専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

失敗した時の正しい対処法

2024.07.29
カテゴリー: ブログ

専攻医のあなたは、初期研修医の頃とくらべるといろいろ仕事を任されたり、カテや内視鏡など今まであまり手を出せなかった手技もする機会が増えます。初期研修医や看護師さんからも頼りにされますが、とは言っても、すぐに指導医クラスのようなレベルになる訳ではないので、病棟の仕事で失敗したり、カテや内視鏡がうまくできずに指導医に交替したりすることがあります。

 

もちろん、だんだん仕事の段取りもうまくなっていくし、手技も交代せずに最後までできるようになりますが、ちょっと思い返してみるといつも同じような間違いや失敗をしているなんてことはないでしょうか?

 

以前にも紹介したことがありますが、原田隆史という方が書いた「失敗の取り扱い方」という文章が参考になったのでシェアします。その原田先生によると、

 

人は失敗を

1.直視しない(向き合わない)

2.後回しにする

3.人のせいにする

4.忘れようとする

 

その結果

5.繰り返す

 

つまり「失敗をなかった」ことにする= 「あれは失敗ではなかった」としてしまうそうです。

 

この裏には、「失敗を認めたくない」、「失敗は悪である」、「失敗は無駄である」と捉えているから、こう考えてしまうのだそうです。

 

失敗の原因と向き合い、分析し、自分を成長させるヒントにするのが正しい失敗の対処法で、無かったことにするのではなく、自分で向き合って、カタを付けるしかないと。手技については比較的わかりやすいですが、やはり失敗の原因を自分なりに分析しないと上手くなりません。

 

ただし、失敗を失敗と認識していないこともよくあります。

 

例えば、

・いつも同じようなパターンで診断を間違える。

・いつも同じオーダーを間違える。

・いつも看護師さんに同じことを言われる。

・いつも似たようなことで患者さんとトラブルになる。

 

あなたには、思い当たることはありませんか?

 (編集長)

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自分のキャリアを考えるとき

2024.07.22
カテゴリー: ブログ

J2のあなたは、来春からの専門研修先をどうするか迷っているころだと思います。そんな姿を見ているJ1のあなたもボンヤリと自分のキャリアについて考え始める時期かもしれません。

 

専門研修は3年間で、基幹プログラムの施設と協力施設を回りますが、最低1年間は協力施設での研修が求められています。そして、その次はサブスペシャルティの資格取得となりますが、まだ明確なイメージはできていないかもしれません。

 

ところで、あなたは「キャリアのVSOP論」というのを聞いたことがあるでしょうか?年代ごとに求められるスキルのことだそうです。

 

20代はVitality(バイタリティ)

積極的にいろいろなことに取り組んで視野を拡げることで、自分の得意な分野や方向性を掴む年代。

 

30代はSpecialty(スペシャリティ)

自分の得意分野を深堀りしていく時期。つまり、「自分はこの分野で勝負する」という方向性を決める年代。

 

40代はOriginality(オリジナリティ)

専門性を持ったとしても、周囲との差別化はできません。自分にしかできない仕事を意識して追及する年代。

 

50代はPersonality(パーソナリティ)

「役職が高い」と言うことではなく、周囲の人から「信頼されている人」なのかどうかで、自分の価値が決まる「人間力」で勝負する年代。

 

ちなみにこのVSOP論は1978年に脇田保と言う方の本に書かれたのが最初のようです。編集長はネットで見つけたので、原著はもちろん読んだことはありませんが、ネット上ではVがVariety(バラエティ:多様性)と書かれている記事が多くあります。でも、原著では「Vitality」と書かれているらしく、時代とともに少し変わっているようですね。さらに60代はPhilosophy(フィロソフィー:哲学)と書き加えられているものも見つけました。

 

由来はどうでもいいですが、研修医から医師として独り立ちしていく過程で、

・20代は失敗しながら一生懸命にいろいろなことに挑戦してみる

・30代は自分の得意な専門性を高めていく

・40代は専門領域の中で自分にしかできないことを探っていく

 

