臨床研修ブログ

水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
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糖尿病がある時に確認すべき4つのポイント

2025.03.01
カテゴリー: カンファレンス 内科

糖尿病は全く無症状の期間が非常に長いので、症状が出現した時はすでに手遅れ・・・・、という怖い病気です。網膜症などの合併症だけでなく、心血管イベントも多いし、感染症も重症化しやすい。いろいろとマネジメントも大変なことが多いので、苦手な人も多いようです。

 

でも、どの診療科に行っても糖尿病の患者さんに関わらないことはありません。もちろん、あなたの担当患者さんの中にも糖尿病の人がいるはずです。でも、糖尿病は耐糖能異常と呼ばれるような状態から、網膜症や腎症などの糖尿病性合併症を来した状態まで非常に幅広い病態を含んでいます。当然ながら対応すべきことが変わってきます。

 

では、糖尿病の対応をどうすべきか判断する時、糖尿病を持っている患者さんを問診する時、または指導医の前でプレゼンする時は、どんなポイントを押さえればよいでしょう?

ちょっと考えてみてください。

編集長は普段から以下の4点を把握するようにしています。

 

①罹病期間 

10年以上か10年未満か ざっくりした把握でOKです。患者さん自身が合併症のことを把握していなくとも、10年以上の罹病期間があれば、なにか合併症があってもおかしくないと捉えておきましょう。

 

②現在の治療内容 

インスリン? SU剤? など、当然把握しておくことが必須ですし、低血糖などの合併症への対応も変わってきます。インスリンを行っている患者であれば、Ⅰ型かⅡ型かを確認しましょう。つい忘れがちですが非常に重要です。いつからインスリンを開始されたことが分かるだけでも参考になります。

 

③最近のコントロール 

HbA1cを確認しましょう。最近は患者さんもクリニックで教えてもらっていたり、糖尿病手帳に書いてあったりします。コントロールが悪いのも心配ですが、コントロールが良すぎるのも心配です。治療内容と照らし合わせましょう。

 

④合併症の有無 

腎症は何期?網膜症は?神経障害は?コントロールされていない網膜症がある時に急に厳格な血糖コントロールをすると、網膜症が悪化すると言われています。3大合併症以外にも、脳梗塞や虚血性心臓病などの心血管イベントも把握しましょう。

 

この4点を押さえておけば別の疾患で入院することになっても、糖尿病への対応を絶対に外せない患者さんなのか、慌てなくてよい患者さんなのかをおおよそ掴むことができます。

 

もちろん、これらのポイントを押さえておけば、プレゼンする時でも、指導医に突っ込まれた時でも、慌てなくて済みますので、ぜひ使ってみてください。

(編集長)

 

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入院中の発熱には「8つのD」

2025.02.27
カテゴリー: カンファレンス 内科

あなたは、高齢の肺炎患者さんを担当しています。

 

入院時は低酸素血症も認めていましたが、徐々に酸素も減らせて昨日から終了できました。食事も摂れていて、むせ込みもありません。WBCもCRPもだいぶ改善してきました。明日には抗菌薬も投与終了の予定で、家族と退院の日程調整も終えたばかりです。

 

ところが、夕方の申し送りの時間帯に看護師さんから「先生、○○〇さんが、38℃と熱発していますよ。どうしますか?」と言われました。

 

なんで、このタイミングなの?と、がっかりする状況ですが、 こんな時、あなたはどう対応するでしょう?考えてみてください。

あなたが、

「ホントは明日で抗菌薬は終了予定だったけど、そのままもう少し継続しよう」と考えたのなら、あまり賢明な選択とは言えません。

 

発熱の原因は、肺炎なのでしょうか?例えば、尿道カテーテルが入っていて、尿路感染症かもしれません。点滴刺入部のところが発赤していて、点滴ラインからの感染かもしてません。もしかしたら、患者さんの膝が発赤して、熱感を持っていて、偽痛風の発作かもしれません。

 

つまり、他の感染巣を検索する必要があるのです。最低でも、患者さんを診察して、血液培養をとって、新たな異常所見がないか確認しましょう。

 

