専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
【循環器内科】M-TEER 50症例達成!
当院での僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対するマイトラクリップが、先日50症例を達成しました!
MRに対する経皮的治療は、経皮的僧帽弁接合不全修復術(M-TEER:Transcatheter Edge to Edge Repair)と呼ばれ、マイトラクリップ™がその代表格です。そして水戸済生会の循環器内科は、茨城県の県央・県北で唯一マイトラクリップ™を導入している施設です。
水戸済生会ではこのマイトラクリップ™を、TAVIと同様に循環器内科の山田先生と川原先生を中心に心臓血管外科や麻酔科、看護師、生理検査技師、放射線技師、ME、リハビリスタッフなどからなるハートチームで適応を判断しながら、症例を重ねてきました。
マイトラクリップ™によってMRが制御されると、それまで心不全を繰り返していた患者さんが、驚くほど元気になることを経験してきました。もちろん経食道心エコーでの詳細な僧帽弁の形態把握は必須で、マイトラクリップ™の適応にならない症例もあります。今後は、M-TEERの新しいデバイスであるPASCAL™の登場で、複雑な解剖学的な条件においても適応されることがあり、治療の選択肢が増えることになります。さらに、三尖弁閉鎖不全症に対するT-TEERの導入も見込まれており、循環器疾患の中でもホットな分野となっています。
もしあなたが循環器内科を考えていて、TEERにも取り組んでみたいなら、ぜひお問い合わせください!
(編集長)

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肺高血圧の臨床分類(3)
改訂されたガイドラインから、肺高血圧の臨床分類について紹介していますが、今回は第4群と第5群です。
第4群は、「肺動脈の閉塞に伴うPH」ということで、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧(CTEPH)が有名です。その他に、比較的太い肺動脈を閉塞する肺動脈肉腫などの腫瘍,肺動脈炎,肺動脈狭窄症なども含まれています。
CTEPHは疾患の認知度が高まり、指定難病登録者数も増加しています。これは肺血管拡張薬の使用やバルーン肺動脈形成術(BPA)の普及によって、予後が改善されうる疾患としてスクリーニングが積極的に行われるようになったことが理由として挙げられると思います。
第5群は、「詳細不明および/または多因子のメカニズムに伴うPH」となっており、PHに関連する種々の疾患群を含んでいます。ガイドラインの改定前と異なる点として,肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTM)が明記されたり、第5群に分類されていた甲状腺疾患がPHの臨床分類から除外され、複雑先天性心疾患が記載されたそうです。

(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
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肺高血圧の臨床分類(2)
改訂されたガイドラインから、肺高血圧の臨床分類について紹介していきます。今回は第2群と第3群です。
第2群は左心疾患に伴うPHですが、PHのなかで頻度が最も高く①心不全、②心臓弁膜症、③後毛細血管性PHの原因となり得る先天性/後天性の心血管疾患の3つに分類されています。③の具体例としては、ASDやVSDをイメージすれば分かりやすいと思います。
第2群における肺高血圧の主因は、左心疾患による左室充満圧の上昇→左房圧上昇→肺静脈圧上昇→肺動脈圧上昇であり、通常はPVR(肺血管抵抗)の上昇を伴いません。これをisolated postcapillary PH(IpcPH)と呼びます。しかし、肺動脈圧上昇から、さらに肺動脈収縮およびリモデリングを起こしてPVR上昇をきたしたものを、combined pre- and postcapillaryPH(CpcPH)と分類しています。このCpcPHは、特にHFrEF患者において、治療により一見PAWP(肺動脈楔入圧)が低くなっている場合もあり、そのため第1群との誤分類に注意する必要があります。
