専門研修ブログ
茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。
肝性脳症にまつわる誤解 その②
皆様こんにちは。消化器内科の蒼いRX2です。前回から肝性脳症にまつわる3つの誤解についてお話していますが、今回はその2回目となります。
誤解② 肝硬変患者の意識障害 ⇒ 肝性脳症!
「先生、この意識障害の患者さんアンモニア測っておいたほうが良くないですか?」
救急外来で一度は耳にするやりとりですが、ちょっと掘り下げてみましょう。ざっくり結論を言ってしまうと、肝性脳症におけるアンモニアは、感染症におけるCRPみたいなものです。
「アンモニアが高いから肝性脳症」「アンモニアが正常だから肝性脳症ではない」「アンモニアが高いほど肝性脳症の重症度が高い」はい、これ全部間違いです。ただしアンモニアを測定することを全否定しているわけではなく、実際には「あくまで参考程度にチェックしておく」といった感じでしょうか。
肝性脳症の主病態は、肝臓の尿素サイクルの障害によりアンモニアが代謝されないことと習ったと思いますが、実は芳香族アミノ酸やGABAなどアンモニア以外の物質の関与も指摘されています。血中アンモニアが増加する要因は肝性脳症以外にも多数あり、重要なものだけ以下に挙げます。
・検体取扱い不良(すぐに冷却せず、長時間室温で放置)
・消化管出血
・てんかん後
・薬剤:バルプロ酸、αGI、5-FU
・ウレアーゼ産生菌による尿路感染症
高アンモニア血症の有無と肝性脳症の有無が1:1対応でないことがお分かり頂けたと思います。では、どのように肝性脳症を診断するのでしょうか。
①他の意識障害の要因が除外されていること
②肝性脳症を来しうる要因があること(詳しくはPart3でお話しします)
これらの臨床的文脈を踏まえたうえでの総合判断となります。繰り返しになりますが、ア
ンモニアの測定が全く無意味というわけではなく、あくまで参考としてチェックします。
余談です。肝性脳症で有名な身体所見である羽ばたき振戦ですが、これも肝性脳症に特異的な所見ではありません。尿毒症などによる代謝性脳症でもみられることがあります。ところで皆様、羽ばたき振戦がどんな所見か、ご自身の身体を使って再現できますか?(流石に両手を広げて本当に羽ばたいてしまう方はいませんよね…?)自信がない方はYouTubeにたくさん動画が上がっていますので、是非チェックしておいてください。
今回も長くなってしまいました。次回でいよいよラストですので、もう少しだけお付き合いください。
参考文献:1) Hospitalist vol.6 No.3 2018『肝胆膵』
(蒼いRX²)
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