専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
CLTI 評価(Wifi分類2)
改訂されたガイドラインをもとにCLTIについて紹介する3回目。CLTIの評価に用いられるWIFI(ワイファイ)分類の続きです。
WIFI分類はCLTI患者の患肢を創(W;wound),虚血(I;ischemia),感染(fI;foot infection)の3項目で点数化して重症度をステージングするもので、前回はWound Gradingを紹介しましたが、今回は虚血(Ischemia)と感染(Foot Infection)の評価です。
CLTIは虚血があること前提で、各種の血行動態検査の値からグレードを判断します。ちなみにもともとのWIFI分類の文献には日本で普及しているSPP(皮膚還流圧)値は定義されていませんでした。しかしガイドラインでは日常診療で使い安いように、目安となる数値を提唱しています。
Foot Infection Gradingについてのガイドラインの記載は細かいのですが、編集長的に簡略化すると以下のようになります。
もう少し細かく書くと、
Grade1では、下記の少なくとも2つの兆候を有する限局性感染
・局所の腫脹や硬結
・潰瘍周囲の発赤(0.5~ 2 cm)
・局所の圧痛や痛み
・局所の熱感
・膿汁の排泄(濃い濁った白色または血性混じりの浸出液)
Grade2では、広範な局所感染(発赤>2 cm)、あるいは皮膚・皮下より深部の構造物を巻き込む感染(膿瘍,骨髄炎,敗血症性関節炎,筋膜炎)でSIRSの兆候を伴わないもの
Grade3では、下記の2つ以上を有する全身性炎症兆候
・体温> 38 ℃または< 36 ℃
・心拍数>90回/分
・呼吸数>20回/分またはPaCO2<32 mmHg
・白血球数>12,000 または<4,000 cells/mm3 または10%を超える幼若球の出現
実際のところは全身性の炎症兆候として、血圧低下や意識障害、低血糖などいろいろな形で現れることがあるので、患者さんの状態をよく見ることが重要です。
(参考文献:日本循環器学会・日本血管外科学会 2022年改訂版末梢動脈疾患ガイドライン)
(編集長)
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【お知らせ】県企画 エコーハンズオントレーニングを開催します
茨城県地域医療支援センター主催のエコーハンズオントレーニングを11月26日(土)に当院で開催します。
このハンズオントレーニングは、県内の若手医師を対象に県の主催で毎年当院で開催されているものです。講師は当院副院長の仁平先生。
仁平先生は超音波学会の指導医をもっており、なんでもエコーで見て、なんでも診断してしまうレジェンドです。
参加費用が1万円かかりますが、定員9名と少人数で、ボランティアに実際にプローブを当てて、レジェンドからエコーのコツを教えてもらえる、またとない機会ですので、あなたもぜひご参加ください!
申し込み方法は、イバラキドクターズライフのサイトにある申し込みフォームからです。
ただし、申し込み開始が9月5日からですので、忘れずにお申し込みください!
(編集長)
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CLTI 評価(Wifi分類1)
下肢動脈疾患(LEAD)の中でCLTIと呼ばれる状態は極めて予後不良な集団があります。このCLTIを早く拾い上げて、早く専門施設につなげることが下肢の切断回避だけでなく、生命予後の点でも重要です。
水戸済生会では10年以上前からLEADに対する血管内治療(EVT)に取り組んでおり、多い時で年に約160例、コロナの影響を受けた昨年も約120例ほど施行しています。そして当院は透析症例が多いという背景からEVT施行例の約7割がこのCLTI患者さんです。
今回はCLTI患者さんを見つけた時、もしくはCLTIかもしれないと思った時の評価について紹介します。
CLTIの評価にはWIFI(ワイファイ)分類が用いられます。このWIFI分類は2014年に米国血管外科学会から発表されたものですが、CLTI患者の患肢を創(W;wound),虚血(I;ischemia),感染(fI;foot infection)の3項目で点数化して重症度をステージングするものです。発表されてまだ日が浅いものの、その後有用性についていろいろと評価がなされ、今では最新の海外のガイドラインでも採用されています。
このWIfI分類で評価して出てくるWIfI ステージは大切断の予測に有用であることが分かっていますが、これに加えて、血管病変の複雑性を反映したGlobal Anatomic Staging System(GLASS)分類や患者リスクなどを組み合わせて、至適な治療方針を決定することが提唱されています。
さて、実際の評価項目を見ていきましょう。まずは下肢の創部の評価(Wound grading)を行います。
上図はガイドラインに掲載されているものを簡略化しています。実際にはどのグレードの点数をつけるのが良いのか迷うことがありますが、各グレードのところに「臨床的描写」が書かれていますので、それを参考にして点数を付けます。
Grade0では、虚血性安静時痛で創なし(ischemic grade 3に加えて典型的症状を必要とする)
Grade1では、小組織欠損,足趾(2本以内)の切断または植皮にて救肢可能な状態
Grade2では、大組織欠損.足趾(3本以上)の切断または標準的TMA切断±植皮にて救肢可能な状態
Grade3では、広範組織欠損.複雑な足部形成術(非古典的中足骨切断,ショパールまたはリスフラン切断)や皮弁被覆あるいは複雑な創管理を行うことでのみ救済可能な状態
次回は虚血の評価について紹介します。
(参考文献:日本循環器学会・日本血管外科学会 2022年改訂版末梢動脈疾患ガイドライン)
(編集長)
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CLTI 疾患概念・予後
