試験は僕が調べた限りでは大規模なものは見つけられませんでした。人工膠質液については有効であるデータは示されておらず、現時点では推奨されていません。ということで、輸液の第二段階としては、細胞外液の輸液が重要である、ということを押さえておきましょう。
次に、その輸液速度や量の目安についてです。輸液速度や輸液量の決定には、搬入時の腎障害の程度やCTでの炎症の広がり方から本物の重症膵炎か、偽物の重症膵炎か(ただ重症判定基準を満たしただけのものは偽物。膵虚血を伴っていたり、診断時点で腎機能の低下をきたしていたりするものを本物などと呼んでいます。がこれは個人的なものです。)など、考慮すべき点が多数あります。
輸液を量で管理するか、速度で管理するかは医師や施設で意見の分かれるところだと思います。当院でも一致していません。僕はオーダーの見やすさから「量」で管理していますが、本物の重症膵炎などの場合は「速度」で管理しています。なのでとりあえずは「速度」で管理することを覚えるほうが良いかと思います。輸液速度(量もですが)の決定に重要なのは、血圧が保たれているか、脱水をきたしていないか(尿量が保たれているか)、元々の腎不全や心不全はないか、という部分になります。
僕の個人的な意見としては、脱水でDICを増長したり腎不全をきたしたりするとじり貧になってしまうので、僕は悩んだときは多めに入れます。心不全になったら引く。水分過多は利尿薬やCHDFという次の手がありますが、脱水が遷延したときは合併症が待っている、という風に考えています。(他のエキスパートの意見があれば、是非ご教授ください)
そのうえで、vitalの目標をたて、本物の膵炎であれば体格などにもよりますが200-300ml/h程度で輸液を開始することが多いです。経験の浅い先生は必ず指導医の意見を仰ぐことを進めます。個々の輸液量の決定は非常に重要です。Vitalの目標は平均動脈圧65mmHg以上、尿量を0.5ml/kg/hをクリアすることとしています。
具体的な看護指示は
「sBP 80mmHg以下の時Dr.call」
⇒ call来たら輸液速度を50ml/h程度upを考慮します。呼吸状態や尿量次第では昇圧薬の併用を考慮します。
尿量 100ml/2h以下の時Dr.call(体重60kgの男性として、最低目標ラインは60ml/2hでよいですが、ぎりぎりすぎるよりは多めに入れるべく、余裕を持った指示にしています)
⇒ call来たら輸液速度を上記のように検討してup。
尿量が不足している場合に、ラシックスできっかけを作ってあげることもありますが、それには脱水がないことを確認すべきです。一番良いのは中心静脈圧測定やエコーでIVCを評価してあげることです。本物の重症膵炎を診ているときは、気になるときはもう行って直接視るというのを癖づけたほうが良いと思います。ということで、輸液の第三段目はvitalを診ながら200ml/h以上の速度での輸液を考慮、です。
膵炎の記事は長い! 本文中にも書きましたが、もしエキスパートの先生でご覧になった先生で、知識を分けてくださる先生いらっしゃいましたらご教授いただけましたら幸いです。
(Nao)
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専門診療科の決め方
新年度ももうすぐですが、J1のあなたは3年目からの専門研修をどうするか、いろいろとリサーチしていると思います。初期研修が始まったばかりの頃は、目の前のことをこなすのに精いっぱいだったかもしれませんが、今の時期は少し余裕ができて、いろいろなことが見えてくるのではないでしょうか?
