臨床研修ブログ
水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
医師の生涯のうち最も実りある初期臨床研修期間を私たちは強力にサポートします。
嘔気の鑑別 その2
前回は嘔気の鑑別を紹介しました。
「嘔気」をキーワードにすると
鑑別が非常に多くなってしまいますが、
カテゴリーで考えていくと、少し楽に
なります。
では今回は提示した症例について
考えてみましょう。
前回提示した症例は60歳代の女性で、
それまで医療機関にかかったことが
無い元気な方が、2週間前から嘔気と
食欲低下を訴え外来受診しました。
この時の外来ではバイタルも身体所見も
問題なかったので、メトクロプラミド
(プリンペラン®)を処方されたけど
その後も症状が改善せず、再度受診し
たので、これからあなたが診察する
という設定です。
どんなことを聞き出せばよいか?
鑑別疾患を想定しながら問診を
進めていきます。
例えば
消化管疾患なら、
・下痢や嘔吐はあるか?
・腹痛の有無、
・開腹手術歴
・健診歴(胆石の有無など)
・食事や旅行歴
全身性疾患や内分泌代謝疾患
・発熱の有無
・体重の増加・減少
・皮膚や関節の症状
・嘔気の増悪、寛解因子
・顔貌
中枢神経疾患
・頭痛の有無や体位での変化
・歩行障害
・意識変容などの有無
泌尿器・産婦人科疾患
・腰痛や血尿の有無
・妊娠歴
・月経周期
・月経困難症の有無
薬剤・中毒
・服薬歴
・職業歴
・居住地域
他にもいろいろありますが、
少なくともこの辺は確認したいところです。
さらにOPQRSTを加味しながら鑑別を
絞っていきます。
しかし、この症例は喫煙歴がある程度で
あまり病歴から絞り込みができず、
神経学的所見も含めて、身体所見でも
明らかな異常は見当たりませんでした。
採血検査も軽度の脱水がありそう
でしたが、2週間持続する嘔気を
説明できる異常はなしでした。
ところがルーチン検査として施行した
胸部レントゲンで左肺野に異常陰影を
認めたのでCTを施行すると・・・・、
肺に腫瘤影が・・・・。
となると、採血で高Ca血症はなかったので、
頭部CTを施行しました。
右小脳に怪しい影を認めました。
造影MRIを施行すると、
診断としては肺癌と転移性脳腫瘍でした。
脳腫瘍であれば、頭蓋内圧が上昇する
臥位で頭痛が増強してもよさそうですが、
この症例では認めず、絞り込みが
上手くいかなかったケースです。
一般に、嘔気というと消化管疾患を
考えますが、鑑別は幅広く、中には
脳腫瘍や心筋梗塞など重篤な疾患が
隠れていることがあります。
よくよく病歴を聞き出して、少ない検査で
診断にたどり着けるように意識しながら
診察してみてください。
(編集長)
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