専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

右室梗塞

2023.05.08
カテゴリー: 循環器

STEMIが来た時は、患者さんを急いでカテ室に搬入し、さっさと再潅流を得たいところです。でも、STEMIは刻々と状況が変わりやすく、ERで待っている間にVTやVfを来すことがあります。そんな時は当然除細動ですし、もし心源性ショック、肺水腫となっていれば、先に挿管が必要になります。こう言った命に直結するイベントに適切に対処して、患者さんが元気になるのが循環器医の醍醐味の一つです。今回はSTEMIの中でも、取扱いに注意が必要な右室梗塞についてまとめてみようと思います。

 

右室梗塞は右冠動脈の心筋梗塞のことではありません。右冠動脈の近位部が閉塞することで、左室の下壁領域が壊死に至るだけでなく、右室の壁運動が障害された結果、右室から肺動脈への拍出が出来なくなり、左室への潅流が減って血圧低下に至るものです。下壁や後壁梗塞の25%~50%に合併するとされています。

 

STEMIの時に血圧低下に至るのは、通常は左室の収縮が低下して肺うっ血を来すパターン(心原性ショック)が多いのですが、右室梗塞では肺動脈への血流が低下するので、肺うっ血を来さずに、頸静脈の怒張を来します。

 

と言うことで、もしあなたが下壁の心筋梗塞患者に遭遇した時に、

①血圧が低く

②SatO2が下がっていない(=肺うっ血がない)

この2つがあれば、右室梗塞を疑いましょう。

 

身体所見としては、頸静脈怒張の有無を短時間で確認し、心電図では下壁梗塞(Ⅱ、Ⅲ、aVF)でのST上昇を確認したら、次にV1のST上昇がないかを確認します。V1のST上昇は右冠動脈近位部の閉塞を示すからです。さらにV4の電極を、胸骨を挟んで反対側に付け替えて(V4Rと言います)心電図を記録し、ST上昇があれば確実です。

 

さて、混乱しやすいのは治療です。

心筋梗塞ですから、速やかにPCIなど再灌流療法を行うのは言うまでもありませんが、心筋梗塞なら硝酸薬とか、肺うっ血を伴っていれば利尿剤を使いたくなりますよね。しかし右室梗塞では利尿薬や硝酸薬、モルヒネを使用するのはアブナイです。前負荷が低下すると、さらに血圧が下がるからです。逆に生理食塩水などで輸液をどんどん入れる必要があります。そして右室から肺動脈への拍出を増加させる目的でカテコラミン(ドパミン、ドブタミン)を使用します。(閉塞性ショックの対応)

 

初期対応を間違えずに行えば、PCI後には比較的速やかに血圧が落ち着くことがほとんどですが、遷延する時はIABPやECMOの使用を考えます。

(編集長)

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