そして、こんな時に、熱源検索に役立つのが、「8つのD」です。

Device(デバイス)

・CD(CD腸炎)

・CPPD または Pseudogout(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症 または 偽痛風)

DVT(深部静脈血栓症)

Drug(薬剤)

Decuvitus(褥瘡)

・GB Debris(絶食による無石性胆泥)

Deep abscess(深在性膿瘍)

 

以前に、徳田先生から7Dと教わりましたが、当院では最後のDeep abscessを加えて、「8つのD」で覚えるようにしています。もう少しで治療が終わるとか、退院目前といった患者さんの発熱を見たら、「8つのD」思い浮かべながら診察をしていきましょう。

(編集長)

総合内科の回診の一コマ

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治療可能な認知症・・・山中克郎先生のレクチャーより

2025.02.25
カテゴリー: カンファレンス 内科

2月6日に開催した山中克郎先生のレクチャーからです。

 

今回のレクチャーでは「危険な精神症状」がテーマでした。その中で取り上げられていた治療可能な認知症をシェアします。

 

71歳の女性が食欲低下を主訴に受診しました。ご本人の話では、1ヶ⽉前から⾷欲がなくなり、かかりつけのクリニックに5⽇間⼊院したら元気になった。でも 2週間前から再び⾷欲がなくなったとのこと。ところが看護師の記録では「朝⾷は全部⾷べました」とか、「⺟と同居しています。母は81歳です(本人は71歳!)。」

 

ご家族に話を聞いてみると、2週間前から⾷欲がなくなり、 1週間前からもうろうとしている。今⽇は何⽇と聞いたり、会ってもいない友達と会ってきたというようになった。幻視はない。⺟親は18年前に亡くなっているとのこと。

 

どうも1~2週間の経過で認知症の症状が悪化してきているようです。さらに身体診察では眼球運動障害も認めました。さて診断は?

診断はビタミンB1欠乏症(Wernicke脳症+Korsakoff症候群)でした。

 

Wernicke脳症は
・リスクファクターとして、アルコール多飲、がん、AIDSなど
・原因はビタミンB1⽋乏(1-2週間で⽋乏)
・症状は ①錯乱、②運動失調、③眼筋⿇痺が有名ですが、3徴がそろうのはたった30%のみで多くの患者は錯乱のみ

・治療をしないとKorsakoff症候群へ移⾏

 

Korsakoff症候群は

Wernicke脳症の後遺症として発症する認知症のことで、記銘力障害、失見当識、作話が有名です。治療法はありません。

 

そして、治療可能な認知症には以下のようなものがあるので、これらは是非とも覚えておきましょう。

・甲状腺機能低下症
・正常圧⽔頭症
・慢性硬膜下⾎腫
・ビタミンB1/B12⽋乏症
・肝性脳症
・尿毒症
・神経梅毒
・うつ病
・⾼齢者てんかん

・薬物依存

(編集長)

 

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市民公開講座のご報告

2025.02.20
カテゴリー: カンファレンス 内科

こんにちは、水戸済生会 脳神経内科のKiです。

 

普段は神経内科の一般診療を中心に行っていますが、その他には急性期脳梗塞に対する脳血管内治療(脳血栓回収療法)や、1-2週に1回のドクターヘリ乗務(フライトドクター)をしており、三刀流のつもりで頑張っています。

 

先日2月8日の土曜日の午後に私と脳神経外科のKo先生と認知症ケアナースともに、水戸市の内原イオンで市民公開講座を行ってきました。実は当院は内原イオンと提携して、年に3-4回市民公開講座を行っており、今回は脳神経系としては初めて市民の皆様の関心の高い、脳卒中と認知症についての講演会を行いました。

 

 

最初にKo先生から脳卒中の予防について、2番目にAさんから認知症患者さんとの向き合い方、最後に私から認知症の診断や最新の治療についてお話をしました。

 

脳卒中予防についてのKo先生の講演では、脳卒中は日本人の死因第4位、介護を必要とする疾患では第1位となっているため、予防が非常に重要性だとのお話がありました。予防としては生活習慣の改善が中心になります。脳卒中であれば高血圧の予防のために、塩分制限や適切な運動、毎日の過剰な飲酒は控えるべきですし、糖尿病の予防のために過剰な炭水化物接種を控えることも大事です。

