
専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
DOACはいつまで継続するのか?
80歳の男性が大腸がんの手術を受けて退院したのですが、退院して数日後から左下肢の腫脹が出現し外来を受診しました。エコー検査で左膝窩静脈レベルに血栓を認めたことからDVTと診断しました。元気な方でしたが、どうやら退院後はあまり動かなかったことがDVTの誘因になったようです。
幸いPTEを起こしておらず、血栓量も多くないのでDOACを処方して外来加療の方針で行けそうです。ご自宅でもできるだけ歩き回るように指導し、ご理解いただきましたが、患者さんから「このお薬はいつまで飲むのですか?」と質問されました。
あなたは何と答えますか?
今回のガイドラインでは、抗凝固療法の継続期間について、以下のように誘因に基づいた再発リスクから5つに分類しています。
表14 誘因を基にしたVTE 再発リスクの分類と抗凝固療法の投与期間
この背景にあるのは、過去の研究から
・どのような患者群でも最低3ヵ月の抗凝固療法が継続されるべき。
・3ヵ月を超えて抗凝固療法を継続すると、VTE再発リスクを低減できる一方で、出血リスクがやや増加する。
ということが示されていますが、過去の研究で用いられてきたワーファリンに比べて、DOACによる抗凝固療法では出血リスクが小さいと考えられています。このため最新の国際ガイドラインでは再発リスクが低くない患者に対して、より長期の抗凝固療法継続を推奨しており、今回の改定でもそれに沿った形になっています。
冒頭の症例では、大腸がんの術後と身体活動の低下の影響でDVTを発症したと考えると、一過性の誘因と言えます。大腸がんの活動性をどう定義するかは次回に紹介しますが、手術で取りきれたとしても長期に服用することが推奨されています。
なお、付加的に考慮すべき再発の危険因子というのもガイドラインに記載されていますが、その中で重要なのが血栓部位と再発例です。
一般にはPTE>中枢型DVT>下腿型DVTの順に再発リスクが高いとされており、PTEなど重篤な部位の場合はより長期の抗凝固療法を検討すべきでしょう。また再発例のVTEは再々発リスクが高いとされ、特に一過性のメジャーな因子が関与しなかった場合に、特に付加的に考慮されます。
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
(編集長)
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DVTの時にはリハビリはやって良い?
日本循環器学会では各種のガイドラインを出していますが、学会のサイトから無料でダウンロードできるという太っ腹な対応をしてくれているので、あなたも是非利用することをお勧めします。
この春も2025 年改訂版としていくつかのガイドラインがリリースされていますが、その中でも「肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」は大きく改定されたガイドラインの一つです。
今回は、これまで発行されてきた「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン」、「肺高血圧症治療ガイドライン」そして「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートント」の3 つを統合して新たに改訂されています。編集長もようやく新しいガイドラインを拾い読みし始めたところですので、役立ちそうなところを順不同で紹介していきます。
あなたは、担当している入院中の患者さんにDVTがあることが分かると、看護師さんやリハビリのスタッフから「トイレまで歩かせて大丈夫ですか?」とか「リハビリはベッド上にしておきました」と言われた経験はありませんか?ホントにその対応で良いのでしょうか?