第3群は慢性肺疾患および/ または低酸素症に伴うPHで、肺実質障害に伴う血管床の減少や低酸素性肺血管攣縮,および肺血管リモデリングが主因です。ただし、肺実質疾患に伴うPHの多くは軽症~中等症で、重症PHの合併率は高くないようです。例えば、肺移植待機中の進行COPDでもmPAP≧25 mmHgのPHの有病率は36%で、mPAP≧35 mmHgの重症PHでみると3.9%という報告があるそうです。他にも拘束性換気障害が重篤でない特発性肺線維症における重症PHは4%と報告されています。
他には、睡眠時無呼吸症候群単独でPHを呈することは少ないものの、日中の高二酸化炭素血症を伴うような肥満性低換気症候群や、COPDを合併したオーバーラップ症候群ではPHの発症リスクが増加するようです。

(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
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肺高血圧の臨床分類(1)
今回は改訂されたガイドラインから、肺高血圧の臨床分類について紹介していきます。
この臨床分類は、PHに関連する臨床状態について,類似した病態生理学的メカニズム、臨床および血行動態学的特徴、治療管理にもとづいて、以下の5つに分類されています。
第1群:PAH
第2群:左心疾患に伴うPH
第3群:慢性肺疾患および/または低酸素血症に伴うPH
第4群:肺動脈の閉塞に伴うPH
第5群:詳細不明および/または多因子のメカニズムに伴うPH
まずは第1群のPAHから見ていきましょう。第1群は肺動脈のリモデリングをきたすことにより典型的なPHの臨床像を示す疾患群で、さらに6つに分類されています。
その6つとは①特発性、②遺伝性、③薬物・毒物に関連するもの、④膠原病を代表とした各種疾患に伴うもの、⑤PVOD・PCHの特徴をもつもの、⑥新生児遷延性PHです。
①の特発性は他のPAHが否定された場合に分類されるもので、頻度の最も多いものです。この中で、急性血管拡張反応陽性で高用量Ca拮抗薬の長期有効例は長期予後がきわめて良好であることが知ら得れており、第1群のなかに「Ca拮抗薬長期反応例」として分類されています。
②の遺伝性は家族性とPH疾患関連の遺伝子変異を認めたものを指します。
③の薬物,毒物に関連するPAHがあります。原因薬剤が明確なものとそうでないものに分かれますが、食欲抑制剤であるフェンフルラミンやデクスフェンフルラミン、アミノレックス といった薬剤や漢方薬に含まれる成分、インターフェロン、チロシンキナーゼ阻害薬でもPHをきたす報告があるそうです。
④の各種疾患に伴うPAHの基礎疾患には、④ -1結合組織病(CTD,膠原病)、④-2 HIV感染、④-3門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症(PoPH)、④ -4先天性心疾患(CHD)、④-5住血吸虫症があります。特に結合組織病(膠原病)を伴うPAH(CTD-PAH)は,特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)に次いで症例数が多く、わが国では基礎疾患として強皮症(SSc)、混合性結合組織病(MCTD)、全身性エリテマトーデス(SLE)があります。
⑤の静脈/毛細血管病変(PVOD/PCH)の特徴をもつPAHは、今回のガイドライン改訂で第1群の1つとして新たに分類されたものですが、肺静脈のみの病変を示すものではなく,肺動脈・肺静脈に連続したリモデリングを伴う疾患です。
⑥のPPHNは、新生児で出生後に肺高血圧が遷延する病態を指しています。
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
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肺高血圧の定義
日本循環器学会では各種のガイドラインを出しており、2025年春に改訂版としていくつかのガイドラインがリリースされていますが、その中から8月までVTEについて紹介してきました。今回からその続きで肺高血圧についても紹介していきます。
以前も紹介した通り、VTEと肺高血圧のガイドラインは、それまでの「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン」、「肺高血圧症治療ガイドライン」そして「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplasty(BPA)の適応と実施法に関するステートント」の3 つを統合して新たに改訂されたものです。
これは、肺高血圧症に対する薬物治療やBPAのエビデンスが多数出てきて、診断・治療の内容が大きく変わっていることを受けてのことです。編集長としては、ちょっと苦手な領域なのですが、役立ちそうなところを順不同で紹介していきます。
