専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
肺高血圧の定義
日本循環器学会では各種のガイドラインを出しており、2025年春に改訂版としていくつかのガイドラインがリリースされていますが、その中から8月までVTEについて紹介してきました。今回からその続きで肺高血圧についても紹介していきます。
以前も紹介した通り、VTEと肺高血圧のガイドラインは、それまでの「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン」、「肺高血圧症治療ガイドライン」そして「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplasty(BPA)の適応と実施法に関するステートント」の3 つを統合して新たに改訂されたものです。
これは、肺高血圧症に対する薬物治療やBPAのエビデンスが多数出てきて、診断・治療の内容が大きく変わっていることを受けてのことです。編集長としては、ちょっと苦手な領域なのですが、役立ちそうなところを順不同で紹介していきます。
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さて、最初は肺高血圧の定義の確認です(何ごとも定義がどうなっているのかを把握しておかないと、話がだんだん分からなくなります)。
肺高血圧(PH)は、「右心カテーテル(RHC)検査により測定した安静仰臥位の平均肺動脈圧(mPAP)>20 mmHg」と定義されています。
昔の定義では>25mmHgだったのですが、2022年に改訂された欧州のガイドラインに採用され、現在の世界標準となっています。
また、ご存じのようにPHは左心疾患や心拍出量(CO)の増加、胸腔内圧上昇などに影響されます。このため、mPAP上昇から区別するために、肺血管抵抗(PVR)と肺動脈楔入圧(PAWP)も定義に含めることが必要となるので、
ガイドラインではPVR>2 Wood単位、PAWP≦15 mmHgと定義されています。
逆に、例えば純粋な左心不全でPHを来している場合(≒後毛細血管性肺高血圧症:pcPH)は、mPAP>20mmHg、PVR≦2 Wood単位、PAWP>15mmHgということになります。
さらに、運動でもmPAPは上昇しますが、正常では運動中のmPAPは,COが10 L/分において30mmHgを超えない,またはmPAP/COの傾きが3 mmHg/L/分を超えないとされるので、運動時PHは、運動時におけるmPAP/COの傾きが3 mmHg/L/分を超える場合と定義されています。
運動時の血行動態には年齢依存性があり、高齢者は若年者よりもmPAP/COやPAWP/COの傾きが急峻です。また運動時PHは、労作時息切れ患者、心血管系疾患における予後不良、膠原病、特に全身性強皮症(SSc)患者のPH発症や生命予後と関連しています。
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
(編集長)

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水戸済生会総合病院の臨床研修は
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2026年度の専攻医登録が始まります!
すでにご存知かもしれませんが、2026年4月開始の専門研修プログラムの専攻医登録が11月4日(火)の正午から始まります。
手続きとして、まず専門医機構のサイトで専攻医登録(アカウントの取得)をします。それから希望の専門研修プログラムに専攻医登録サイトから応募します。研修先での面接等の選考を経て採用が決まります。
1次募集の締め切りは11月14日(金) 正午までです。1次募集で希望のプログラムに採用されなかった時は2次募集で別のプログラムに応募することになります。
おそらく多くの研修施設では、例年同様に面接や書類の提出を行い、内定を出しているところが多いかもしれませんが、上述のように専門医機構に専攻医の登録をしてから各研修施設のプログラムに応募しないとできないシステムとなっています。J2のあなたは、よく確認して早めに登録をしてください。
さて、ここで水戸済生会の専門研修についても紹介させてください。
当院は422床の総合病院で、救命救急センター(3次救急)を有するため、ドクターカーやドクターヘリの基地病院としての役割や、茨城県立こども病院と隣接しているため、県央・県北の総合周産期母子医療センターとしてハイリスク分娩などを一手に引き受けています。
専門研修は内科で基幹型プログラムを有していますが、それ以外の診療科は、筑波大学をはじめとした専門研修プログラムの協力施設として、専攻医を受け入れています。
初期研修医の定員は10名で、5年連続でフルマッチしています。このうち当院での内科専門研修に進むのは例年1~2名ですが、近年は他施設で初期研修を終えた専攻医も増えてきています。
水戸済生会の内科専門研修プログラムについてですが、当院には消化器内科、循環器内科、腎臓内科、血液内科、総合内科、糖尿病代謝内科があり、昨年秋から脳神経内科とリウマチ・膠原病内科、さらに今春から血液内科も増員されました。呼吸器内科は現在非常勤のみですが、診療科が増えたことで内科全体の診療がレベルアップしています。
このため、内科専門研修プログラムでは呼吸器内科は水戸地区を中心とした近隣の連携施設で症例を経験できるようにしていますが、それ以外はJOSLER症例の確保に困ることは無くなりました。
また、当院の内科専門研修プログラムの特徴を一言でいえば、消化器内科、循環器内科、腎臓内科を中心に、できるだけ早くサブスペシャルティ領域の専門医資格(以下、サブスペ専門医)を取得することを目指しています。
消化器内科、循環器内科、腎臓内科では施設を異動することなく、当院のみの研修でサブスペ専門医試験の受験資格を得ることができます。そして、これら各診療科の関連する多くの資格を取得可能です。さらにリウマチ膠原病科もリウマチ教育施設に、血液内科も専門研修教育施設に認定されたことから、個々の希望を聞きながら希望診療科の連動研修(並行研修)を取り入れてプログラムを組んでいます。
少しでも早くサブスペシャルティの資格を取りたいあなたは、ぜひ当院の内科専門医プログラムをご検討ください。
(編集長)