今回のガイドラインでは、「DVTの理学療法(推奨表15)」として、この点を明確にしています。
推奨表15 DVT の理学療法に関する推奨とエビデンスレベル
従来DVTの急性期では離床や歩行などによって血栓を遊離させてしまい、肺血栓塞栓症(PTE)を発症する危険性があると考えられていました。このためベッド上安静が行われてきたという経緯があります。しかし,適切な抗凝固療法を行えば、早期に離床、歩行を行っても、新規のPTE発症は増加しないことやDVTの血栓は伸展しないこと,さらに下肢疼痛が改善することが報告されています。
つまり抗凝固療法下で浮遊血栓を伴わない、下肢疼痛が強くない、全身状態が安定しているなどの条件がそろえば、ベッド上安静ではなく早期離床、歩行することが推奨されます。
一方で抗凝固療法を行っていても、浮遊血栓を伴う場合はPTEの発症率が高いと報告されているので、この場合は慎重な判断を要します。編集長であれば、もしPTEに至った場合に血行動態に大きな影響が出ないか、具体的には血栓範囲や肺高血圧の有無、心機能などを総合判断して、離床やリハビリを判断していきます。
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
(編集長)
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安藤先生のEVTワークショップ
前回の記事では水戸済生会の循環器内科について紹介しましたが、末梢動脈疾患(PAD)に対するカテーテル治療(EVT)は、県内有数の症例数を施行しています。
PADは下肢切断に至ることもある重篤な疾患でEVTによる血行再建以外にも血管外科や形成外科、リハビリなど、多診療科・多職種での取り組みが必要です。しかし、特に透析患者さんでは高度石灰化
などのため難易度の高い症例が多くを占めており、EVTのレベルアップに積極的に取り組んでいます。
今までも、この領域で国内トップオペレーターである新東京病院の朴澤先生や大阪警察病院の飯田先生など、大御所にお越しいただいてEVTの指導を受けてきましたが、先週は春日部中央総合病院心臓病センター顧問の安藤弘先生にお越しいただきました。実は安藤先生はコロナ前にも水戸済生会にお越しいただいたことがあり、今回は約5年ぶり2回目となります。
今回は3症例で、透析患者の高度石灰化SFA、そしてBK症例、さらに足関節以下(BTA)とかなり厳しい症例ばかりでしたが、最終的には見事に成功させていました。循環器内科の若手も積極的に助手に入り、達人の手技を間近で見ることができました。この学びを忘れないうちに、次の自分の手技で生かしてもらえると思います。
(編集長)
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循環器内科の専門研修2025
今回は水戸済生会の循環器内科の専門研修について紹介します。
もしあなたが、循環器内科に興味があって
・STEMI患者のPCIをできるようになりたい
・アブレーションで不整脈を治したい
・早いうちからTAVIもMitraclipもやりたい
・PADやAortaなど心臓以外もやってみたい
これらいずれかに当てはまるなら、この先を読む価値があります。さらに、医局に入らずに循環器専門医資格を取りたいと思っているなら、必ず最後まで読んでください。
ご存じの通り、循環器内科は日中でも夜中でもERに最も呼ばれる診療科の一つで、決して楽な診療科ではありません。ですが、ホントに心臓が止まりかけた患者さんが、自分の治療でみるみる良くなって歩いて退院するという、ほかの診療科ではそれほど経験できないようなことがしばしばある、非常にエキサイティングな診療科でもあります。
さらにデバイスの進歩が目覚ましく、治療戦略が次々にアップデートされるので、それだけやりがいのある領域です。そんなエキサイティングな循環器内科を水戸済生会の循環器内科では「地域完結」をキーワードの一つに掲げて、循環器領域の大部分の診療をカバーしています。
もう少し紹介すると、水戸済生会の循環器内科はPCIではもともと県内で有数の施設でしたが、これに加えてカテーテルアブレーションやICD、CRTにも早くから取り組んでおり、今ではアブレーションも県内有数の症例数となっています。また循環器内科医が関わることの多いPADに対するEVTも県内トップクラスの症例数で、さらに心外との連携が密で大動脈弁狭窄症に対するTAVI、そしてMitraclipも順調に症例を重ねています。あなたがその気になれば大動脈瘤、大動脈解離へのステントグラフトなど大動脈疾患の治療にも関わることができます。そしてこれらの症例に対応するための心エコーも年間6000件、経食道心エコーも400件を超えています。
そんな水戸済生会の循環器内科の専攻医は、現在基幹型で1名と協力型(筑波大学、日本大学)で2名と少人数なので、彼らは様々な症例や手技を経験し、実力をつけてくれています。
