専門研修ブログ

茨城県水戸市にある水戸済生会総合病院の専門研修を紹介するブログです。
初期研修を終えて、自分の専門領域を選ぶ際の参考になる情報や、その領域なら知っておくべきトピックなどを紹介していきます。

日循地方会で発表してきました・・・奇異性塞栓

2023.12.25
カテゴリー: 循環器

今回は、先日開催された循環器学会関東甲信越地方会で当院研修医1年目の宮田先生が発表した症例をシェアします。

 

30歳代の女性が経腟分娩後に右片麻痺と構音障害で搬送されました。心原性脳梗塞の診断で血管内血栓回収術を行い、幸い麻痺もなく回復しました。一度も心房細動は捉えられていないものの、心房細動による心原性脳梗塞という診断でDOACを継続されています。

 

こんな時、あなたなら他にどんな鑑別を考えますか?

動脈硬化や心房細動のリスクのない若年の脳梗塞症例では、奇異性塞栓を考える必要があります。奇異性塞栓症とは、右心系に存在する血栓が右左シャント疾患、特に卵円孔開存(PFO)や心房中隔欠損(ASD),肺動静脈瘻(AVM)を介して左心系に流入して脳塞栓症を起こす病態です。

 

左:DWI:左尾状核および基底核に高信号変化あり
右:左中大脳動脈は水平部で完全に閉塞している

 

この症例では、その後にたまたまPSVTを認めたためアブレーションを施行した際にPFOが証明されましたが、誘発しても心房細動が出現せず、産褥期のDVTが原因でPFOを介した奇異性塞栓症を来したと考えられました。

 

脳動脈硬化に起因する脳梗塞、もしくは心疾患に起因する塞栓症など既知の機序では説明がつかず、さらなる原因検索を進めた後にもその発症機序が明らかでない、あるいは原因が特定できない脳梗塞を潜因性脳梗塞と言いますが、PFOは健常者の約 25%に存在し、さらに潜因性脳梗塞の約 50%に併存するといわれています。しかし、PFOを含む右左シャント疾患と静脈血栓を併発する確実な奇異性脳塞栓症は急性期脳梗塞例の 5%に過ぎず、きちんと診断できていない可能性が指摘されています。

 

しかも、現在はPFOを経皮的に閉鎖(AMPLATZER™ PFOオクルーダー)することができるので、冒頭の症例のように若年者ではきちんと治療につなげることが重要になります。

 

では、PFOの経皮的閉鎖術の適応を判断するツールをご存じでしょうか?

 

それが、RoPE (Risk of Paradoxical Embolism)スコアです。このRoPEスコアは、PFOが脳梗塞発症にどの程度寄与するかを予測するために開発され、動脈硬化のリスク、画像所見、年齢を項目とし 0-10 点の間で加点評価します。

 

 

RoPEスコア9-10点の患者の88%はPFOが脳梗塞発症に寄与していたと報告されています。さらにPFOの中でも奇異性塞栓のハイリスクとされるものに、

・大シャント:経食道心エコーにてマイクロバブル数>20
・心房中隔瘤:心房中隔の10mm≧の突出

 

が挙げられており、RoPEスコアとPFO評価を統合したPASCALスコアを用いることで、より精度の高い閉鎖術の適応の評価が可能とされています。冒頭の症例はPASCALスコアで「可能性あり(Possible)」となりましたが、患者さんや脳外科医、循環器内科医らと協議して、DOAC継続となっています。

 

 

【参考文献】

潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖 術の手引き

     2019 年 5 月 日本脳卒中学会、 日本循環器 学会、日本心血管インターベンション治療学会

David M.Kent,et al.The Journal of the American Medical Association.326,2,2277-2286,2021

(編集長)

 

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