専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

右室梗塞

2023.05.08
カテゴリー: 循環器

STEMIが来た時は、患者さんを急いでカテ室に搬入し、さっさと再潅流を得たいところです。でも、STEMIは刻々と状況が変わりやすく、ERで待っている間にVTやVfを来すことがあります。そんな時は当然除細動ですし、もし心源性ショック、肺水腫となっていれば、先に挿管が必要になります。こう言った命に直結するイベントに適切に対処して、患者さんが元気になるのが循環器医の醍醐味の一つです。今回はSTEMIの中でも、取扱いに注意が必要な右室梗塞についてまとめてみようと思います。

 

右室梗塞は右冠動脈の心筋梗塞のことではありません。右冠動脈の近位部が閉塞することで、左室の下壁領域が壊死に至るだけでなく、右室の壁運動が障害された結果、右室から肺動脈への拍出が出来なくなり、左室への潅流が減って血圧低下に至るものです。下壁や後壁梗塞の25%~50%に合併するとされています。

 

STEMIの時に血圧低下に至るのは、通常は左室の収縮が低下して肺うっ血を来すパターン(心原性ショック)が多いのですが、右室梗塞では肺動脈への血流が低下するので、肺うっ血を来さずに、頸静脈の怒張を来します。

 

と言うことで、もしあなたが下壁の心筋梗塞患者に遭遇した時に、

①血圧が低く

②SatO2が下がっていない(=肺うっ血がない)

この2つがあれば、右室梗塞を疑いましょう。

 

身体所見としては、頸静脈怒張の有無を短時間で確認し、心電図では下壁梗塞(Ⅱ、Ⅲ、aVF)でのST上昇を確認したら、次にV1のST上昇がないかを確認します。V1のST上昇は右冠動脈近位部の閉塞を示すからです。さらにV4の電極を、胸骨を挟んで反対側に付け替えて(V4Rと言います)心電図を記録し、ST上昇があれば確実です。

 

さて、混乱しやすいのは治療です。

心筋梗塞ですから、速やかにPCIなど再灌流療法を行うのは言うまでもありませんが、心筋梗塞なら硝酸薬とか、肺うっ血を伴っていれば利尿剤を使いたくなりますよね。しかし右室梗塞では利尿薬や硝酸薬、モルヒネを使用するのはアブナイです。前負荷が低下すると、さらに血圧が下がるからです。逆に生理食塩水などで輸液をどんどん入れる必要があります。そして右室から肺動脈への拍出を増加させる目的でカテコラミン(ドパミン、ドブタミン)を使用します。(閉塞性ショックの対応)

 

初期対応を間違えずに行えば、PCI後には比較的速やかに血圧が落ち着くことがほとんどですが、遷延する時はIABPやECMOの使用を考えます。

(編集長)

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病院見学のススメ・・・専門研修編

2023.05.01
カテゴリー: ブログ

新年度になってあっという間に1か月が過ぎました。新型コロナも時々遭遇しますが、昨年や一昨年と比べたら平和になりましたね。

 

さて、J2のあなたは来年度からの専門研修プログラムをどうするか、どこに、いつ見学に行くべきかをそろそろ考えていると思います。もしかしたら、そもそもどの診療科にしようかと決めかねているかもしれませんが、見学に行こうと思えば夏休みとかを気にせずに、有休をとっていつでも行けます。専門研修プログラムを決めるのは、専門医機構が次年度の専攻医登録を開始する秋(2022年は11月から開始でした)ですが、まだ時間があると思わないで、少しずつでも情報収集を始めるのが良いと思います。

 

水戸済生会には基幹型の内科専門研修プログラムがあり、おかげさまで昨年度は定員いっぱいの4名に来ていただくことができました。今年度も既に病院見学にお越しいただいた方もいて、年々前倒ししている印象です。そこで、当院に限った話ではなく、専門研修プログラムを決めるときのポイントを紹介します。

 