当院の研修医も専門研修をどうするのか悩んでいますが、もともと志していた診療科に進む人、ローテーションしてみて興味を持った診療科に進む人、実際にローテーションしてみて当初考えていた診療科は不向きだと気付く人、といろいろあります。以前に当院のマッチング研修医の動向を調べたことがあるのですが、初期研修開始時の希望診療科と3年目で選択した専門診療科が同じだったのは約4割でした。つまり、学生の頃に考えていた診療科はあるけれど、半分以上の人が初期研修中に悩んで悩んで診療科を決めているという感じなのだと思います。
編集長が研修医らに話すのは、どうして医師になったのか?もともと考えていた診療科をどうして選んだのか?そこを、もう一度考えてみることを勧めています。
自分が医師になったきっかけは、実際のところ自分や家族の病気がきっかけだったり、ブラックジャックなどの漫画やドラマでカッコいいと思った、など人それぞれです。
ただ、実際の専門診療科を選ぶとなるともう少し現実的かもしれません。医学生のときと違ってローテーションしてみると、自分は不器用で手技は向かないとか、興味なかったけどすごく才能があって面白くなったとか、その診療科のリズムが合う、合わないということが分かります。他にも上級医の対応がかっこよくて無理だと思っていた患者さんを助けることができたので自分もできるようになりたい、といったことも少なからずあります。
医師という職業はとてもやりがいがありますが、楽な職業ではありません。どの診療科でも、それなりの覚悟は必要です。労働条件とか給料といった条件で比較することも必要ですが、リズムが合うとか、カッコイイという憧れの気持ちも大事にしながら、じっくり考えてみてください。
(編集長)
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急性膵炎のはなし2 診断
今回は急性膵炎の診断についてです。
急性膵炎をまず疑うきっかけとなる症状としては上腹部痛や背部痛があります。自分自身の経験としては、やたら昨日から背中が痛くて病院来てみた。トリアージ看護師が整形外科的な痛みにしては様子が変だということで消化器内科の受診も勧め、当科診察で腹痛も認めたため、採血とエコーしたところ急性膵炎だった、という症例があります。
さて、その診断基準はどのようなものがあるでしょうか。
1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。
2.血中あるいは尿中膵酵素上昇がある。
3.画像検査において膵臓に急性膵炎に特徴的な所見がある。
上記3項目中2項目以上を満たし、他の疾患を除外できたものを急性膵炎と診断する。
それぞれについて掘り下げます。
1.上腹部痛
これは当然ですが、上記3項目のうち必須項目は設定されていません。つまり、腹痛を伴わない膵炎が存在するのです。これは実際、ERCP後膵炎や意識障害できた患者さんの全身検索中などで遭遇しますが、超高齢の患者さんなどでは全く腹痛を訴えないことがあります。腹痛がなくても膵炎の診断にはなりえます。
2.膵酵素上昇
ちょっとでも上がっていればいいのか、カットオフがあるのか、議論があるところですが、正常上限の3倍というのが一つの目安になります。アミラーゼよりリパーゼのほうがより特異的ですが、当院は恥ずかしながらリパーゼが院内検査できないためアミラーゼで代用するしかありません。リパーゼの院内検査を求めてはいるのですが、なんだかんだでアミラーゼで代用できてしまっているのでなかなか院内検査にはなってくれません…。
話を戻しますが、実は、アミラーゼは唾液腺にも含まれているので激しい嘔吐などでは軽度上昇することがあります。そのため急性胃腸炎で嘔吐を繰り返す場合、心窩部の軽度圧痛、アミラーゼの軽度上昇をきたすことがあります。診断基準に入ってしまいますね。そのため、正常上限3倍に満たない症例ではよく病態を検討する必要があります。そもそも診断基準に他の疾患が否定できることって入ってますしね。
3.画像検査
激しい腹痛の患者さんをMRIに閉じ込めるのはかわいそうですし、エコーも痛いですし、何より見てもよくわかんねということで、実臨床ではCTに行ってしまうことが多いでしょう。でも!皆さんが膵炎に出会うのは救急外来がほとんどでしょうから、まず、エコーを当ててみましょう。答え合わせとしてCTを撮る。なんかのモジりですが、いつでもあると思うな金とCT、です。なにより、腹痛の患者さんにエコー当てて、採血結果が出る前に「膵炎だから、造影CTにしよう」と言えたら、かっこよくないですか?