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さて、最初は肺高血圧の定義の確認です(何ごとも定義がどうなっているのかを把握しておかないと、話がだんだん分からなくなります)。
肺高血圧(PH)は、「右心カテーテル(RHC)検査により測定した安静仰臥位の平均肺動脈圧(mPAP)>20 mmHg」と定義されています。
昔の定義では>25mmHgだったのですが、2022年に改訂された欧州のガイドラインに採用され、現在の世界標準となっています。
また、ご存じのようにPHは左心疾患や心拍出量(CO)の増加、胸腔内圧上昇などに影響されます。このため、mPAP上昇から区別するために、肺血管抵抗(PVR)と肺動脈楔入圧(PAWP)も定義に含めることが必要となるので、
ガイドラインではPVR>2 Wood単位、PAWP≦15 mmHgと定義されています。
逆に、例えば純粋な左心不全でPHを来している場合(≒後毛細血管性肺高血圧症:pcPH)は、mPAP>20mmHg、PVR≦2 Wood単位、PAWP>15mmHgということになります。
さらに、運動でもmPAPは上昇しますが、正常では運動中のmPAPは,COが10 L/分において30mmHgを超えない,またはmPAP/COの傾きが3 mmHg/L/分を超えないとされるので、運動時PHは、運動時におけるmPAP/COの傾きが3 mmHg/L/分を超える場合と定義されています。
運動時の血行動態には年齢依存性があり、高齢者は若年者よりもmPAP/COやPAWP/COの傾きが急峻です。また運動時PHは、労作時息切れ患者、心血管系疾患における予後不良、膠原病、特に全身性強皮症(SSc)患者のPH発症や生命予後と関連しています。
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
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EVTワークショップ@水戸済生会
水戸済生会の循環器内科では、虚血や不整脈以外にも、末梢動脈疾患(PAD)に対するカテーテル治療(EVT)も多く行っており、県内有数の症例数を誇る施設です。
PADは下肢切断に至ることもある重篤な疾患でEVTによる血行再建以外にも血管外科や形成外科、リハビリなど、多診療科・多職種での取り組みが必要です。
しかし、特に透析患者さんでは高度石灰化などのため難易度の高い症例が多くを占めており、我々では太刀打ちできない症例があることも現実です。そのため以前からEVTのレベルアップのために、この領域で国内トップオペレーターの先生方にお越しいただいて指導を受けてきました。
先週は新東京病院の朴澤先生と春日部中央総合病院心臓病センター顧問の安藤先生という、日本EVT界の二大巨頭にお越しいただきました。

術者が朴澤先生(後ろが安藤先生)
今回は3症例で、高度石灰化SFA+BK症例、SFAのCTO、SFAのステント閉塞という厳しい症例ばかりでしたが、最終的には見事に成功させていました。循環器内科の若手も積極的に助手に入り、達人の手技を間近で見ることができました。この学びを忘れないうちに、次の自分の手技で生かしてもらえると思います。
循環器領域では学会レベルでライブが開催されていますが、やはり上手な先生がやっているすぐ脇で見ることができて、思わずつぶやいてたことやデバイスの変更をしたタイミングなどをその場で質問できるのが、ライブにはないワークショップの良いところです。しかも今回は2人の先生の戦略の違いをリアルタイムで聞けるという、貴重な機会になりました。
水戸済生会の循環器内科では、これからもEVTに限らず、診療のレベルアップに取り組んでいきます。
(編集長)

こちらは安藤先生が術者
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https://recruit-mito-saisei.jp/entry
内科系(非手術)入院患者のVTE予防
前回までは妊娠中および分娩後のVTE予防についてガイドラインからシェアしましたが、今回は手術を行わない内科系疾患入院患者のVTE予防についてです。
ちょっと考えてみて欲しいのですが、内科入院の患者さんは、高齢でベッド上で動けない(動かない)方が多く、CVが入っていたり、食事の十分摂取できなかったり、担癌患者だったり、発熱していたりと、VTEのリスク因子を非常に多く持っている人ばかりです。