①各施設のプログラムに目を通しましょう。

各領域の基幹学会が専門研修プログラムを取りまとめてWebで見れるようにしています。どれも「研修の理念」とかで始まるので、ぱっと見で読みにくい印象ですが、待遇などのところは毎年見直しが入っているので、チェックしておくのが良いです。また基本的に1つの施設だけで研修する訳ではないので、ローテーション可能な施設もここから知ることができます。参考までに、内科学会のサイトのリンクを貼っておきます。

内科学会の研修施設、プログラムのページ

 

②気になる病院には、可能な限り病院見学に行くべきです。

最近ではレジナビなどのイベントでも専門研修プログラムを紹介するものが増えてきました。でも、なかなか参加できるわけではありませんので、情報収集はまだまだ口コミや先輩のツテというのが多いようです。だとすればなおさら、気になる病院や候補の病院には可能な限り病院見学に行ってください。

 

さらに大学の医局も各種イベントに力を入れるところが増えています。医局の先生達や研究内容などを知れるチャンスですので、できるだけ参加しましょう。

 

③病院見学に行った際のポイントは・・・、

指導医クラス(大学の医局なら医局長)の話は、半分程度に聞いておけばOKです。なぜかと言えば、基本的にイイことしか言わないからです。何とか先輩になる専攻医から直接話を聞きましょう。病院見学の際にはコンタクトをとれなくとも、指導医に紹介してもらうなどして、後日でも実際に働いている専攻医とコンタクトをとる努力をしてください。そしてあなたの知りたいことを質問してみましょう。待遇や他施設のローテーション状況など、プログラムに書かれていない情報を得ることができます。また内科であればJ-OSLERの進み具合やサポートなども聞いておくと役に立つと思います。

 

そしてカテ室や内視鏡室、エコー室など、実際に案内してもらい、専攻医たちの元気の良さや看護師さんや技師さんたちの雰囲気にも注目してみると良いと思います。

 

④できるだけ複数回行きましょう。

専攻医を採用する時に、定員越えで選抜する施設は少ないと思いますが、気になっている病院には複数回見学に行くことをおススメします。なぜかと言えば、先輩となる専攻医と話すチャンスが増えて、あなたのイメージしている専門研修とのギャップを少なくできるはずです。さらにあなたの存在が相手の記憶にも残りやすくなります。初期研修医の採用はマッチングという、手だしできないシステムが介在していますが、専門研修ではそのようなシステムはありませんので。

 

⑤水戸済生会に見学に来ていただいた時は

・希望診療科の専攻医について、できるだけ内視鏡やカテなどに一緒に入ってもらうようしています。

・昼食時に専攻医や指導医と話をする時間が確保しています。ここで、聞きたいことを全部聞くことができるはずです。

・あなたと同じJ2の研修医とも情報交換できるようにしています。

 

忙しい仕事の合間に見学に行くのは大変ですが、悔いのないように情報収集をしてください。

水戸済生会では専門研修プログラムのための病院見学を随時受け付けていますので、下のリンクからお申し込みください!

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(編集長)

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ピロリ菌除菌について

2023.04.24
カテゴリー: 消化器内科

H.pylori感染では胃粘膜の慢性炎症を背景として胃・十二指腸潰瘍, 胃癌をはじめとしたH.pylori関連疾患を引き起こし, 胃酸分泌能など胃機能への影響や消化管以外の疾患との関連性も指摘されています. 

 

『H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版』では, H.pylori除菌が強く勧められる疾患として, H.pylori感染胃炎, 胃・十二指腸潰瘍, 早期胃癌に対する内視鏡治療後胃, 胃MALTリンパ腫, 胃過形成性ポリープ, 機能性ディスペプシア, 胃食道逆流症, 免疫性血小板減少性紫斑病, 鉄欠乏性貧血が挙げられています.