 

また、特に急性期脳梗塞では、血栓溶解療法、血栓回収療法という、発症間もない時間に病院に来てもらわないとできない治療があり、発症したらすぐに病院を受診する、もしくは救急車を呼ぶことが重要です。ちなみにKo先生は脳血管障害の手術のスペシャリストで、特に脳血管のバイパス術を得意としており、実際に手術を行った症例についても紹介もされました。

 

認知症の人との接し方についての認知症ケアナースからの講演では、認知症患者さんの徘徊や、突然怒り出すことについても、本人なりの理由があり、それを尊重することが大事だというお話をされました。患者さんの意思を尊重することは、認知症患者さんの人権を尊重することにもつながります。

 

また、認知症のケアにおいては、患者さんのみではなく、介護する周りの家族の方の心と体の健康も非常に重要であり、どちらも保たれてこそ認知症のケアがうまくいきます。現在は水戸近辺にも認知症治療を中心に行う医療機関が何個かあり、それらを積極的に活用していくことが大事です。

 

最後に私からは、軽度認知機能障害や初期アルツハイマー型認知症に対する治療薬である、レケンビ®(レカネマブ)、ケサンラ®(ドナネマブ)についてお話をしました。

 

どちらの薬でも適応になるのは、かなり早期の段階であり、そのときの症状に気づくには、周りの家族がしっかり注意している必要があります。また、アルツハイマー型認知症では糖尿病がアルツハイマー型認知症のリスクであることが明らかになっており、こちらもやはり脳卒中と同様に生活習慣の改善が予防につながります。

 

その他には、講演会以外にもブースを設けて医師・看護師・栄養士の相談コーナーを用意して、リハビリからは高齢者の疑似体験、当院に併設する健診センターで用意している「のうKnow」という認知機能チェックのコーナーも用意しました。

 

 

脳神経系のイベントとしては初めての試みで、どのくらいの人が集まってくれるか心配でしたが、事前の予約だけで40人以上の予約があり、当日は全てのコーナーを含めて、のべ200人弱の方々に集まっていただき大変盛況でした。来ていただいた方々、当日のイベントのお手伝いをしてくれた当院スタッフの皆様にはただただ感謝です。

 

脳卒中と認知症は、現在の高齢化社会において非常に重要な疾患でもあり、今後も定期的にこのようなイベントを開催していこうと思っています。

(Ki)

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一過性全健忘・・・山中克郎先生のレクチャーより

2025.02.15
カテゴリー: カンファレンス 内科

2月6日に山中克郎先生をお迎えして、今年度2回目のレクチャーを開催しました。

 

山中先生は藤田医科大学の教授を務めた後、諏訪中央病院の総合診療科、福島県立医大会津医療センター総合内科の教授として活躍され、退官後の現在は諏訪中央病院に戻られて診療を続けている総合内科の大御所の一人です。著書もたくさんあります。

 

当院とは2018年からのお付き合いでコロナ期間中もZoomでのレクチャーをお願いしていました。今年度は10月にもお越しいただきましたが、今回もリアルでのレクチャーをお願いしました。

 

最初にJ1の川並先生から症例提示を行って、後半は「危険な精神症状」のテーマでレクチャーをしていただきました。

 

 

いくつかの疾患の典型例を教えていただいたのですが、今回は一過性全健忘についてシェアします。

 

症例は48歳⼥性。現病歴はご主人の話によると、22︓30頃に突然話が通じなくなったとのこと。具体的には「ここはどこ︖」と聞いたり、⾃分で作ったおかずを⾒て、「これ何︖」と突然⾔い出した。話をしている相⼿が夫ということは分かっているようだ。既往は特になし。内服もなし。

 

経過観察のため⼀泊⼊院を勧め、本⼈も同意されたが、10分後「どうして⼊院することになったの︖もう帰る︕」と患者は夫と喧嘩を始めた。

こんな症状で画像検査でも何も所見がなければ、一過性全健忘(Transient Global Amnesia)を思い出してください。

 