実際のところ外科系と比較して、内科系(非手術)入院ではVTE予防管理の実施率が外科の59.2%に比べ7.3%と低く、PTE発症率が高かった(0.119% vs. 0.095%)ことが報告されていて、周術期だけでなく手術を行わない内科系疾患の入院患者でも、VTEの予防策の重要性が示されています。
一方で、内科系疾患といっても脳出血や出血性胃潰瘍、悪性腫瘍など出血に注意しなければいけない患者も含まれており、周術期のように分かりやすい予防策はガイドラインでも示されていません。ですが、ガイドラインでは原則的なところを推奨しているので、一度は目を通しておくと良いと思います。
まとめると、
・早期離床:動ける患者さんは、どんどん動いてもらう
・VTEのリスクが多く重なっている場合、出血の問題がないのであれば抗凝固療法を考慮
・弾性ストッキングはエビデンスに乏しく、やるならフットポンプ
・ICUなどの重症患者では抗凝固療法かフットポンプ。ただし両者の併用は推奨されない
ちなみに、内科系疾患の患者でも、VTEの高リスク患者では退院後(特に6週間以内)もVTE発症リスクが高まると報告されているそうです。一律には推奨されていませんが、40日間程度の予防的抗凝固療法により,そのリスクを抑制できるというデータも紹介されています。


(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
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分娩後のVTE予防
前回は妊娠中VTEについてガイドラインからシェアしましたが、今回は分娩後の産褥期でのVTE予防についてです。
ご存じかもしれませんが、妊娠中だけでなく分娩後の産褥期(一般的には分娩から6週間を指します)もVTEのリスクが高く、妊娠中と同様の注意が必要とされています。特に分娩後数日間はリスクが高く、帝王切開後はさらに上昇します。患者さんも動けるようになるので、医療者側も油断しがちな時期です。患者側はもちろんですが、医療者側への啓発も重要になります。
妊娠中と同様にVTE予防の基本は理学的予防法(下肢の運動,弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法)で、さらにハイリスクの産褥婦に対して抗凝固療法を上乗せすることになります。
【第1群 分娩後のVTE高リスク妊娠】
• 以下の条件にあてはまる女性は、分娩後の抗凝固療法あるいは抗凝固療法と間欠的空気圧迫法との併用を行う
1)VTEの既往
2)妊娠中にVTE予防のために抗凝固療法が行われている
【第2群 分娩後のVTE中間リスク】
• 以下の条件にあてはまる女性は分娩後の抗凝固療法あるいは間欠的空気圧迫法を行う
1)VTEの既往はないが血栓性素因があり,第3群に示すリスク因子が存在
2)帝王切開分娩で第3群に示すリスク因子が2つ以上存在
3)帝王切開分娩でVTE既往はないが血栓性素因がある
4)母体に下記の疾患(状態)が存在
分娩前BMI 35kg/m2以上、心疾患、肺疾患、SLE(免疫抑制剤の使用中)、悪性腫瘍、
炎症性腸疾患、炎症性多発性関節症、四肢麻痺・片麻痺等、ネフローゼ症候群、
鎌状赤血球症(日本人にはまれ)
【第3群 分娩後のVTE低リスク(リスク因子がない妊娠よりも危険性が高い)】
• 以下の条件にあてはまる女性は分娩後の抗凝固療法あるいは間欠的空気圧迫法を検討する
1)帝王切開分娩で下記のリスク因子が1つ存在
2)VTE既往はないが血栓性素因がある
3)下記のリスク因子が2つ以上存在
35歳以上、3回以上経産婦、分娩前BMI 25~ 35、喫煙、分娩前安静臥床、
表在性静脈瘤が顕著、全身性感染症、第1度近親者にVTE既往歴、産褥期の外科手術、
妊娠高血圧腎症、遷延分娩、分娩時出血多量(輸血を必要とする程度)
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
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妊娠中のVTE予防
妊娠中の女性は、VTEのリスクが4~5倍増加し、産褥期は20倍に増加することが知られています。
当院には総合周産期母子医療センターがあるため、妊娠中から産褥期、さらにその後のVTE管理を行う機会が多くあります。どのような妊婦さんがハイリスクで、予防策を行うべきなのかは知っておくべき内容ですので、今回は妊娠中のVTE予防についてシェアします。