 

実際には, 上部消化管内視鏡検査で前述のH.pylori感染関連疾患を認める場合, H.pylori感染診断検査を行います. 当院では血清抗H.pylori抗体測定で感染診断を行うことが多いです. 他に, 迅速ウレアーゼ試験, 鏡検法, 培養法(内視鏡による生検組織を用いる), 尿素呼気試験, 便中抗原測定法などがあります.

 

感染診断検査で陽性の場合, 1次除菌としてアンピシリン+クラリスロマイシン+PPIを7日間内服します. 1次除菌の成功率は75-90%で, 飲み忘れや中断なく内服すること, 除菌中の喫煙を避けることで除菌成功率が高まります. 除菌薬終了後4週以降に除菌判定検査を行います. このときは除菌前の影響を受けない尿素呼気試験(抗菌薬やPPI内服中は偽陰性となり得る), もしくは便中抗原検査(PPIの影響を受けにくい)を行います.

 

1次除菌失敗の場合, 2次除菌としてアンピシリン+メトロニダゾール+PPIを7日間内服し, 終了後4週以降で再び除菌判定検査を行います. 2次除菌も失敗の場合, 3次除菌へ進みますが, 3次除菌以降は保険適応外となります. ペニシリンアレルギーや腎機能低下のある患者さんでは, 抗菌薬の変更や減量が必要です.

 

除菌によって胃癌リスクは低下しますが, 除菌後長期経過後の胃癌発症も報告があり, 基本的には除菌後も1年ごとの上部内視鏡検査をお勧めしています.

 

参考文献:H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016年度版 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会

(やまガール)

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心室中隔穿孔

2023.04.17
カテゴリー: 循環器

80歳台の女性が呼吸困難感を主訴に救急搬送されてきました。数日前から症状が悪化してきたとのこと。胸部レントゲンでは両側にうっ血と胸水を認めました。心電図では前胸部誘導で異常Q波とST上昇がありましたが、採血検査ではトロポニンが上昇しているものの、CKとCK-MBは正常範囲でした。心エコーも前壁~中隔のAkinesisがあり、心嚢液はありませんでした。

 

発症時期は分かりませんが、数日から1~2週間前発症のSTEMIに伴う心不全と判断し、血行再建は急がずに、まずは心不全のコントロールを付ける方針とし、NPPVとフロセミドの静注を開始。利尿も順調に得られて安心していたのですが、翌日の胸部レントゲンでは思いのほか改善していませんでした。いや、レントゲンだけ見ると、むしろ悪化していました。

 

さて、何が起きたのでしょうか?

編集長は心音を聴取する時は、心尖拍動の触知をするのをほぼルーチンにしているのですが、この時は心尖部から胸骨寄りでThrillを触れました。また汎収縮雑音も聴取しました。心エコーを改めてやってみると、こんな画像が得られました。

 

そう、STEMIの重篤な機械的合併症の一つである心室中隔穿孔(VSP:Ventricular septum perforation)でした。入院時にはThrillは無かったので、おそらく入院後にVSPを発症したのだと推察しました。(画像は心尖部からの四腔像)

 

VSPをまとめておくと・・・、

 

STEMIでもNon-STEMIでもVSPは発症しますが、再潅流療法が行われるようになってからは頻度は非常に少なく、STEMI患者で0.21%、Non-STEMI患者では0.04%とされています。しかし発症して手術をしなければ、2か月以内の死亡率が90%と報告されています。

 

一方で手術をしたとしても、死亡率は50%を超えていて、ショックを呈する患者では手術死亡が81~100%という報告もあります。最近では経皮的に閉鎖デバイスを用いたメタ解析がありますが、それでも死亡率は32%と高率であることには変わりありません。

 

発症のタイミングは24時間~2週間と言われていて、前壁梗塞でも下壁梗塞でも起こり得ます。症状は軽い息切れの悪化からショックまで非常に幅広いようです。治療は前述の通り外科的修復もしくは経皮的閉鎖デバイスですが、手術時期については一定の見解はないものの、梗塞領域が線維化する数週間後に施行した方が良いとの意見が多いようです。

