
専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
PTEの治療は外来でOKか?
この春に行われたVTEガイドライン改定では、DOAC導入後の治療の変化について多く触れられています。その中でも肺血栓塞栓症(PTE)の治療に関して、DOACを用いて外来での治療が記載されているので紹介します。
PTEの死亡率は、診断されず未治療の症例では約30%と高いのですが、適切な治療を実施すれば2~8%まで低下します。そして致死的PTEの75%は発症から1時間以内に、残りの25%は発症48時間以内に死亡するとされているので、迅速な治療開始が重要です。
そして急性PTEの治療ターゲットは、①肺血管床の減少により惹起される右心不全および呼吸不全に対する急性期の治療と、②血栓源であるDVTからの再発性PTEの予防の2つがあります。①については治療の基本はもちろん抗凝固療法ですが、VA-ECMOや血栓溶解療法などが該当します。②は抗凝固療法ですが、場合によりIVCフィルターも使用されます。
<急性PTEの重症度別治療戦略>
さて、PTEの外来治療に関してですが、従来は急性PTEの治療は入院での慎重な管理が基本でした。しかしDOACが広く使用できるようになった影響もあり、早期退院に加えて外来治療が可能となっています。
ここで重要になるのが、外来治療が可能な患者を選択するための急性期の予後リスクスコアです。外来治療に適切な患者の選択を主眼として開発されHestiaスコアは,患者背景に加えて外来治療に適する社環境の有無を項目として取り入れており,これまでに複数の研究でその有用性が報告されているそうです。
しかし、PESI/sPESIスコアもこの目的で用いられているようです(注:PESI/sPESIスコアは次回の記事で紹介します)。PESI/sPESIスコアはもともと急性期の30日死亡を層別化するためのリスクスコアとして開発されたものですが、PESIにより適切に選された低リスク患者は外来治療が可能であり、sPESIスコアについては日本人で行われた急性期予後に関する検証結果では、スコアが0の患者における30日の死亡率は0.5%であり,スコア1以上の患者と比較して有意低かったと報告されています。
残存DVTの評価などPTE再発時のリスクなどに十分注意する必要性や、がん患者に偶発的に軽症のPTEが見つかった場合の扱いなど、患者選択に関しては議論の余地がまだまだありますが、併存疾患を含めた患者背景に問題がなく、急性PTEの重症度の詳細な判定に低リスクと判断され、加えて外来治療に適した社会背景有する患者では、DOACを用いた外来治療も妥当な選択肢としています。
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
(編集長)
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病院見学のススメ・・・専門研修先を決めるとき
大学の医局などから専門研修プログラムの説明会開催の案内も届く時期になりました。
J2のあなたは来年度からの専門研修プログラムをどうするか、どこに、いつ見学に行くべきかをそろそろ考えていると思います。もしかしたら、まだどの診療科にするか決めかねているかもしれませんが、初期研修先を決める時よりも、専門研修先を決めることの方が重要かもしれません。
専門医機構が次年度の専攻医登録を開始するのは例年11月からですが、まだ時間があると思わないで、少しずつでも情報収集を始めるのが良いと思います。
当院のJ2らも、すでに病院見学に行った人もいますし、これからという人もいます。そこで、当院に限った話ではなく、専門研修プログラムを決めるときのポイントを確認しておきましょう。
①各施設のプログラムに目を通しましょう。
各領域の基幹学会が専門研修プログラムを取りまとめてWebで見れるようにしています。どれも「研修の理念」とかで始まるので、ぱっと見で読みにくい印象ですが、待遇などのところは毎年見直しが入っているので、チェックしておくのが良いです。また基本的に1つの施設だけで研修する訳ではないので、ローテーション可能な施設もここから知ることができます。参考までに、内科学会のサイトのリンクを貼っておきます。
②気になる病院には、可能な限り病院見学に行くべきです。
レジナビのように専門研修プログラムを紹介するイベントも増えてきました。でも、なかなか参加できるわけではありませんので、情報収集はまだまだ口コミや先輩のツテというのが多いようです。だとすればなおさら、気になる病院や候補の病院には可能な限り病院見学に行ってください。
さらに大学の医局も各種イベントに力を入れるところが増えています。医局の先生達や研究内容などを知れるだけでなく、外勤先や大学院に行くタイミングなどは医局によってもだいぶ違うようですから、詳しく聞き出しておくべきです。
③病院見学に行った際のポイントは・・・、
指導医クラス(大学の医局なら医局長)の話は、半分程度に聞いておけばOKです。なぜかと言えば、基本的にイイことしか言わないからです。何とか先輩になる専攻医から直接話を聞きましょう。病院見学の際にはコンタクトをとれなくとも、指導医に紹介してもらうなどして、後日でも実際に働いている専攻医とコンタクトをとる努力をしてください。そしてあなたの知りたいことを質問してみましょう。待遇や他施設のローテーション状況など、プログラムに書かれていない情報を得ることができます。また内科であればJ-OSLERの進み具合やサポートなども聞いておくと役に立つと思います。
そしてカテ室や内視鏡室、エコー室など、実際に案内してもらい、専攻医たちの元気の良さや看護師さんや技師さんたちの雰囲気にも注目してみると良いと思います。
④できるだけ複数回行きましょう。
専攻医を採用する時に、首都圏以外では定員越えで選抜する施設は少ないと思いますが、気になっている病院には複数回行くことをおススメします。別に見学という形をとらなくとも、その施設で研究会や講演会などがあれば、それを理由に行ってみるのもOKです。なぜかと言えば、先輩となる専攻医と話すチャンスが増えて、あなたのイメージしている専門研修とのギャップを少なくできるはずです。さらにあなたの存在が相手の記憶にも残りやすくなります。
⑤水戸済生会に見学に来ていただいた時は
・希望診療科の専攻医について、できるだけ内視鏡やカテなどに一緒に入ってもらうようしています。
・昼食時に専攻医や指導医と話をする時間が確保しています。ここで、聞きたいことを全部聞くことができるはずです。
・あなたと同じJ2の研修医とも情報交換できるようにしています。
忙しい仕事の合間に見学に行くのは大変ですが、悔いのないように情報収集をしてください。
水戸済生会では専門研修プログラムのための病院見学を随時受け付けていますので、下のリンクからお申し込みください!