妊娠中のVTE予防の基本は理学的予防法(下肢の運動,弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法)になります。さらにハイリスク妊婦に対して抗凝固療法を上乗せすることになります。
妊娠中のVTEのリスク分類と抗凝固療法の推奨については以下のようになりますが、第1群(高リスク群)には抗凝固療法を行い、第2群(中間リスク群)と第3群(低リスク群)に該当する症例の妊娠期間中の手術後には予防的抗凝固療法を行うかたちになります。
【第1群 妊娠中のVTE高リスク妊娠】
• 以下の条件にあてはまる女性は妊娠中の抗凝固療法を行う
1)2回以上のVTE既往
2)1回のVTE既往,かつ以下のいずれかがあてはまる
a)血栓性素因がある
b)既往VTEはi)妊娠中,ii)エストロゲン服用中のいずれかで発症した
c)既往VTEは安静・脱水・手術などの一時的なリスク因子がなく発症した
d)第1度近親者にVTE既往がある
3)妊娠成立前よりVTE治療(予防)のための抗凝固療法が行われている
【第2群 妊娠中のVTE中間リスク】
• 以下の条件にあてはまる女性は妊娠中の抗凝固療法を検討する
• 以下の条件にあてはまる女性は妊娠中手術後には抗凝固療法を行う
1)1回のVTE既往があり,それが安静・脱水・手術など一時的リスク因子による
2)VTE既往がないが以下の条件にあてはまる
a)血栓性素因がある
b)妊娠期間中に以下の疾患(状態)が存在
心疾患,肺疾患,SLE(免疫抑制剤の使用中),悪性腫瘍,炎症性腸疾患,炎症性多発性関節症,
四肢麻痺,片麻痺等,ネフローゼ症候群,鎌状赤血球症(日本人にはまれ)
【第3群 妊娠中のVTE低リスク(リスク因子がない妊娠よりも危険性が高い)】
• 以下の因子を3つ以上有する女性は妊娠中の抗凝固療法を検討する
• 以下の因子を1つから2つ有する女性は妊娠中のVTE発症に留意する
VTE既往がないが以下の因子を有する
35歳以上,妊娠前BMI 25kg/m2以上,喫煙,第1度近親者にVTE既往歴,安静臥床,
長期間の旅行,脱水,表在性静脈瘤が顕著,全身感染症,妊娠中の手術,卵巣過剰刺激症候群,]
妊娠悪阻,多胎妊娠,妊娠高血圧腎症
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
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Impellaのハンズオン
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血栓性素因はどこまで調べればよい?
誘因のはっきりしないDVTやPTEの患者さんを見た時には、背景に血栓性素因がないかを考える必要があります。そんな時にスクリーニングの検査として何をチェックしたらいいのか、迷ったことはありませんか?
ガイドラインでは、血栓性素因を想定する状況として、以下を挙げています。
・40歳代以前のVTEの発症
・再発性の症例
・家族歴に若年性の血栓症がある
・まれな部位(門脈血栓・脳静脈洞血栓など)の血栓症を合併している
本邦でみられる血栓性素因には
・先天性:プロテインC欠乏症,プロテインS欠乏症,アンチトロンビン欠乏症
・後天性:抗リン脂質抗体症候群(APS)
が挙げられています。特に日本人ではプロテインSの量的,質的異常が相対的に多いとされて、またAPSではAPTTの延長や抗核抗体などの自己免疫検査陽性例では特に注意が必要です。逆に、欧米に多いとされる凝固第V因子Leiden遺伝子変異やプロトロンビンG20210A変異は日本人ではきわめてまれです。
スクリーニング検査としては、以下の項目をチェックしましょう。
・先天性素因に対して、プロテインC活性、プロテインS活性、遊離型プロテインS抗原量、アンチトロンビン活性
・APSに対して、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピン-β2グリコプロテインI抗体
検査の際の注意点としては、
①血中アンチトロンビン活性の測定はヘパリン使用時に採血すると活性が低下する.
②プロテインCおよびプロテインSはワーファリン投与中には低下する。このため、ワーファリン投与前の検体を保存しておく。
③本邦では遊離型プロテインS抗原量が正常値となるプロテインS異常症プロテインSK196Eバリアントの保有者が多いことから、プロテインS活性の測定もあわせて行う.
④ DOAC内服時はDOACの種類や測定法によってはプロテインCやプロテインS活性値が偽高値となることがある
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