 

冒頭の症例は、高齢で認知症もあったことなどからご家族と何度も相談した結果、手術は行いませんでした。あなたも心不全を合併したSTEMI患者で予想と違う経過の時は、頻度は低いもののこのような合併症が無いか考えてみてください。

(参考文献:JACC CardiovascInterv 2019; 12:1825、  EuroIntervention 2016;12:94)
(編集長)

 

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サブスぺ研修に向けて、コネなしからコネを作る方法

2023.04.10
カテゴリー: ブログ

J2になったあなたは、来年からの専門研修先をどうするか考え始めていると思います。先輩などの話を聞いて、見学に行く施設を物色中という感じでしょうか?

 

自分のやりたい領域がある程度決まっているというあなたは、もしかしたら専門研修先と、その後のサブスぺ研修先として将来働いてみたい有名病院との接点(コネ)が気になっているかもしれません。特に水戸済生会のような市中病院の専門研修プログラムでは、コネ少ないのではないか?と不安に思うかもしれません(注)。

 

確かにコネは重要ですが、施設とのコネというよりも人とのコネが重要です。人との出会いがあなたの人生を大きく変えるからです。ただ、たとえ医局にいたとしても、市中病院にいたとしても、あなたが自分から行動しないとコネはできません。そこで今回は専門研修後のサブスぺ研修に向けて、コネなしからコネを作る方法を紹介します。

 

コネなしからコネを作る方法の一つは、「学会や研究会で質問をする」ことです。

 

新型コロナの第8波が過ぎた現在は、かなりの学会がリアルで開催され、後日オンデマンドで視聴できるスタイルが多くなってきました。リアル参加できるのであれば、最初はちょっと気が引けるかもしれませんが、そこは気合を入れて質問してみてください。

 

演題ごとに質問すれば完璧ですが、そこまでできなくとも1つのセッションで1回は質問するとか、学会や研究会が開催されるたびに出席して、毎回質問を続けていると、「またあいつか」とかなりの確率で覚えてもらえます。それからセッション終了後に演者や座長を追いかけて、ロビーで質問するのもかなり有効です。これだと名刺を渡せるので名前を覚えてもらう確率は格段に上がります。

 

またオンライン開催の場合は、ライブで質問できなくとも、チャットなどに質問を入力するのも同様に有効です。取り上げられなくても、チャットに入れた質問はあとから座長や演者が目を通していることが多いからです。

 

さらに最近ではSNS上での勉強会に参加してみるという手もあります。編集長は主にTwitterを見ていますが、若手の先生からベテランの先生まで、いろいろな先生が主催するとても勉強になるグループがあって、そこに参加してコネを作ることも容易になってきました。

 

いずれの方法でも、質問するなどしてある程度接触回数を重ねて名前を覚えてもらい、タイミングを見て「施設見学をさせてもらえませんか?」とお願いして、実際に行ってみると良いでしょう。学会場と違った話も聞けるし、施設見学をしたいと口では言っていても、実際に行動に移す人は少ないからです。だからこそ時間をやりくりして、自腹で施設見学に行くと、それだけ「やる気がある」「熱心だ」と良い印象を持ってもらえるので、積極的に行動してみるのが良いと思います。

 

大事なことは、何となく有名な施設だからではなく、人とのコネを重視して、そこで何を身に着けたいか、何を学びたいかをなるべく明確にして、具体的な目標や質問・疑問を持っていることが重要です。その方が「意欲があるやつ」と覚えてもらえる可能性が高くなります。

 

あなたのキャリアは、あなたが作っていくものです。ただ、繰り返しになりますがコネはあなたの人生を変える大きなきっかけになるものですが、たとえ医局にいたとしても、市中病院にいたとしても、あなたが自分から行動しないとコネはできません。コネがないから行動しないのは、あまりにもったいない話。初期研修先を決めたときと同じように、サブスぺ研修先を決めるときも、自分の足を使って積極的に行動してみてください。

