専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
「胃腸炎」よもやま話
皆様こんにちは。消化器内科の蒼いRX²です。
「胃腸炎」の季節ですね。
「『胃腸炎』はゴミ箱診断」
「カルテに『胃腸炎』と書くな」
「下痢がない『胃腸炎』はない」
「『胃腸炎』に抗生剤使うな」……
オーベンからこんな風に言われたことはありませんか?今回は俗にいう「胃腸炎」について少し掘り下げてみます。
☆今回のポイント
① 「胃腸炎」のmimickerを押さえる!
② 「胃腸炎」は臨床像にとことんこだわる!
①「胃腸炎」のmimickerを押さえる!
mimickerとは、本来は“ものまねをする人”という意味ですが、ここでは症状がとても似ていて誤診しやすい疾患を指します。「胃腸炎」のmimickerはあまりに多すぎて書ききれないので、ここでは致死的な疾患を3つだけ挙げますので是非覚えておいて下さい。
・敗血症:特に腎盂腎炎・胆管炎
・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
・アナフィラキシー:消化器症状の頻度は25~30%
どれも見逃したら大変なことになる疾患ですね。これらの典型的な臨床像を思い浮かべると、問診や診察で除外すべきポイントが見えてきます。
さて、これらに共通するとても重要なバイタルサインがひとつありますね……“呼吸数”です。「ん?この人胃腸炎っぽいけど、なんか呼吸が速いなぁ」と思った瞬間、ギアを入れ替えましょう。頻呼吸は急変の予兆です。迷わず血液ガスを取ってください。小児や高齢者は特に要注意です。
付け加えると、心筋梗塞の中でも特に下壁梗塞は嘔気・嘔吐を伴うことが多く「胃腸炎」と間違われやすいなので重要です。また、「女性を見たら妊娠と思え」は今も昔も変わらないクリニカルパールですが、特に異所性妊娠は常に鑑別に挙げておくことが大切です。
②「胃腸炎」は臨床像にとことんこだわる!
ではどんな条件がそろえば「胃腸炎」と呼べるのでしょうか。「胃腸炎」と呼ぶくらいなので、上部・下部消化管両方の症状が、上から下へ出てきます。つまり、「嘔気・嘔吐 → 下痢」という、この順番で出てこない限り、「胃腸炎」と呼んではいけません。
えっ順番も大事なの?と思うかもしれませんが、下痢が先行して嘔吐が後から来る疾患には虫垂炎、腸閉塞(閉塞機転より肛門側から軟便が出てくる)などが挙げられます。
また救急で超有名な林寛之先生は、ご自身の著書の中で「胃腸炎」に特徴的な臨床像を以下のように挙げられています。
・水様便がピーピー大量
・発熱や腹痛はあっても軽い(腹部所見に乏しい)
・嘔気・嘔吐が比較的強い
これらの臨床像を全て満たし、基礎疾患のない患者であれば、病歴と身体所見だけで自信をもって「胃腸炎」と診断できますので、採血やCTなど不要です(研修医の練習のためにエコーぐらい当ててあげると患者さんの満足度も上がって一石二鳥かもしれませんが)。
逆に完全に満たさないのであれば、カルテ上のプロブレムは「#胃腸炎疑い」よりも「#急性下痢症」や「#心窩部痛 #下痢 #発熱」などにしておいた方が無難です(バイアスがかかるのを避けるため)。
また血便など非典型的な症状があれば、それは絶対に「胃腸炎」ではないのでギアを入れ替えて精査すべきです。
少し長くなってしまいましたが、改めて今回の2つのポイント、
① 「胃腸炎」のmimickerを押さえる!
② 「胃腸炎」は臨床像にとことんこだわる!
これらをしっかり意識して診療にあたってください。それではまた。
<参考文献>
1) 林寛之著『ステップビヨンドレジデント4 救急で必ず出会う疾患編 Part2』羊土社
胃腸炎mimickerの表は必読です!
2) CDS勉強会資料『便通異常』林寛之先生
(蒼いRX²)
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