専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
ピロリ菌除菌について
H.pylori感染では胃粘膜の慢性炎症を背景として胃・十二指腸潰瘍, 胃癌をはじめとしたH.pylori関連疾患を引き起こし, 胃酸分泌能など胃機能への影響や消化管以外の疾患との関連性も指摘されています.
『H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版』では, H.pylori除菌が強く勧められる疾患として, H.pylori感染胃炎, 胃・十二指腸潰瘍, 早期胃癌に対する内視鏡治療後胃, 胃MALTリンパ腫, 胃過形成性ポリープ, 機能性ディスペプシア, 胃食道逆流症, 免疫性血小板減少性紫斑病, 鉄欠乏性貧血が挙げられています.
実際には, 上部消化管内視鏡検査で前述のH.pylori感染関連疾患を認める場合, H.pylori感染診断検査を行います. 当院では血清抗H.pylori抗体測定で感染診断を行うことが多いです. 他に, 迅速ウレアーゼ試験, 鏡検法, 培養法(内視鏡による生検組織を用いる), 尿素呼気試験, 便中抗原測定法などがあります.
感染診断検査で陽性の場合, 1次除菌としてアンピシリン+クラリスロマイシン+PPIを7日間内服します. 1次除菌の成功率は75-90%で, 飲み忘れや中断なく内服すること, 除菌中の喫煙を避けることで除菌成功率が高まります. 除菌薬終了後4週以降に除菌判定検査を行います. このときは除菌前の影響を受けない尿素呼気試験(抗菌薬やPPI内服中は偽陰性となり得る), もしくは便中抗原検査(PPIの影響を受けにくい)を行います.
1次除菌失敗の場合, 2次除菌としてアンピシリン+メトロニダゾール+PPIを7日間内服し, 終了後4週以降で再び除菌判定検査を行います. 2次除菌も失敗の場合, 3次除菌へ進みますが, 3次除菌以降は保険適応外となります. ペニシリンアレルギーや腎機能低下のある患者さんでは, 抗菌薬の変更や減量が必要です.
除菌によって胃癌リスクは低下しますが, 除菌後長期経過後の胃癌発症も報告があり, 基本的には除菌後も1年ごとの上部内視鏡検査をお勧めしています.
参考文献:H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016年度版 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会
(やまガール)
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心室中隔穿孔
80歳台の女性が呼吸困難感を主訴に救急搬送されてきました。数日前から症状が悪化してきたとのこと。胸部レントゲンでは両側にうっ血と胸水を認めました。心電図では前胸部誘導で異常Q波とST上昇がありましたが、採血検査ではトロポニンが上昇しているものの、CKとCK-MBは正常範囲でした。心エコーも前壁~中隔のAkinesisがあり、心嚢液はありませんでした。
発症時期は分かりませんが、数日から1~2週間前発症のSTEMIに伴う心不全と判断し、血行再建は急がずに、まずは心不全のコントロールを付ける方針とし、NPPVとフロセミドの静注を開始。利尿も順調に得られて安心していたのですが、翌日の胸部レントゲンでは思いのほか改善していませんでした。いや、レントゲンだけ見ると、むしろ悪化していました。
さて、何が起きたのでしょうか?
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編集長は心音を聴取する時は、心尖拍動の触知をするのをほぼルーチンにしているのですが、この時は心尖部から胸骨寄りでThrillを触れました。また汎収縮雑音も聴取しました。心エコーを改めてやってみると、こんな画像が得られました。
そう、STEMIの重篤な機械的合併症の一つである心室中隔穿孔(VSP:Ventricular septum perforation)でした。入院時にはThrillは無かったので、おそらく入院後にVSPを発症したのだと推察しました。(画像は心尖部からの四腔像)
VSPをまとめておくと・・・、
STEMIでもNon-STEMIでもVSPは発症しますが、再潅流療法が行われるようになってからは頻度は非常に少なく、STEMI患者で0.21%、Non-STEMI患者では0.04%とされています。しかし発症して手術をしなければ、2か月以内の死亡率が90%と報告されています。
一方で手術をしたとしても、死亡率は50%を超えていて、ショックを呈する患者では手術死亡が81~100%という報告もあります。最近では経皮的に閉鎖デバイスを用いたメタ解析がありますが、それでも死亡率は32%と高率であることには変わりありません。
発症のタイミングは24時間~2週間と言われていて、前壁梗塞でも下壁梗塞でも起こり得ます。症状は軽い息切れの悪化からショックまで非常に幅広いようです。治療は前述の通り外科的修復もしくは経皮的閉鎖デバイスですが、手術時期については一定の見解はないものの、梗塞領域が線維化する数週間後に施行した方が良いとの意見が多いようです。
冒頭の症例は、高齢で認知症もあったことなどからご家族と何度も相談した結果、手術は行いませんでした。あなたも心不全を合併したSTEMI患者で予想と違う経過の時は、頻度は低いもののこのような合併症が無いか考えてみてください。
(参考文献:JACC CardiovascInterv 2019; 12:1825、 EuroIntervention 2016;12:94)
(編集長)
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サブスぺ研修に向けて、コネなしからコネを作る方法
J2になったあなたは、来年からの専門研修先をどうするか考え始めていると思います。先輩などの話を聞いて、見学に行く施設を物色中という感じでしょうか?
