専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

大動脈弁狭窄症(SAVRとTAVI) 

2023.07.17
カテゴリー: 循環器

前回まででASの重症度評価を紹介してきました。今回から治療に関してです。

 

今さらですが、ASは内科的治療では限界があり、外科的治療介入が必要な病気ですが、どのタイミングで、どの外科的治療を選択すべきかは症例ごとに非常に悩むところです。

 

外科的治療には、ご存じの通り外科的大動脈弁置換術(SVAR)と経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)があり、その特徴はおさえておきましょう。

 

SAVRの周術期死亡率は全体で3.0%(SAVR単独2.4%、SAVR+CABG5.4%)、特に80歳以上では5.2%(SAVR単独4.6%、SAVR+CABG7.1%)となっています。長期成績についてもTAVIと同様のウシ心膜を用いた生体弁を70歳以上に植え込んだ場合、人工弁関連死回避率は15年で91~100%,20年で70%となっています。

 

一方でTAVIの30日死亡率は2%以下となっていますが、弁の耐久性は10年以下ならSAVRと遜色ないものの、10年以上の成績が出ていないこと、TAVIを植え込むことで房室ブロックを来してペースメーカー植え込みが必要になることがあるのが弱点です。

 

ガイドラインでもどの治療を選択するのかなど、治療方針を決める際には患者の希望も十分考慮しつつ、ハートチームで以下の点を協議して決めるように推奨しています。

 

①患者背景に関する因子

【SAVRを考慮する因子】

 ・若年
 ・IEの疑い
 ・開胸手術が必要な他の疾患が存在する

   CABGが必要な重症冠動脈疾患
   外科的に治療可能な重症の器質的僧帽弁疾患
   重症TR
   手術が必要な上行大動脈瘤
   心筋切除術が必要な中隔肥大

 

【TAVIを考慮する因子】

 ・高齢
 ・フレイル
 ・全身状態不良
 ・開胸手術が困難な心臓以外の疾患・病態が存在する
   肝硬変
   呼吸器疾患
      閉塞性肺障害(おおむね1秒量<1L)
      間質性肺炎(急性増悪の可能性)
   出血傾向

 

②SAVR,TAVIの手技に関する因子

【SAVRを考慮する因子】

 ・TAVIのアクセスが不良
   アクセス血管の高度石灰化,蛇行,狭窄,閉塞
 ・TAVI時の冠動脈閉塞リスクが高い
    冠動脈起始部が低位・弁尖が長い・バルサルバ洞が小さいなど
 ・TAVI時の弁輪破裂リスクが高い
   左室流出路の高度石灰化があるなど
 ・弁の形態,サイズがTAVIに適さない
 ・左室内に血栓がある

 

【TAVIを考慮する因子】

 ・TF-TAVIに適した血管アクセス
 ・術野への外科的アプローチが困難
   胸部への放射線治療の既往 (縦隔内組織の癒着)
   開心術の既往
   胸骨下に開存するバイパスグラフトの存在
   著しい胸郭変形や側弯
 ・大動脈遮断が困難 (石灰化上行大動脈)
 ・PPM(prosthesis-patient mismatch:人工弁患者不適合)が避けられないような狭小弁輪

 

参考:弁膜症治療のガイドライン2020年改訂版

(編集長)

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