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(編集長)
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慢性血栓塞栓性肺疾患(CTEPD)
この春に行われたVTEガイドライン改定でのポイントの一つは、VTE後に慢性疾患に移行することを明示したところだと思います。その内容として、血栓後症候群(PTS)と慢性血栓塞栓性肺疾患(CTEPD)が取り上げられています。前回はPTSについて紹介しましたので、今回はCTEPDについて取り上げます。
急性PTE後に労作時呼吸苦、運動耐容能やQOLの低下を来し、post PE syndromeともよばれる患者さんがいましたが、これらの患者さんのうち肺動脈内の残存器質化血栓に起因する症状をもつ患者を慢性血栓塞栓性肺疾患(CTEPD)と呼ぶこととしています。
これは本邦ではBPA(バルーン肺動脈形成術)を開発してきた経緯もあり、慢性血栓塞栓性肺高血圧(CTEPH)に対する認識は広く普及していましたが、安静時にPHがなくとも労作時息切れや運動誘発性PHをきたすことがあり、安静時のPHの有無で病態を分けるのではなく、CTEPDという包括的な概念が提唱されるようになったようです。なおCTEPHはPHを伴うCTEPDと言うことになります。
このCTEPDの概念で大事なことは、急性PTEの診断時点でCTEPDへの移行リスクを念頭に、血栓を残存させないことを意識した抗凝固療法を可及的すみやかに開始することが重要になります。また再発、出血、悪性腫瘍、運動制限の持続、新規発症を示唆する症状の出現を確認し、抗凝固療法の延長を検討するために急性PTEの発症後3~6ヵ月で臨床評価を行うことを推奨しています。
CTEPH発症リスクが高い症例や3~6ヵ月後のフォローアップ時に息切れや右心負荷がある場合には積極的に残存血栓の評価を行い、特に肺血流シンチグラフィで血流欠損の残存が示唆される有症状患者は、心エコー図検査などの結果も考慮したうえで専門施設への紹介を行うことを勧めています。
<CTEPH を意識した急性PTE フォローアップ>
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
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血栓後症候群(PTS)
この春に行われたVTEガイドライン改定でのポイントの一つは、VTE後に慢性疾患に移行することを明示したところだと思います。その内容として、血栓後症候群(PTS)と慢性血栓塞栓性肺疾患(CTEPD)が取り上げられていますが、今回はPTSについて紹介します。
PTSとは、DVT後の血栓遺残や弁破壊による逆流などで、慢性的に静脈うっ滞を来し、最終的には難治性の静脈性潰瘍を呈する病態を指します。このPTSは、海外では急性DVT後の20~80%に発症するとされていますが、わが国の観察研究では急性DVT後の3年におけるPTS発症率は13%であったと報告されています。
PTS発症の危険因子には、血栓範囲が広い、同側のDVT再発例、深部静脈の閉塞と弁不全の両者が存在することとされ、他にも肥満や生活環境、穿通枝や表在静脈の弁不全も関与しています。ただ、DVT発症初期の抗凝固療法が適正に施行された症例では発症が少ないようです。
PTSの診断には,Villaltaスコアが用いられています。通常は5点以上で軽症,10点以上で中等症,15点以上あるいは静脈性潰瘍例は重症と診断されます。
<Villalta PTSスコア>
予防には、発症初期からの適切な抗凝固療法、DVT発症後の弾性ストッキング着用があり、さらに症例を選択したうえでの早期血栓除去も有用とされています。
PTS を発症してしまったときの治療としては、慢性静脈不全の治療に準じて生活指導(立位・下肢下垂時間減少,減量)や弾性ストッキングなどによる圧迫療法、潰瘍再発例や疼痛が強い重症例で腸骨静脈病変を含む症例では腸骨静脈に対するカテーテル治療の適応と記載されています。
編集長もPTS患者さん何人か診療をしていますが、対症療法が中心となるので、静脈潰瘍に至るような重症例では対応に非常に苦労します。今までのDVTではPTEに至らないようにすることにフォーカスされていましたが、下肢自体の長期予後にも配慮して、急性期に適切な治療をしてPTSに至らないようにすることが重要だと思います。
(出典:2025 年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン)
(編集長)
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