専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

STが上昇するのはSTEMIだけ?

2022.07.25
カテゴリー: 循環器

オンコール当番だったある休日、ERから電話がかかってきました。

 

「60歳代の女性が自宅で倒れているのを発見されて、救急搬送されました。バイタルは大丈夫ですが、心電図の胸部誘導でST上昇を認めます。前壁のSTEMIだと思うのですが・・・・。」

 

STEMIなら、もちろんPCIをするので「すぐに病院に向かうので、心カテコールをお願いします」と返事しました。ただ、発症時間を知りたくて当直医に「何時ごろからの胸痛ですかね?」と聞くと、「意識レベルがヘンで、胸痛の訴えははっきりしません。」とのこと。

 

さて、この情報だけですが、あなたは鑑別に何を考えますか?

編集長はSTEMIなのに、意識障害を伴っているのがひっかかりました。胸痛がはっきりしないSTEMIはありです。でもSTEMIだけで意識レベルが悪くなることは通常ならありません。では、他に鑑別を挙げるとすると?

病院に向かいながら編集長が考えたことは「大動脈解離」でした。上行大動脈の解離が、冠動脈に及べばSTEMIになるし、腕頭動脈や左総頚動脈に及べば脳梗塞などを来すからです。ただし、解離に伴うSTEMIは右冠動脈を巻き込む下壁梗塞が多いのですが、今回のST上昇は前胸部誘導というのが合わない点です。

 

さて、病院に到着して患者さんのところに行ってみると確かに意識清明とは言えない、でも麻痺はないし、血圧の左右差もない状況でした。あまり大動脈解離っぽくないな、と思いながらエコーをあてましたが、少なくとも上行大動脈に解離のフラップは見えません。

 

そのままカテ室に搬送しようと思いつつ、救急科の先生にCTチェックを勧められてあまり乗り気ではないものの、チェックすることに。そしたらこんな画像でした・・・。

 

 

さて、この症例の答えは何だかわかりますか?

答えは、くも膜下出血(SAH)。そしてSAHを契機としたたこつぼ型心筋症でした。

 

たこつぼ型心筋症はもともと日本から報告された疾患概念ですが、STEMIと同じように胸痛とST上昇をきたします。しかし冠動脈に有意狭窄がなく、たこつぼのような特徴的な左室造影で診断されます。海外でもTakotsubo Cardiomyopathyで通用しますが、Stress CardiomyopathyとかApical ballooning syndrome、Catecholamine induced cardiomyopathyとも言われます。

 

情動ストレスなど、過度のストレスによって、カテコラミンが多量に分泌されることで、心筋障害や心筋の微細循環障害を来すのが原因ではないかと言われています。(JACC:72, 1955-1971, 2018)  当然SAHなどの頭蓋内のイベントでカテコラミンが多量に分泌され、たこつぼ型心筋症を起こします。

 

今回はSAHによって意識障害を来し、倒れていた。さらに、SAHを契機にたこつぼ型心筋症を起こし、STが上昇していたと考えられました。

 

よく遭遇する疾患の中から「なにか違う?」と重篤な疾患を見つけだす感覚は大事です。ただ、それには丁寧に臨床を積み重ねて経験値を上げていく必要があります。

(編集長)

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