専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

急性膵炎のはなし3 輸液

2022.03.21
カテゴリー: 消化器内科

今回は急性膵炎と輸液についてです。

 

急性膵炎の治療で一番大切な治療は何でしょうか?  それは大量輸液です。1にも2にも大量輸液、これが大切です。

 

急性膵炎でなぜ大量輸液が必要なのか。それは、重篤な炎症が膵および膵周囲で引き起こされることにより、炎症性サイトカインが放出され、血管透過性が非常に亢進します。すると、血管内の水分がいわゆる”3rd space”に流れることで、血管内脱水を引き起こします。結果DICを引き起こしたり、血流障害から多臓器不全に至ったりするわけです。

 

さて、血管透過性が亢進した患者さんに大量輸液をしたらどうなるでしょうか。そう、全身パンパン、浮腫みまくります。なので、重症膵炎の患者さんは、最初っからトリプルのCV入れちゃいましょう。膵炎の輸液1個目のポイントは、重症は最初からCV、です(ガイドラインに書かれているわけではありません)。

 

輸液の種類ですが、基本的には細胞外液です。乳酸リンゲル液vs生食の研究がなされていますが、乳酸リンゲル液のほうが予後が良いことがわかっています。生食の大量輸液による高クロール性代謝性アシドーシスが一因になっているでしょう。なお、乳酸リンゲル液以外の酢酸リンゲルや重炭酸リンゲルを含めた試験は僕が調べた限りでは大規模なものは見つけられませんでした。人工膠質液については有効であるデータは示されておらず、現時点では推奨されていません。ということで、輸液の第二段階としては、細胞外液の輸液が重要である、ということを押さえておきましょう。

 

次に、その輸液速度や量の目安についてです。輸液速度や輸液量の決定には、搬入時の腎障害の程度やCTでの炎症の広がり方から本物の重症膵炎か、偽物の重症膵炎か(ただ重症判定基準を満たしただけのものは偽物。膵虚血を伴っていたり、診断時点で腎機能の低下をきたしていたりするものを本物などと呼んでいます。がこれは個人的なものです。)など、考慮すべき点が多数あります。

 

輸液を量で管理するか、速度で管理するかは医師や施設で意見の分かれるところだと思います。当院でも一致していません。僕はオーダーの見やすさから「量」で管理していますが、本物の重症膵炎などの場合は「速度」で管理しています。なのでとりあえずは「速度」で管理することを覚えるほうが良いかと思います。輸液速度(量もですが)の決定に重要なのは、血圧が保たれているか、脱水をきたしていないか(尿量が保たれているか)、元々の腎不全や心不全はないか、という部分になります。

 

僕の個人的な意見としては、脱水でDICを増長したり腎不全をきたしたりするとじり貧になってしまうので、僕は悩んだときは多めに入れます。心不全になったら引く。水分過多は利尿薬やCHDFという次の手がありますが、脱水が遷延したときは合併症が待っている、という風に考えています。(他のエキスパートの意見があれば、是非ご教授ください)

 

そのうえで、vitalの目標をたて、本物の膵炎であれば体格などにもよりますが200-300ml/h程度で輸液を開始することが多いです。経験の浅い先生は必ず指導医の意見を仰ぐことを進めます。個々の輸液量の決定は非常に重要です。Vitalの目標は平均動脈圧65mmHg以上、尿量を0.5ml/kg/hをクリアすることとしています。

 

具体的な看護指示は

「sBP 80mmHg以下の時Dr.call」

⇒ call来たら輸液速度を50ml/h程度upを考慮します。呼吸状態や尿量次第では昇圧薬の併用を考慮します。

尿量 100ml/2h以下の時Dr.call(体重60kgの男性として、最低目標ラインは60ml/2hでよいですが、ぎりぎりすぎるよりは多めに入れるべく、余裕を持った指示にしています)

⇒ call来たら輸液速度を上記のように検討してup。

 

尿量が不足している場合に、ラシックスできっかけを作ってあげることもありますが、それには脱水がないことを確認すべきです。一番良いのは中心静脈圧測定やエコーでIVCを評価してあげることです。本物の重症膵炎を診ているときは、気になるときはもう行って直接視るというのを癖づけたほうが良いと思います。ということで、輸液の第三段目はvitalを診ながら200ml/h以上の速度での輸液を考慮、です。

 

膵炎の記事は長い! 本文中にも書きましたが、もしエキスパートの先生でご覧になった先生で、知識を分けてくださる先生いらっしゃいましたらご教授いただけましたら幸いです。

(Nao)

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