さらに上の年代に達した編集長からすると、このVSOPはすごく腑に落ちるところです。あなたの周りでカッコよく活躍している先生も、最初からできたわけではないのです。

 

タイパとかコスパといった「損をしない」生き方が優先される風潮を感じている編集長ですが、その時は損をしたと思っても、結果的に大きなものを得ていることに気づくことがホントに多くあります。

 

将来のことは普段は忙しくて考えることを後回しにしがちですが、VSOPを意識しながら専門研修のこと、将来のことを考えてみてはいかがでしょうか?

 (編集長)

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心房細動とアルコール・カフェイン

2024.07.15
カテゴリー: 循環器

今回もフォーカスアップデート版が出された循環器学会の不整脈治療ガイドラインからです。

 

心房細動に限らず、患者さんからよく質問されることの一つに「アルコール」があります。そして、「アルコール」よりは少ないものの「カフェイン」のこともよく質問されます。患者さんにとっては毎日の大事な楽しみですから医師からのアドバイスは重要で、決してテキトーなことを言ってその場をごまかしてはいけません。

 

さて、あなたはいつもどう答えているでしょうか?

 

まずアルコールについてですが、アルコールの過剰摂取は心房細動誘発の危険因子です。飲酒した翌日に発作性心房細動が起こるという患者さんもいました。同時にアルコールの過剰摂取は、抗凝固療法中の出血の危険因子にもなります。出血性合併症のリスク評価に用いるHAS-BLEDスコアの中にも、D(Drug)のところにアルコール依存が入っています。さらに血栓塞栓症の発症や死亡リスクをも増加させてしまいます。

HAS-BLEDの過去記事はこちら

 

でも安心して下さい。最近のRCT で常用飲酒している心房細動患者において、禁酒が心房細動再発を抑制するという報告があり、これを受けてアップデート版では、心房細動発症予防および抗凝固療法を考慮する心房細動患者においてはアルコールの過剰摂取を避けるための助言と管理を行うべき(Class IIa)となっています。

 

一方,カフェインの過剰摂取は,心房細動発症の契機となる上室期外収縮発生の危険因子と考えられていますが、近年は適切なカフェイン摂取習慣は心房細動のリスクを高めず、むしろ1 日1 ~ 3 杯の習慣的なコーヒー飲用は心房細動発症リスクを軽減するとの報告もあるようです。

 

このためアップデート版には特にカフェインに関する推奨はされていませんが、心房細動とは無関係の動悸症状を増加させる可能性があることは知っておくと良いですね。

 

(参考文献:2024JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療)

 (編集長)

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高齢者の心房細動に対するカテーテルアブレーション

2024.07.08
カテゴリー: 循環器

今回もフォーカスアップデート版が出された循環器学会の不整脈治療ガイドラインからです。今回は高齢者の心房細動に関するCQからシェアします。

 

高齢になるほど心房細動の罹患率が上昇するのはご存じだと思いますが、例えば車いすで外来に来られる83歳の患者さんで心房細動を見つけた時に、アブレーションを勧めるべきでしょうか?

 

当院でも80歳以上の心房細動の患者さんにアブレーションを施行することが増えてきていますが、何でもかんでもという訳ではありません。何を重視するのか、ガイドラインの記載を確認してみます。

 

まず、安全性については、高齢な患者さんほど合併症が多くなるのですが、合併症発症率は60歳未満では2.5%で、85歳以上では6.8%と2.8倍の差があります。しかし全体では5.8%なので、絶対にやってはいけないと言えるほどのものではなく、慎重に適応を判断することが大事なようです。

 

年齢にかかわらず症候性心房細動ではカテーテルアブレーションでQOL が改善することが見込まれますが、患者の予後を改善するというエビデンスは確立していません。

 