ご存じかもしれませんが現在の専門医制度は、まず内科専門医を取得して、その後に循環器専門医になってから他の循環器領域の資格であるCVIT専門医や不整脈専門医などを取得するシステムになっています。
つまり、循環器専門医を持っていないと、いくら経験や技術はあってもその次の資格が取得できないようになっているのです。ちなみに新しいデバイスは症例数の多い施設から導入されることが多いので、あなたが専門研修施設を選ぶ時は当然考慮すべきポイントです。さらに最近では、新しいデバイスの術者になるための要件として、ほとんどの場合で循環器専門医資格が必要になっています。
あなたが循環器内科を考えているなら、最初にすべきことは内科専門医を最速で取得し、最短で循環器専門医資格を得ることです。そして、そんな時に当院は有利です。
先ほど紹介したように主要な疾患をカバーしていることに加え、県立こども病院が隣接しているため成人の先天性心疾患症例も含めて当院は症例数も多く、施設を異動することなく1つの施設で専門医取得のための症例が全部経験できます。実際のところ水戸済生会の専攻医はJOSLERだけでなく循環器JOSLER症例にも困っていません。
そして専門医資格を取得後も、PCIをはじめとした各種の施設認定を受けているので循環器領域の各種の資格取得もスムーズです。しかも、大学の医局とは関係なく専門医資格を取得できるのが当院の強みです。
水戸済生会の循環器内科は内科専門医プログラムから循環器領域をじっくりと腰を据えて、技術の取得と経験症例数の確保に専念できる環境です。ぜひ、あなたも当院での内科専門医プログラムから循環専門医取得を目指してください。
(編集長)
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CPXの実際(7) TV-RR関係
CPX(心肺運動負荷試験)で負荷中の指標を紹介しています。
今回はTV-RR関係とRR threshoidそしてTi/Ttotです。
【TV-RR関係】
浅く速い呼吸パターンを評価する指標です。横軸に呼吸回数(RR)を、縦軸に一回換気量(TV)をとると、正常であればATまでは呼吸数はほとんど増加せずに一回換気量のみが増加します(a)。その後呼吸数も増加し始め、傾きが右上方に変わります(b)。RCP(呼吸性代償開始点)になると一回換気量の増加は止まって呼吸数のみが増加します(c)。
実際にはこのようなきれいなパターンを呈さないことも多いので、軽い労作時方異常な呼吸パターンを有するか否かを判定する指標と考えるのが良いようです。
【RR threshold】
呼吸数をプロットしていくと、ATを境にして急激に増加し始めます。AT付近ではもはやVT(一回換気量)を増加させることができないので、VE(分時換気量)を増加させるためには呼吸数を増加させることになるからです。こうなると息切れせずに会話が困難となります。
【Ti/Ttot(ティーアイ・ティートート)】
Tiとは吸気時間、Ttotは総呼吸時間のことで、ひと呼吸(吸気+呼気)における吸気時間の割合のことです。最大負荷時に注目すべき指標で正常は≧0.4です。
この指標が低下する代表的なものに肺気腫があります。運動負荷を行って、下肢疲労よりも息切れを強く訴える場合に最大負荷時にTi/Ttot<0.4に急激に低下するようなら、運動耐容能の原因が肺気腫と言えます。
(編集長)
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【循環器内科】TAVI 200 症例達成しました!
当院での大動脈弁狭窄症(AS)に対するTAVIが、先日200症例を達成しました!
TAVIとはTranscatheter Aortic Valve Implantation(経カテーテル大動脈弁置換術)のことで、TAVR(Transcatheter Aortic Valve Replacement)とも呼ばれます。
当院では循環器内科の山田先生と川原先生を中心に心臓血管外科や麻酔科、看護師、生理検査技師、放射線技師、ME、リハビリスタッフなどからなるハートチームで順調に症例を重ねており、100症例到達が2022年春でしたので、約3年で100例をこなしたことになります。
TAVIは対象となるのが外科的な弁置換術(SAVR)ができない、もしくはハイリスクな高齢の患者さんばかりです。症例によってはアプローチ部位の制約など、なかなか大変な症例がありますが、標準的な大腿動脈アプローチ(TF-TAVI)に加えて、心尖部アプローチ(TA-TAVI)、鎖骨下動脈アプローチ(TS-TAVI)、内頚動脈アプローチ(TC-TAVI)といろいろ対応できるようになっています。
未診断のASの心不全に対しても、急性期に緊急で大動脈弁バルーン拡張(BAV)を行って落ち着けてから、その後TAVIにつなげる症例も増えており、緊急対応にも慣れてきた感じです。
もしあなたが循環器内科を考えていて、TAVIにも取り組んでみたいなら、ぜひお問い合わせください!
