専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

CLTI  治療(血行再建・2)

2022.10.17
カテゴリー: 循環器

改訂されたガイドラインをもとにCLTIについて紹介しています。

 

前回から治療について紹介しています。CLTIの血行再建を外科的バイパス手術にするかEVTにするかは、患者リスク、創傷の状態、血管の病変部位を考慮して決めることが推奨されています。

 

患者リスクでは2年以上の予後が予想される場合や、バイパスに用いる自家静脈がある時は外科的バイパス術を考慮していきます。創傷の状態では、創傷範囲が広い場合は外科的バイパス術を、創傷範囲が小さければEVTを考慮しますが、今回は血管病変部位での考え方です。

 

ガイドラインでは血管病変部位を以下のように分けています。

①大動脈腸骨動脈 Aorto-iliac(AI)領域

②総大腿動脈 Common femoral artery(CFA)領域

③大腿膝窩動脈 Femoropopliteal(FP)領域

④膝下動脈領 Infrapopliteal(IP)領域

⑤足関節以下 Inframaleoolar(IM)領域

 

①のAI領域はEVTが第一選択(ClassⅠ)となっています。

 

②のCFA領域では、孤発性のCFA病変なら外科的に血栓内膜摘除術(Thromboendoarterectomy:TEA)が第一選択(ClassⅠ)ですが、AI領域から連続した病変ならEVT+TEAのハイブリッド(ClassⅠ)となっています。

 

一方でCFAへのEVTは意外と成績が悪くないというデータもあるので、将来的にもバイパス術を行なわないようなリスクの高い患者さんにはEVTもありかもと記載されています。ちなみに当院でもそれなりに経験がありますが、確かに少なくとも短期~中期では悪くありません。

 

CLTIは通常,マルチレベルの閉塞性病変に起因して発生しますが、AI領域のみ、CFA領域のみ、そして③のFP病変のみが原因となることはまれで,多くは④のIP病変との複合病変です。特に組織欠損を伴う患者においては,FPとIPを複合病変として考える必要があります。ただし、具体的にどうすると良いかについては確立されたものはまだありません。

 

そういった背景を踏まえて、③のFP領域では浅大腿動脈(SFA)の閉塞長が長いもの(≧25㎝)は外科的バイパス術、短いもの(≦25㎝)はEVTとなっています(ともにClassⅠ)。外科的バイパス術なら自家静脈をグラフトに用いるのが推奨(ClassⅠ)ですが、人工血管の使用も可(ClassⅡb)となっています。ホントは外科的バイパス術が良い症例でも、自家静脈がないとか患者リスクが高い場合はEVTもあり(ClassⅡa)としています。

 

④のIP病変については、2年以上の予後が予想される患者で自家静脈グラフトがあれば外科的バイパス術ですが(ClassⅠ)、それができない患者に対してはEVTを考慮する(ClassⅡa)となっています。

 

IP病変へのEVTの基本は,3本ある膝下動脈のうち解剖学的に最も治療難易度の低い血管を1本再疎通させること(in-line flow to the foot)と言われていますが、標的血管の選択に関する統一した見解はまだありません。複数の膝下動脈へのEVTは有効だと思いますが、ガイドラインではClassⅡbの推奨となっています。

 

⑤のIM領域については、患肢の予後に強く影響します。しかし切断回避などの効果は示されておらず、現時点では創傷治癒遅延をきたしている場合にEVT を考慮してもよい(Ⅱb)、という位置づけです。当院でもできるだけ血行再建を試みていますが、上手くいくこともありますが、石灰化の強い長期透析患者さんでは残念ながら歯が立たないのが現状です。

 

結局のところ、CLTIの血行再建は患肢が重症なほど外科的バイパス術が向き、患者リスクが高いほどEVTが望ましいと言えます。しかし、外科的バイパス術は原則として自家静脈グラフトが前提なので、実際にお願いする患者さんは少ないのが当院の現状です。EVTの成績はまだまだと言えますが、だからと言ってCLTIの血行再建をしない訳にはいきません。下肢切断を何とか回避しようと思いながら日々取り組んでいます。

 

(参考文献:日本循環器学会・日本血管外科学会 2022年改訂版末梢動脈疾患ガイドライン)

(編集長)

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