(Nao)
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急性膵炎のはなし1 概要
今回から何回かに分けて急性膵炎についてお話ししたいと思います。
ブログにはちょっと書けない理由なのですが、僕はERCPと膵炎に対しては強い想いをもって消化器内科医になりました。専門医になってからも、ある年末に忘年会で酒をたまたま飲んだ比較的若い男性が重症膵炎になり、全力で治療をしたものの、結局残念な結果になった経験があります。とは言え、膵炎は良性疾患です。一人でも多くの人の命をつなぎとめることができるように、この連載をきっかけに皆さんにも勉強していただけたらと思います。
まず、膵炎はいったいなぜ起こるのでしょうか?
膵臓から分泌されるトリプシンという、大きく言うとタンパク分解酵素があります。正常状態ではこのトリプシンが食物を分解するわけですが、膵内においてはトリプシノーゲンという非活性状態で存在します。トリプシノーゲンは膵臓から分泌されると、十二指腸のエンテロキナーゼという酵素と反応してトリプシンに変化し上記の通りのタンパク分解酵素として働きます。
しかし、これが「何らかの原因によって」膵臓内で活性化されトリプシンになると膵の自己消化が始まり、上記サイクルがどんどん引き起こされて重症化していく。膵炎の発生機序はざっくり上記のような機序で引き起こされると考えられていますが、細かな部分についてはわかっていないことが多いです。
これがERCP後膵炎を完全に制御できないことにもつながってます。一発でカニュレーションが決まって、5分そこそこでドレナージ治療を終えた患者さんが膵炎になったりするんですよね。かと思えば、30分以上時間かけた患者さんがなんともなかったりする…。
閑話休題、膵炎の発生機序は上記の通り、大まかな部分しかわかっていませんが、その発生にかかわる「何らかの原因」にはどんなものがあるでしょうか?
日本においてはものすごくざっくりいうと、アルコール:胆石:その他が1:1:1の割合です。急性期の治療が変わる胆石性については必ず確認する必要がありますが、急性期治療を終えた後の方針が変わる、アルコール性、薬剤性、高脂血症なども当然確認する必要があります。また、絶対外してはいけないのが腫瘍性です。原因のわからない膵炎については、全身状態などにもよりますが、超音波内視鏡を含めたあらゆる手段を用いて原因検索することが求められます。
今日長々書いた内容で伝えたかった事、「膵炎の治療においては、急性期治療とともに原因の検索に最大限務めること」
(Nao)
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内視鏡医はAIに仕事を奪われてしまうのか?
今、医療業界の話題の中心にいるといっても過言ではない、AIにロボット。ご多分に漏れず内視鏡界隈でも、AIや内視鏡ロボットが内視鏡医の仕事を奪うのではないか、と噂されています。
私はといえば、米国の大学でロボットが豚に対して人の助けを得ることなく手術を完遂したとの報道に正直衝撃を受けているところではあります。「手術」だけはまだまだロボットの入る余地はないと信じていたのに。とはいえ現実的に当面は、内視鏡医はいかにうまくAIと付き合うか、という問題になるかとは思いますが、いずれ医者という仕事もロボットに置き換わる日が来るのでしょうか?
現状での内視鏡関連のAIはどうなっているかというと、その役割は大きく分けて、「検出支援」と「鑑別支援」の2つにわけられます。
検出支援とは
病変の可能性がある部位をマークで示し、音で合図してくれる。癌、腺腫、過形成などの区別は付けず、とりあえず「非正常粘膜」と思われる部位を拾い上げていくモード。これまで試した機種(3機種試しました)は現状では、人間と同じく「見て」判断しているため、色調が周囲の粘膜と差異が少ないと検出感度が非常におちる印象です。
今のところ「自分の目よりすごくいい!」という感じはなく、マークと音が目障り、耳障りといったところです。しかも、治療のためポリープを正面視し続けるともう・・・。
鑑別支援とは
見つけた病変が、癌なのか、腺腫なのかなどを判別してくれます。特殊染色や超高倍率が必要な機種から、特殊光と弱拡大だけでいい機種など機種により差はありますが、個人的にはこの鑑別支援が内視鏡医にとってはとても役立つ気がしています。
将来的には異型の程度やがんの深達度を判断してくれるようになるのではないでしょうか。食道病変なんかは異型度や深達度、病変の範囲まで診断してくれちゃったりする日が来たらほんとに頼もしい!特殊光の技術が進んで、AIと組み合わせると深部血管の位置や粘膜下層の繊維化の程度もわかるようになり、一番最初の局注や粘膜切開で大出血を引き当てるなんて言う悲しいことはなくなる日がくるかもしれない!