(編集長)
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CPXの実際(6) VE vs VCO2 slope
CPX(心肺運動負荷試験)で負荷中の指標を紹介しています。
前回は最高酸素脈とVE/VO2、VE/VCO2について紹介しました。今回はVE vs VCO2 slope、PETCO2、PETO2です。
【VE vs VCO2 slope】
前回紹介したVE/VCO2と同様に、換気血流不均衡がどの程度改善されるのかが分かる指標です。つまり心不全の重症度の指標になるもので、34以上になると予後不良とされています。
求め方としては、下図のようにVEが増加し始めた点からRCPまでの傾き(①)を用います。RCP以降だと傾きが急峻になる(②)ので健常人でも値が悪くなる、つまり運動耐容能が低いと評価されてしまいます。
【PETCO2、PETO2】
PETCO2(終末呼気中のCO2分圧)は、肺血流が少なかったり換気血流不均衡が大きい場合に低値となります。肺血流量、心拍出量、肺血管床減少度の指標となります。
これは、血液中のCO2がほぼ完全に肺胞に拡散されるため、すべての肺胞で適切なガス交換が行われていれば肺動脈血CO2分圧と肺胞内CO2分圧と終末呼気中のCO2分圧とがほぼ等しくなるはずですが、ガス交換がうまくいかないと終末呼気中のCO2分圧は低くなるからです。正常値はRCPでのPETCO2が45㎜Hg以上と覚えておけば良いようです。
一方、PETO2(終末呼気中のO2分圧)は、負荷中に漸減していきます。運動に伴い呼吸が深くなって、ガス交換がよくなり、呼気中に残っているO2が減少するのですが、ATに達すると逆に増加し始めます。
(参考文献:安達仁編著 CPX・運動療法ハンドブック)
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CPXの実際(5) 最高酸素脈
CPX(心肺運動負荷試験)で負荷中の指標を紹介しています。
前回は最大酸素摂取量(Peak VO2)と嫌気性代謝閾値(AT)について紹介しました。今回は最高酸素脈とVE/VO2、VE/VCO2を紹介します。
【最高酸素脈(Peak VO2/HR、Oxygen pulse)】
最高酸素脈は酸素摂取量を心拍数で割ったもので、1回の心拍出量がどれだけ酸素摂取に関与しているかを評価する指標です。つまり最大負荷時の心拍出量の指標の一つでもあります。
標準値は以下のように計算されるそうですが、60歳代で運動習慣のない人であれば10ml/beatであれば正常と考えて良いそうです。
<激しい運動習慣のない成人における VO2/HRの標準値>
男性:(-0.1×年齢+34.5)×体重/(220-年齢)
女性:(-0.1×年齢+28.9)×体重/(220ー年齢)
(日本循環器学会の標準値より)
注意点としては、ベータ遮断薬など心拍数を下げる薬を服用していると高く出てしまいます。そして心拍出量を示す指標と述べましたが、心機能そのものを示す指標ではないことにも注意が必要です。例えば肺高血圧や長期臥床で骨格筋量が低下している場合にはこの値は低下します。
【VE/VO2、VE/VCO2】
ウォームアップの項でも触れましたが、これらの指標は負荷に伴って徐々に低下します。これは運動に伴って肺血流も肺換気も増加するため、換気血流不均衡分布が改善されるためです。VE/VO2はATまで低下し続け、その後上昇に転じます。VE/VCO2はATあるいはRCP(呼吸性代償開始点)まで低下し続け、RCP以後に上昇します。
この指標は、VE/VO2ーVE/VCO2の関係から最大負荷をかけずにATを決定できるため、心筋梗塞後や術後早期にCPXを行う場合に有用です。
この指標に影響する因子は肺血栓塞栓症、SV(1回拍出量)低下、血管内皮機能低下、交感神経活性の異常亢進、浅く速い呼吸様式などです。
心不全ではSV低下により、血管壁へのシアストレスを増加させることができず、結果として血管内皮からのNOの産生が増加しないため肺血流も増加しないことや、交感神経活性の更新により血管拡張をきたしにくくしているとされます。
(参考文献:安達仁編著 CPX・運動療法ハンドブック)
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CPXの実際(4) 最大酸素摂取量と嫌気性代謝閾値
CPX(心肺運動負荷試験)の実際を紹介しています。CPX負荷中に得られる指標はたくさんありますが、前回は酸素摂取量の異常パターンを紹介しました。
