専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

CLTI  大切断(2)

2022.12.19
カテゴリー: 循環器

改訂されたガイドラインをもとにCLTIについて紹介しています。前回はCLTI治療の中での大切断のメリットと適応について紹介しました。今回は主にデメリットについてまとめてみます。

 

CLTIに対する大切断の主目的は,虚血性疼痛の緩和と病変組織,感染巣,壊死組織の除去であり、繰り返される再治療と長い治療期間からの解放されるというメリットがあることは前回も紹介しました。

 

しかし、最初はごく小さな足の傷が、大切断という大事件に発展することは患者や家族は想像だにしていないのが普通です。創治癒を得るまでに、どのくらいの期間がかかるのか、何回EVTをする必要があるのか、創傷ケアの継続の必要性、疼痛が持続してしまう可能性など、分からないことだらけで、患者や家族の事情や願い、目標とは一致しないことがほとんどです。そのため、予想されるこれらの情報を共有し,適切な意思決定を支援していくことが極めて重要になり、治療の各段階においても大切断や、場合によっては血行再建も大切断も行わない緩和医療も含めたあらゆる選択肢について話し合う必要があります。

 

そんな話をする時に知っておいた方が良い数字を押さえておきましょう。

 

<切断後の創傷治癒率>
小切断(足趾・足部切断)では追加のデブリードマンや切断は4~40%に必要。再入院率は約20%で,その大半は1ヵ月以内。

膝下切断後の一次治癒率は約60%であり,15%で膝上切断を要する.

膝上切断は最も一次治癒率が高い切断手法だが、ただし膝上切断でも術後30日で8.1%の治癒不全を認めるとの報告があり。

 

< 大切断術後の生命予後>
大切断術30日後死亡率は4~22%,大切断後5年の生命予後は30~70%。

特に低心機能症例は大切断に対する耐術能が低く、周術期死亡リスクは上昇する。

 

<切断後の歩行維持率>

膝下切断後の歩行維持率は33%,膝上切断後では0%

 

かなりショッキングな数字かもしれませんが、実際にCLTI患者さんを診ていると実感のある数字でもあります。CLTIについてはエビデンスと呼べるようなデータもまだまだ少ないのですが、今回のガイドラインには実臨床での疑問をPractical question(PQ)として取り上げています。

 

このPQはエビデンスが乏しい中で、ガイドラインを作成した委員の先生たちが臨床で患者さんと向き合いながら日々格闘しているのが分かる文章で、いろいろと良いことが書いてあります。その中でもこの大切断に関するPQは編集長としては非常に納得・共感するところがありましたので、転載させていただきます。

 

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わが国のCLTI患者は,高齢で,長期間透析によるアミロイドーシスによって手の巧緻性が失われ,糖尿病網膜症によって視力低下も認められる患者が多いため,義足装着が困難な患者も多く,その結果諸外国の報告に比較して歩行維持率は低い傾向にある.したがって若年者の事故や腫瘍切除後の患者のように,大切断術後に義足をつけて歩行が可能であるとの考え方は,わが国のCLTI患者においては当てはまらない.このように歩行機能が失われる可能性が高くなることや,創離開や周術期合併症があるため,安易に大切断を選択できない.透析患者において大切断を選択し大切断によって歩行機能が失われると,外来透析クリニックへの通院が困難になり,透析ができる施設へ入所するなど患者の社会的な環境が大きく変化する.大切断によって在宅での生活が失われる可能性も十分考慮する必要がある.したがって患者が在宅での生活を強く希望する場合には,創傷と付き合いながら疼痛管理と感染制御などの緩和医療を在宅で行うということも,わが国においては選択する場合もある.(ガイドラインのPQ10より転載)

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(参考文献:日本循環器学会・日本血管外科学会 2022年改訂版末梢動脈疾患ガイドライン)

(編集長)

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