まとめると、

・高齢(≧80歳)のみで症候性心房細動に対するカテーテルアブレーションの選択肢を排除しないことを推奨する。

・高齢者の無症候性心房細動に対して、予後改善目的のカテーテルアブレーションは推奨しない。

となっています。

 

実際のところ、高齢者における心房細動カテーテルアブレーションは,併存疾患や認知症、フレイルなどを十分に検討して、合併症のリスクが高くないと想定される症候性心房細動の患者さんに対して、心房細動によって低下したQOL やADLを回復させることを目的として行われるべきで、患者さんや家族と何のためにやるのかを良く話し合うことが大事になります。

 (編集長)

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心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応

2024.07.01
カテゴリー: 循環器

フォーカスアップデート版が出された循環器学会の不整脈治療ガイドラインからです。今回は心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応についてシェアします。

 

当院でも心房細動に対するアブレーションを多く施行していますが、デバイスの進歩で手技時間も大幅に短縮でされて、治療成績も安定してきました。しかし一定の頻度で合併症が起こり得ますので、心房細動を見つけ次第アブレーションという訳では決してありません。

 

そもそも心房細動はただちに生命に関わる疾患ではないため、カテーテルアブレーションは洞調律維持による患者のQOL 改善を目的として施行されてきました。しかし臨床現場では症候性心房細動以外にも拡大されてきていることを踏まえてのアップデートです。

 

今回のフォーカスアップデート版では、

①症候性再発性発作性心房細動

②無症候性再発性発作性心房細動

③心不全を伴う心房細動 

に分けて記載されています。

 

【症候性再発性発作性心房細動】

第一選択治療としてのカテーテルアブレーションはClassⅠになっています。ただし、アブレーションに用いるデバイスとして高周波やクライオバルーンなど複数あるのですが、エビデンスの点からクライオバルーンによるアブレーション治療がClassⅠとなっています。もちろんClassⅠと言っても、患者がアブレーションを希望した場合,他の選択肢や治療のリスクなどの十分な説明を行ったうえで選択することが必要です。

 

【無症候性再発性発作性心房細動】

無症候性心房細動患者の予後をカテーテルアブレーションが改善することを明瞭に示したRCT はまだありませんが、① 早期の洞調律維持治療が心房細動患者予後に関連する,② カテーテルアブレーションは心房細動の進行を抑制する、といったエビデンスが集積されつつあることを踏まえて、以下のようになっています。

 

無症候性再発性の発作性心房細動でCHA2DS2-VASc スコアが3 点以上の患者に対するカテーテルアブレーションを行う(Class IIa)

 

【心不全を伴う心房細動】

心不全を合併した心房細動に対するカテーテルアブレーションの有効性が高いことが示されていますが、一方でHFrEFでは特にNYHAIII やLVEF < 25% の群では薬物治療に対する有意性は示されていません。心不全の病態は多様であり,心機能,NYHA,基礎心疾患,心房細動持続期間など患者背景に応じて適応を判断する必要があることが強調されています。

 

また重症心不全に進行した心房細動が合併している症例では、安易なアブレーションでむしろ予後を悪化させてしまう可能性もあります。複雑な手技や高齢者、多くの合併疾患(心不全,腎機能障害,高血圧など)は周術期の合併症リスクを高めるため症例ごとに慎重な対応が望まれます。これらを踏まえて以下のようになっています。

 

明らかな基礎心疾患をともなわず、心房細動起因性の低左心機能が強く疑われる心房細動患者において、死亡率や入院率を低下させるためにカテーテルアブレーションを行う(Class Ⅰ)

 

ガイドラインにもとづく標準的心不全治療が行われているHFrEFの心房細動患者の一部において、死亡率や入院率を低下させるためにカテーテルアブレーションを考慮する(Class Ⅱa)

 

心不全の要因となる合併疾患がないHFpEFの心房細動患者において,死亡率や入院率を低下させるためにカテーテルアブレーションを考慮してもよい(Class Ⅱb)

(編集長)

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