 

(注)ちなみに水戸済生会の内科専門研修プログラムでは、積極的にあなたのコネ作りのお手伝いをしているのでどうぞご安心ください♪

(編集長)

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急性心筋梗塞の病型分類

2023.04.03
カテゴリー: 循環器

80歳台の女性が胸痛で救急搬送されてきました。ADLは自立していますが、糖尿病の既往があり、1週間前から下腿浮腫に気づいており、2日前から労作時の息切れもあったそうです。この日は夜間就寝中に突然の胸痛を自覚したとのことでした。胸部レントゲンでは両側に肺うっ血と胸水を認め、心不全の増悪で間違いなさそう。ところが心電図は下壁誘導でわずかですがST上昇あり。トロポニンも陽性でエコーでも下壁の動きは低下していたため、STEMIの診断で緊急PCIとなりました。

 

PCIをやってみると、前下行枝と回旋枝に狭窄病変はあるものの閉塞病変はありませんでした。下壁でST変化があったことから回旋枝病変に対してPCIを行うこととし、病変部をバルーンで拡張したものの硬い病変で、血栓が関与している印象はなし。ステントを留置して、無事終了しましたが、その後の心筋逸脱酵素の上昇も大したことない・・・・。なんか、いつものSTEMIとはちょっと印象がちがっている症例でした。

 

実はこの症例は、おそらくType2心筋梗塞と呼ばれるものですが、あなたは心筋梗塞に病変分類があることをご存じでしょうか?

 

前回の記事でも紹介した2018年のUniversal definitionでは、心筋梗塞の原因によりType 1~5に分類されています。

 

Type 1:アテローム性動脈硬化に併発した血栓症によるもの。

Type 2:心筋への酸素の需要と供給のミスマッチによるもの。

Type 3:心筋バイオマーカー未評価の状況下での心筋虚血による突然死。

Type 4a:PCI手技関連によるもの。

Type 4b:ステント血栓症によるもの。

Type 5:冠動脈バイパス(CABG)手技関連によるもの。

 

実際のところType3以下はあまり使うことはないのですが、Type2心筋梗塞はあなたも遭遇するかもしれません。

 

Type2心筋梗塞とは、具体的には冠動脈狭窄病変における酸素需給のインバランス,冠動脈攣縮,冠動脈解離などにより心筋壊死を伴う心筋傷害を認めるもののことを指しています。

 

冒頭の症例は、心不全のため酸素需要が増大したものの、冠動脈の狭窄病変があるため酸素の需要と供給にミスマッチが生じて起こったと考えられます。よくある冠動脈内の血栓が関与していない心筋梗塞のPCIは時々経験するので、決して珍しい訳ではありませんので、知っておいた方が良いと思います。            

参考文献:Circulation. 2018;138:e618–e651

(編集長)

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急性心筋梗塞の診断基準

2023.03.27
カテゴリー: 循環器

ERに搬送されて来た70歳代の男性。主訴は胸痛。発症から約3時間で来院しました。心電図は下壁誘導でST上昇あり。緊急PCIで右冠動脈の閉塞を認めて、ステント留置で無事に再灌流に成功しました。よくあるSTEMIの症例です。ところがPCI終了後にERで初療を行ってくれた初期研修医からこんな質問がありました。

 

「来院時の採血でWBCもCPKもLDHもトロポニンも全く正常でしたけど、こんなことってあるんですか?」

答えはもちろん「あり」です。STEMIでも発症から早ければ血液検査が正常ということは当然あります。

 

でも現場でやっていると、「WBCも何も上昇していない、いいのかな?」とか「循環器の先生を呼んじゃったけど良かったのかな?」などと、急に不安になった経験があなたにもあるはずです。後から考えれば何てことないのですが、臨床とはそういうものです。なので心配しなくて大丈夫です。

 

でも、自分なりに症例を振り返り、次に同じような状況に遭遇した時に自信をもって対応できるように経験を積み上げていくことが大事です。

 

では、この症例に関連して質問です。急性心筋梗塞の診断基準は何でしょう?