自分のやりたい領域がある程度決まっているというあなたは、もしかしたら専門研修先と、その後のサブスぺ研修先として将来働いてみたい有名病院との接点(コネ)が気になっているかもしれません。特に水戸済生会のような市中病院の専門研修プログラムでは、コネ少ないのではないか?と不安に思うかもしれません(注)。
確かにコネは重要ですが、施設とのコネというよりも人とのコネが重要です。人との出会いがあなたの人生を大きく変えるからです。ただ、たとえ医局にいたとしても、市中病院にいたとしても、あなたが自分から行動しないとコネはできません。そこで今回は専門研修後のサブスぺ研修に向けて、コネなしからコネを作る方法を紹介します。
コネなしからコネを作る方法の一つは、「学会や研究会で質問をする」ことです。
新型コロナの第8波が過ぎた現在は、かなりの学会がリアルで開催され、後日オンデマンドで視聴できるスタイルが多くなってきました。リアル参加できるのであれば、最初はちょっと気が引けるかもしれませんが、そこは気合を入れて質問してみてください。
演題ごとに質問すれば完璧ですが、そこまでできなくとも1つのセッションで1回は質問するとか、学会や研究会が開催されるたびに出席して、毎回質問を続けていると、「またあいつか」とかなりの確率で覚えてもらえます。それからセッション終了後に演者や座長を追いかけて、ロビーで質問するのもかなり有効です。これだと名刺を渡せるので名前を覚えてもらう確率は格段に上がります。
またオンライン開催の場合は、ライブで質問できなくとも、チャットなどに質問を入力するのも同様に有効です。取り上げられなくても、チャットに入れた質問はあとから座長や演者が目を通していることが多いからです。
さらに最近ではSNS上での勉強会に参加してみるという手もあります。編集長は主にTwitterを見ていますが、若手の先生からベテランの先生まで、いろいろな先生が主催するとても勉強になるグループがあって、そこに参加してコネを作ることも容易になってきました。
いずれの方法でも、質問するなどしてある程度接触回数を重ねて名前を覚えてもらい、タイミングを見て「施設見学をさせてもらえませんか?」とお願いして、実際に行ってみると良いでしょう。学会場と違った話も聞けるし、施設見学をしたいと口では言っていても、実際に行動に移す人は少ないからです。だからこそ時間をやりくりして、自腹で施設見学に行くと、それだけ「やる気がある」「熱心だ」と良い印象を持ってもらえるので、積極的に行動してみるのが良いと思います。
大事なことは、何となく有名な施設だからではなく、人とのコネを重視して、そこで何を身に着けたいか、何を学びたいかをなるべく明確にして、具体的な目標や質問・疑問を持っていることが重要です。その方が「意欲があるやつ」と覚えてもらえる可能性が高くなります。
あなたのキャリアは、あなたが作っていくものです。ただ、繰り返しになりますがコネはあなたの人生を変える大きなきっかけになるものですが、たとえ医局にいたとしても、市中病院にいたとしても、あなたが自分から行動しないとコネはできません。コネがないから行動しないのは、あまりにもったいない話。初期研修先を決めたときと同じように、サブスぺ研修先を決めるときも、自分の足を使って積極的に行動してみてください。
(注)ちなみに水戸済生会の内科専門研修プログラムでは、積極的にあなたのコネ作りのお手伝いをしているのでどうぞご安心ください♪
(編集長)
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急性心筋梗塞の病型分類
80歳台の女性が胸痛で救急搬送されてきました。ADLは自立していますが、糖尿病の既往があり、1週間前から下腿浮腫に気づいており、2日前から労作時の息切れもあったそうです。この日は夜間就寝中に突然の胸痛を自覚したとのことでした。胸部レントゲンでは両側に肺うっ血と胸水を認め、心不全の増悪で間違いなさそう。ところが心電図は下壁誘導でわずかですがST上昇あり。トロポニンも陽性でエコーでも下壁の動きは低下していたため、STEMIの診断で緊急PCIとなりました。
PCIをやってみると、前下行枝と回旋枝に狭窄病変はあるものの閉塞病変はありませんでした。下壁でST変化があったことから回旋枝病変に対してPCIを行うこととし、病変部をバルーンで拡張したものの硬い病変で、血栓が関与している印象はなし。ステントを留置して、無事終了しましたが、その後の心筋逸脱酵素の上昇も大したことない・・・・。なんか、いつものSTEMIとはちょっと印象がちがっている症例でした。
実はこの症例は、おそらくType2心筋梗塞と呼ばれるものですが、あなたは心筋梗塞に病変分類があることをご存じでしょうか?
前回の記事でも紹介した2018年のUniversal definitionでは、心筋梗塞の原因によりType 1~5に分類されています。
Type 1:アテローム性動脈硬化に併発した血栓症によるもの。
Type 2:心筋への酸素の需要と供給のミスマッチによるもの。
Type 3:心筋バイオマーカー未評価の状況下での心筋虚血による突然死。
Type 4a:PCI手技関連によるもの。
Type 4b:ステント血栓症によるもの。
Type 5:冠動脈バイパス(CABG)手技関連によるもの。
実際のところType3以下はあまり使うことはないのですが、Type2心筋梗塞はあなたも遭遇するかもしれません。
Type2心筋梗塞とは、具体的には冠動脈狭窄病変における酸素需給のインバランス,冠動脈攣縮,冠動脈解離などにより心筋壊死を伴う心筋傷害を認めるもののことを指しています。
冒頭の症例は、心不全のため酸素需要が増大したものの、冠動脈の狭窄病変があるため酸素の需要と供給にミスマッチが生じて起こったと考えられます。よくある冠動脈内の血栓が関与していない心筋梗塞のPCIは時々経験するので、決して珍しい訳ではありませんので、知っておいた方が良いと思います。
参考文献:Circulation. 2018;138:e618–e651
(編集長)
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