そんなことを夢見ています。というわけで、内視鏡医にとっても悪い話ばかりではないはずです。
(Nao)
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胃静脈瘤の治療・BRTO(4)
今回はBRTOで用いる塞栓材についてです。
用いられる主な塞栓材には以下のようなものがあります。
・オルダミン(EOI:Ethanolamine oleate with iopamidol)
・NBCA(n-butyl-2-cyanoacrylate)
・金属コイル
・50%ブドウ糖
・エタノール
オルダミン
BRTOで主に使われる塞栓材です。10mlのバイアルに入っているのですが、透視では見えないので10mlのヨード造影剤と混ぜて使用します。胃静脈瘤までの距離が遠い時などはCO2とのフォームを作ると粘稠度が下がり使いやすくなります。
薬剤を停滞させておく必要があるので、翌日までバルーンを閉塞したまま帰室し、翌日に血栓化を造影で確認します。オルダミンの機序は、血管内皮を傷害して血栓閉塞を来すのですが、溶血による腎障害を予防するために使用する直前にハプトグロビンの点滴投与が必要です。
NBCA
TAEなどでも使われている塞栓材ですが、オルダミンのように溶血を来さないので血液製剤であるハプトグロビンを使用する必要がないのがメリットです。ただし、粘稠度が高いので胃静脈瘤までの距離がある時は使いにくいデメリットがあります。
金属コイル
静脈瘤自体を塞栓するために用いるのではなく、側副路の塞栓に用いられたり、バルーン閉塞の代わりに排血路を閉塞させるために用います。
50%ブドウ糖・エタノール
比較的小さい側副路を塞栓させるために用いられます(が、編集長はまだ使ったことがありません)。
症例を提示します。
孤発性の胃静脈瘤でBRTOを施行。右大腿静脈からアプローチしてAsato型のシースを左腎静脈にエンゲージ。そこからGRシャント内にバルーン付きカテーテル(Candis®)を進めてBRTVを行ったところ、胃静脈瘤ははっきり造影されず、傍食道静脈に続く側副路を認めました(廣田分類Grade3)。
矢印が傍食道静脈に続く側副路
この造影では胃静脈瘤本体は
はっきり造影されていません
側副路のフローが速くStepwise injectionでは塞栓不可と判断しましたが、この側副路を越えてバルーンカテーテルを進めることができずDowngrade techniqueも使えませんでした。そのため、この側副路側にマイクロカテーテルを進めてコイル+NBCAで塞栓を行ったところ静脈瘤本体が造影されるようになりました。
矢印はコイルとNBCAで塞栓した側副路
矢頭は胃静脈瘤本体
この状態からオルダミンで塞栓を行い終了しています。
矢印はコイルとNBCAで塞栓した側副路
矢頭はオルダミンが停滞した胃静脈瘤本体
術後のCTでは胃静脈瘤は造影されなくなりました。
左が術前、右が術後
矢印は胃静脈瘤本体(術後は造影されなくなっている)
術前の矢頭はGRシャント、術後の矢頭はコイル
4回にわたってBRTOを紹介してきましたが、孤発性胃静脈瘤を見つけた時は造影CTでGRシャントを探して、あればBRTOを考えてみてください。
(編集長)
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