意外とこの質問に自信をもって答えられる専攻医は少ないものです。なので、この機会に是非とも覚えてください。

 

急性心筋梗塞の診断基準は2012年に欧州心臓病学会と米国心臓病学会からUniversal definitionなるガイドラインが出されています。これには、トロポニン上昇に加えて、

  1. 心筋虚血による症状
  2. 心電図による新たなST-T変化、新たな左脚ブロックの出現
  3. 心電図にて異常Q波出現
  4. 画像診断にて新たな心筋のバイアビリティ喪失、新た壁運動異常
  5. 冠動脈血管造影や剖検での冠動脈内の血栓の同定 

上記5つのうち1つ以上を満たすと定義されています。

 

このUniversal definitionが覚えにくいもしくは覚えたくない、という場合は以前に用いられていたWHOの診断基準が簡単です。

それは

・虚血による胸部症状

・心筋梗塞に合致する心電図変化

・心筋逸脱酵素の上昇

このうち2つ以上あれば急性心筋梗塞と診断します。

 

疾患概念や疾患の定義、診断基準は変わるものですが、遭遇頻度の高い疾患については、現場で経験した時に確認してみると頭に入りやすくなります。

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これからは、あなたが決める番です

2023.03.20
カテゴリー: ブログ

今J2のあなたは、あと2週間もしたら初期研修医を終えて、専攻医としてのトレーニングが始まります。

 

今までは上級医や指導医に判断してもらい、それを忠実に実行していれば評価されたかもしれません。でも専攻医になると、重要な方針は指導医と相談しつつも、細かい指示や判断までいちいち指導医に仰ぐのではなく、あなたが決めなくてはなりません。

 

「決める」「判断する」ということは、思っている以上に大変なことで、不安がつきものです。例えば、もし専攻医になったあなたが当直中に、こんな症例に遭遇したらどうでしょうか?

70歳代の男性で主訴は心窩部痛。当日早朝から心窩部痛を自覚し、何度か嘔吐もありました。自宅で様子をみていたけど、飲水も食事も十分出来ずに、心窩部痛が持続するため夜になってERを受診しました。

 

受診時のバイタルは血圧90/60 mmHg 脈拍40bpm 体温35.6度 呼吸数22回心電図では心室レートが40回/分の完全房室ブロックと下壁誘導のST上昇を認めました。

 

どこから見てもSTEMIで、しかも徐脈とショックになっているので早急な対応が必要です。ER当直中のあなたは循環器内科をコールして、緊急PCIの準備を看護師さんたちに指示しました。

 

ところが採血結果が出たので見てみると、Cr3.6mg/dlと腎機能が悪いことが判明しました。PCIではヨード造影剤も多く使ってしまいます。もしかしたら造影剤を使うことで透析導入になってしまうかもしれない。

 

循環器内科医をコールしたけど、コールしない方が良かったのか? もしかしたら怒られるかも?? PCIはやらない方が良いのか???

 

初期研修中は不安になることもなく言われた通りに対応してきましたが、いざ自分で判断するとなると、急に不安になって、悩んでしまう状況は良くあります。

 

でも、「臨床は例外対応の連続」なので、ガイドラインなどを踏まえつつ、

・何を優先させるのか?

・何を犠牲にするのか?