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EVTワークショップ@水戸済生会
水戸済生会の循環器内科では、虚血や不整脈以外にも、末梢動脈疾患(PAD)に対するカテーテル治療(EVT)も多く行っており、県内有数の症例数を誇る施設です。
PADは下肢切断に至ることもある重篤な疾患でEVTによる血行再建以外にも血管外科や形成外科、リハビリなど、多診療科・多職種での取り組みが必要です。
しかし、特に透析患者さんでは高度石灰化などのため難易度の高い症例が多くを占めており、我々では太刀打ちできない症例があることも現実です。そのため以前からEVTのレベルアップのために、この領域で国内トップオペレーターの先生方にお越しいただいて指導を受けてきました。
先週は新東京病院の朴澤先生と春日部中央総合病院心臓病センター顧問の安藤先生という、日本EVT界の二大巨頭にお越しいただきました。

術者が朴澤先生(後ろが安藤先生)
今回は3症例で、高度石灰化SFA+BK症例、SFAのCTO、SFAのステント閉塞という厳しい症例ばかりでしたが、最終的には見事に成功させていました。循環器内科の若手も積極的に助手に入り、達人の手技を間近で見ることができました。この学びを忘れないうちに、次の自分の手技で生かしてもらえると思います。
循環器領域では学会レベルでライブが開催されていますが、やはり上手な先生がやっているすぐ脇で見ることができて、思わずつぶやいてたことやデバイスの変更をしたタイミングなどをその場で質問できるのが、ライブにはないワークショップの良いところです。しかも今回は2人の先生の戦略の違いをリアルタイムで聞けるという、貴重な機会になりました。
水戸済生会の循環器内科では、これからもEVTに限らず、診療のレベルアップに取り組んでいきます。
(編集長)

こちらは安藤先生が術者
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特発性気腹症
救急外来で急性腹症の方が来院したとき、鑑別すべき疾患はさまざまですが、単純X線やCTで腹腔内遊離ガス(free air)をみたときにはまず消化管穿孔を第一に考えると思います。
腹腔内には通常空気は存在しないため、
腹腔内にairがある=腸管に穴が開いて腸管内容物が腹腔内に流出している
と考えられるわけです。
消化管穿孔とひとくちに言っても穿孔部位によって対応は異なり、上部消化管穿孔の場合には絶食・補液、胃管挿入、PPI投与で保存的に加療されることが多いです。一方で、下部消化管穿孔の場合には、汎発性腹膜炎をきたすため、基本的には緊急で手術の方針となります。
ですが、外科をローテーション中に部消化管穿孔が疑われたにもかかわらず、穿孔部位が同定できなかった症例を経験したので、それに関して調べたことについてご紹介したいと思います。
原因の同定できない腹腔内遊離ガス像のことを「特発性気腹症」と呼びます。
その原因は、ガスの流入経路から大きく5つに分類されます。
(Gantt CB Jr et al: Am J Surg 1977; 134: 411-414)
・胸腔内(気胸、縦隔気腫、閉塞性換気障害、肺炎、胸部外傷など)
・腹腔内(空腸憩室症、呑気症など)
・産婦人科的疾患(急性卵巣炎、卵管脱出、分娩後の運動など)
・医原性(卵管通気法、開腹術、腹膜透析など)
・その他
特に、消化管由来の腹腔内遊離ガスの原因としては、
・腸管内圧の上昇に伴いガスのみが流出するような粘膜の脆弱性の存在
・ガスのみが流出するような微小穿孔の存在
などが考えられています。
特発性気腹症に関してはしばしば保存的治療を選択することもあり、その条件としては
①腹膜刺激症状がない
②意思疎通が良好で腹部症状の経時的変化を評価できる
③炎症反応が軽度
④CTで腹膜炎、腹水等の所見、その他器質的疾患を認めない
などが考えられています。
(国友ら: 日腹部救急医会誌 2018; 38: 1163-1165)
また、特発性気腹症と考えられた症例でも、腹痛があること、炎症反応が高いこと、腹水が存在していることなどが手術の選択に関与しているといった報告もあります。
(佐藤ら:日臨外会誌 2013; 74: 346-351)
つまり、検査所見も重要ですが、身体所見を正確にとることが手術を選択するかどうかにおいて非常に重要ということです。緊急性を要する場面でも適切に必要な身体所見をとれるようにしていきましょう。
(ねぎとろ)

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