今回は最高酸素摂取量(Peak VO2)と嫌気性代謝閾値(AT)についてです。
【最高酸素摂取量(Peak VO2)】
Peak VO2は心臓リハビリにおける酸素摂取量に関する最も重要な指標ですが、これ以上はもはや運動できないという強度(医学的な安全限界とか本人の自覚的限界)で負荷が終了したときの酸素摂取量(酸素摂取量の最高値)のことです。
混乱しやすいものとして、最大酸素摂取量(VO2 max)があります。VO2 maxは有酸素運動能力を反映し、この値が大きいほど心肺機能の能力が高いことを意味します。アスリートやトレーナーが使っているのはこちらの方です。
心不全患者さんの心臓リハビリでは安全優先ですので、VO2 maxではなくPeak VO2が用いられますただし、両者は同義語として用いられている場合もあります。
【嫌気性代謝閾値(AT:Anaerobic threshold)】
ATの定義は「好気的代謝に無気的代謝が加わる時点での酸素摂取量」となっていて単位はml/minです。
ATの決定法には以下の通りいくつかあるので、負荷終了後の解析時にいくつかの方法を見ながら決定していきます。
1.VCO2、VEがVO2から乖離して増加を開始する点(下図・左)
2.V-slope法でSlopeの傾きが45度以上になり始める点(下図・右)
3.VE/VO2の増加開始点
4.R増加開始点
5.PETO2増加開始点
ATはPeak VO2の約60%であり、AT以後は乳酸の産生が進み、徐々にアシドーシスになります。この時はまず腎臓での代償機序が働きますが、それが限界を迎えると肺による代償機序(=過換気)が始まります。このポイントを呼吸性代償開始点(RCP:Respiratory Compensation Point)と言います。
(参考文献:安達仁編著 CPX・運動療法ハンドブック)
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CPXの実際(3) 負荷中に得られる指標
CPX(心肺運動負荷試験)の実際を紹介していますが、今回は負荷中の指標についてです。
負荷中に得られる指標は以下のようにたくさんあります。
①酸素摂取量
②最高酸素脈(peak VO2/HR, Oxygen pulse)
③VE/VO2, VE/VCO2
④VE vs VCO2 slope
⑤PETCO2, PETO2
⑥TV-RR関係
⑦RR threshold
⑧Ti/Ttot
⑨呼吸予備能(Breathing reserve)
⑩SpO2
⑪Oscillatory ventilation
⑫OUES
これらを全部覚えて使いこなすのは正直なところ難しいですが、何となくこんなものを見ているとイメージだけでもつかんでおくと良いでしょう。
今回は酸素摂取量を見ていきます。酸素摂取量はATP産生そのものと考えて良いので、酸素摂取量が増加しなければATPも増加しないので、いろいろな症状につながります。
今回は酸素摂取量増加に関する異常パターンを見ていきます。
・酸素摂取量増加の3つの異常パターン
酸素摂取量は負荷1ワット(W)につき10㎖/分増加(ΔVO2/ΔWR=約10㎖/min/W)することは覚えておきましょう。
異常パターンの1つ目(図A)は、ΔVO2/ΔWRが低下しているパターンで、傾きの異常と言われます。心不全症例やでコンディショニングが進んだ患者など、有酸素代謝能力が低下して負荷初期から嫌気性代謝の割合が高いことが原因で、ΔVO2/ΔWRが7㎖/min/Wくらいまで低下します。
2つ目のパターン(図B)は直線性の異常と言われ、軽労作では有酸素代謝が正常に行われますが、あるレベルの負荷に達すると嫌気性代謝の割合が増大するような場合に見られます。狭心症による虚血や拡張障害などがこのパターンを示します。
3つ目(図C)は傾きは正常だが、上方にシフトする位置の異常のパターンで、特に肥満の強い場合に見られます。安静時の酸素摂取量は正常ですが、ウォームアップ時から予測値よりも増加し、傾きは正常パターンが特徴です。強い肥満の場合には自分の下肢が重いため、エルゴメーターを漕ぐ時に要するエネルギー需要が正常体重の人よりも多いことが原因とされています。
次回は最高酸素摂取量(peak VO2)について紹介します。
(参考文献:安達仁編著 CPX・運動療法ハンドブック)
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