臨床研修ブログ

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突然の背部痛

2025.07.17
カテゴリー: カンファレンス 内科

あなたがER当直をしていたら、早朝にホットラインが鳴りました。60歳台の男性が就寝中に突然の左背部痛を自覚し、改善がないことから救急要請したようです。

 

ERに搬送されてきましたが、バイタルは微熱はあるものの血圧等は安定していて、あまり重篤感はありません。左背部痛は持続していましたが、体動で増強するそうです。

 

あなたは何を鑑別に挙げますか?

体動で増強する胸痛では、胸膜炎も鑑別に挙げてください。もちろんERでは重篤な疾患を除外することが大事ですので、大動脈解離やSTEMIを念頭に心電図や造影CTは考慮すべきですが、痛みの性状を把握することで鑑別がかなり絞り込めます。この症例では、診察の時に深呼吸をしてもらったところ左背部痛の増強がありました。

 

CTは大動脈解離の所見はなく、下図のように左背側の胸膜に接した肺炎像で、血液培養や喀痰培養は陰性でした。しかし臨床症状と尿中抗原陽性であったことから肺炎球菌性肺炎からの胸膜炎と診断しました。抗菌薬(CTRX)の投与で、胸膜炎の悪化もなく速やかに改善が得られました。

 

 

ここで肺炎球菌性肺炎の特徴について少しまとめておきます。

 

・肺炎球菌は引き起こす炎症反応が非常に強く、患者さんもぐったりしていることが多い。

・抗菌薬治療によって肺炎球菌自体は死滅していても、引き起こされた炎症反応が長引くことがある

・このため、治療にも関わらず体温や採血データ(WBC,CRP)、胸部レントゲンがすぐに改善しないことがしばしばみられる。

・ただし、ぐったりしていた患者の自覚症状は改善してくるので、安易に抗菌薬の変更を行わない。

・市中肺炎の中では胸膜炎を合併する頻度が最も高い

・古典的症状として突然の発症、膿性痰、胸痛などがあるが、あくまで非特異的。特に高齢者では非典型的な症状を呈する。

・市中肺炎の中では、肺炎球菌が最も血液培養が陽性になりやすいと言われ、陽性率は15~25%

菌血症を伴う肺炎球菌性肺炎の死亡率は2倍とされており、重症度把握や予後予測のために血液培養の採取は重要。

 

今回の症例は胸膜炎を合併した市中肺炎で、当初から起炎菌として肺炎球菌を疑っていましたが、尿中抗原から診断に至った症例です。肺炎球菌性肺炎では胸膜炎を合併しやすいことは、ぜひ覚えておいてください。

(参考:レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版)

(編集長)

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