末梢動脈疾患(PAD)ガイドラインが今年春に改訂されました。PADといってもピンとこないと思いますが、PADとは冠動脈疾患と大動脈疾患以外の動脈硬化性疾患を指します。PADの中で大部分を占めるのが下肢動脈疾患ですが、他に頸動脈・椎骨動脈疾患や上肢動脈疾患、腎動脈疾患なども含むので、最近のガイドラインでは下肢動脈疾患(LEAD)と呼んでいます。これは従来、下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO)と言われていたものと同義と考えてください。
最近ではこのLEADという疾患の認知度も上がってきたのですが、重篤な疾患を想起させる胸痛といった症状と異なり、下肢の症状はあまり積極的に拾い上げられていない、いざ見つけたとしても、どこに相談したら良いのか分からないので、整形外科や皮膚科や形成外科に紹介されているというケースがまだまだ多いのが実情ではないでしょうか?確かにLEADの主たる症状である間歇性跛行は通常急速に悪化するものではありませんし、大部分の症例では、何年もそのまま悪化することなく経過していきます。
しかしLEADの中でもCLTIと呼ばれる状態は極めて予後不良ですので、このCLTIについては早く拾い上げて、早く専門施設につなげることがとても重要なので、ぜひあなたにも知っておいてもらいたいと思います。
水戸済生会では10年以上前からLEADに対する血管内治療(EVT)に取り組んでおり、多い時で年に約160例、コロナの影響を受けた昨年も約120例ほど施行しています。そして当院は透析症例が多いという背景からEVT施行例の約7割がこのCLTI患者さんです。今回から改訂されたガイドラインをベースに、当院の経験も交えてCLTIについて紹介していきます。
まず、先ほどから登場しているCLTI(シーエルティーアイ)ですが、Chronic Limb-Threatening Ischemiaの略で、日本語では「包括的高度慢性下肢虚血」と訳されています。
下肢虚血,組織欠損,神経障害,感染などの肢切断リスクをもち,治療介入が必要な下肢を総称する概念で、虚血による安静時痛や下肢潰瘍,壊死が少なくとも2週間以上改善せず持続するものを指します。
もしかしたら、今までCLIという言葉を聞いたことがあるかもしれません。これはCritical Limb Ischemiaの略で、日本語で「重症下肢虚血」と呼んでいました。ところがCLIだと虚血の程度でしか評価していませんでしたが、虚血に加えて,創の部位や大きさ,感染が下肢の予後を大きく左右する要因になっていることが分かり、より的確に下肢切断リスクを反映する概念としてCLTIが出てきました。
このCLTIは血行再建を行わなければ1年以内の下肢切断率が20~30%、さらに1年死亡率も約20%という非常に予後の悪い集団です。ちなみにここでの下肢切断とは、踵がなくなる下腿レベルでの切断のことを指しており、大切断と呼んでいます。
また死亡率に関しては、ステージⅢの胃がんでは1年生存率が約80%、つまり1年死亡率が約20%ですから、どのくらい予後が悪いかが分かってもらえると思います。
もう一つ重要なことはCLTIで切断に至っても、大切断をうけた術後30日死亡率が4~22%、周術期死亡を免れても1年の死亡率は30~50%と非常に高いことです。
ですので、早期にCLTIを発見し、創治癒を得て、下肢切断を回避することが生命予後的にも極めて重要になることをぜひ知っておいてください。
(参考文献:日本循環器学会・日本血管外科学会 2022年改訂版末梢動脈疾患ガイドライン)
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心室中隔瘤
今年7月に仙台で開催されたTAVI関連学会のJTVT(日本経カテーテル心臓弁治療学会)で循環器内科の川原先生が発表した内容からシェアします。
心室中隔中を合併した重症AS患者に対するTAVの問題点を整理してくれています。
【心室中隔瘤】
心室中隔から右室側に膨隆する瘤状の構造物
Valsalva洞直下の心室中隔に左室から
右室に突出する心室中隔瘤(矢印)
【病因】
先天性:先天性心疾患の0.3%に合併 うち20%は心室中隔欠損(VSD)に合併
後天性:外傷・虚血・感染性心内膜炎後・VSDの術後に生じた報告例あり(稀)
(心臓 vol.49 No.6 (2017) 590-594)
【症状】
一般的には無症状 ただし合併症発生のリスクあり
合併症としては・・・
大動脈弁閉鎖不全症・三尖弁閉鎖不全症・瘤破裂・左右シャント・細菌感染・右室流出路狭窄・血栓塞栓症(脳梗塞・冠動脈塞栓)・不整脈(心室性頻拍・脚ブロック・房室ブロック)
【治療】
外科的なパッチ閉鎖 → 瘤閉鎖に伴う三尖弁弁尖のゆがみ、医原性伝導路障害のリスクあり
無症状であれば経過観察 → 上記のような合併症を有する場合には手術を検討
日心外会誌 47巻 2号:49-53 (2018)
【TAVIでの問題点】
①弁のsizing(中隔瘤をどう計測するか)
TAVIではCTでの計測が重要で、特にAnuulusやValsalvaの計測が弁のサイズ決定に重要です。でも、今回の心室中隔瘤はValsalva洞直下にあり、通常の計測では含まれる位置でした。瘤を含めるか含めないかでAnnulusの計測が変わってきます。
②中隔瘤部分からのPVL(弁周囲からの逆流)
中隔瘤部分が圧着しないため、術後にPVLが残存する可能性が懸念されました
③中隔瘤部分の脆弱性
中隔瘤部分は周囲組織比べて薄く、圧が加わることによる損傷のリスクも懸念されました。
本症例では特に大きな問題なく弁を留置でき、PVLもtrivial-mild程度で終了しています。術後3カ月の時点では経過良好ですが、症例数が少ないこともあり心室中隔瘤合併例のTAVI後の長期成績は不明であるため、今後もPVLや心室中隔瘤に関連した合併症の発生に注意してフォローしていく必要があると考えています。
(編集長)
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