といった常に厳しい判断が求められます。

 

この症例は70歳台のショックを呈するSTEMIですから、たとえ腎機能を犠牲にしても救命のためにPCIすべき症例だと思います。後から考えれば、それ以外の対応はないと思いますが、たとえ循環器内科をコールしても不安はつきもの。でもこれからはあなたが判断する番になります。

 

そんな時に適切な判断が出来るようなるためには、知識のアップデートも大事ですが、先輩や指導医がその症例の何を重視して判断したのか?どの臨床情報が重要なのかを必ず聞き出してみてください。もちろん初期研修中に経験した症例を思い出しておくのも役に立ちます。「どう判断するのか」にフォーカスすることで、あなたの専門研修もレベルアップするはずです。

 

追記:このSTEMIの患者さんは約半日の脱水状態で腎機能の悪化を来したと考え、PCIに取り掛かるまでの間に約1Lの輸液を行いました。PCIも上手くいって、術後も順調に腎機能が回復してくれました。

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日循で発表してきました♪

2023.03.13
カテゴリー: 循環器

先週のことですが、日本循環器学会学術集会が福岡で開催され、当院の本田先生がポスター発表をしてきました。

 

昨年まではコロナの影響でオンライン中心の開催になっていましたが、久しぶりのリアル開催で、なおかつオンデマンド配信を見ると専門医更新の単位もとれるので、地方にいる循環器内科医には有難い開催形式だったと思います。

 

福岡ということもあり、編集長は初日の朝に茨城空港から直行便で福岡へ。福岡は夜でも上着がいらないほどの暖かさと天気のよさで快適でした。2日間いて、ちゃんと勉強してきました。やはり国内最大規模の循環器学会ですので参加者も多く、心不全療養指導士など医師以外のセッションも非常に盛り上がっていました。

 

 

学会2日目の午前に本田先生の発表がありました。内容は心房細動に対するアブレーションに関するものでしたが、似た内容の論文が最近発表されていて、別の結果だったのですが、その点に関する質問も無難にこなしていました。本田先生、お疲れ様でした。

 

日常臨床の忙しい中で発表の準備をするのは、なかなか大変なものですが、今後はもう少し学会発表を増やしていきたいと思っています。

(編集長)

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STEMIか?解離か? CTはいつ撮るべきか

2023.03.06
カテゴリー: 循環器

50歳代の男性が胸痛で搬送されてきました。心電図は下壁誘導(Ⅱ、Ⅲ、aVF)でST上昇が見られます。

 

バイタルは血圧170/100mmHg、心拍数86bpm、体温36.5℃、呼吸数20回/分。STEMIと診断して、緊急PCIの準備に取り掛かりました。そんな最中に、「A型解離の可能性は大丈夫かな?」「CTどうする?」と誰かが言いました。

 

こんな時、あなたならどうしますか?

 

確かに、急性A型大動脈解離では胸痛の訴えが多いですし、右冠動脈を巻き込むことが多く、下壁梗塞の心電図を呈します。では、下壁梗塞とか、胸痛を訴える患者さんは、A型解離を鑑別するために、全員に造影CTを施行するべきなのでしょうか?

 

一方で、STEMIに比べれば、急性A型大動脈解離は頻度がずっと少ないですし、CTを撮ればPCI開始までの時間が長くなり、せっかちな循環器医は待ってくれません。

 

こんなときに参考になるのが、大動脈解離診断リスクスコア(ADD-RS : Aortic DissectionDetection Risk Score)です。(Circulation 2011; 123:2213-8)

 

 

 

3つのカテゴリーがありますが、各カテゴリーの中で1つ以上該当するものがあれば1点とし、0点から、最高3点となります。0点は低リスク、1点は中リスク、2点以上は高リスクとします。

 

このスコアでは、症状も重要で、裂けるような痛みと表現されています。(ちなみにSTEMIでは胸痛と言っても、「象に乗られたような、胸全体が苦しい感じ」という表現に近くなります。ですので、胸痛と一言で片づけないで、良く症状を聞き出しましょう)

 

さらに、このADD-RSとDダイマーをあわせて、大動脈解離を除外していくアルゴリズムも提唱されています。(Circulation.2018; 137:250-8.)

 

 

「解離の可能性は?」「CTを撮るべきか?」 悩んだ時は参考にしてみてください。

(編集長)

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