一過性全健忘(TGA)とは

<症状>
・数⽇〜数年の記憶が喪失(逆⾏健忘) 

   →「ここはどこ?」「これ何?」
・発作中は新たな記憶ができない(前向健忘)

   →本人も同意したが「どうして入院することになったの?」
・患者は不安になり、何度も同じ質問を繰り返す
・昔の記憶は障害されていない

   →話をしている相⼿が夫ということは分かっている
・記憶以外の⾼次機能は障害されない
・24時間以内に症状は改善する

<原因>
・不明、中年に多い
・MRIでは海⾺の神経脱落や虚⾎が⽰唆されている
・疼痛、ストレス、息こらえがtriggerとなることがある

 

編集長もTGA症例に遭遇した経験がありますが、知っていれば一発診断できるものなので、ご家族を安心させることができますよ。

(編集長)

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透析患者の糖尿病にはHbA1cを用いて良いのか?

2025.02.13
カテゴリー: カンファレンス 内科

糖尿病で維持透析中の患者さんが入院してきました。採血データをみると、HbA1cが5.9%と正常範囲内でした。ところが、内服薬を確認するとDPP4阻害薬を服用していました。コントロールは非常によいのに、なぜDPP4阻害薬を継続しているのでしょうか?

 

糖尿病のコントロール目標としてHbA1cが使用されるのはご存じの通りです。過去1~2か月の平均血糖値を反映する便利な指標です。ところが、一般的に透析患者さんはHbA1cが低くなって、平均血糖値と解離することが知られています。ですから糖尿病のコントロール指標としては不適とされています。

 

HbA1cは、すごく単純に言うと砂糖漬けのヘモグロビンの割合のことですが、これは平均血糖だけでなく赤血球寿命にも関連があります。具体的には出血や溶血性疾患、肝硬変のときには低値になります。

 

透析患者は透析による失血(回路内の残血など)や出血、エリスロポエチン製剤による幼弱赤血球の増加などの影響でHbA1cが低値、つまり過小評価になるのです。

 

 

そんな透析患者さんの血糖コントロールに役立つ指標がグリコアルブミン(GA)です。

 

グリコアルブミンは血清アルブミンの糖化産物のことで、半減期約17日。つまり約2週間の平均血糖を反映しています。基準値は11~16%。血糖の管理目標としては20%未満が目標とされています。

 

冒頭の患者さんに戻ると、HbA1cは5.9%でしたが、GAは20.1%とやや高めでしたので、DPP4阻害薬の継続が必要なことが理解できました。

(参考文献:糖尿病治療ガイド2022ー2023)

(編集長)

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抗NMDA受容体脳炎(2)

2025.02.08
カテゴリー: カンファレンス 内科

平E先生の抗NMDA受容体脳炎の記事の続きです。今回は予後と鎮静についてシェアします。

 

【予後】

ほぼ回復した症例が75%、死亡が4%、再発率が20−25%と報告されています。身体機能の予後は良い一方で、年単位で高次脳機能障害が残存する例が多いようです。発症から2年後および5年後の認知機能予後を評価した研究(Josephine Heinekenら、2021年)では、2年後時点では85%、5年後時点では65%にmoderate-severeの高次脳機能障害を認めました。

 

一方で全例で認知機能の改善を認めており、これは患者にとっては良い情報でしょう。飯塚らは、半年以上の挿管・鎮静管理を要しほとんど植物状態であった患者が、リハビリを年単位で継続することで会話や書字機能が戻ったり、仕事復帰することができた2例を報告しています。

 

この2例については頭部MRIおよび脳血流SPECTが撮影されており、発症初期には脳萎縮および血流低下の所見が明らかでしたが、5年以上経ってから撮影した画像では、上記所見の改善を認めています。このことは、画像上器質的な変化が見られていたとしても、長期的予後の改善を見込める可能性があることを示唆しています。

 

【鎮静】

最も重症度の高い不随意運動期には、不随意運動による管理困難や難治性てんかん、中枢性低換気の管理目的に、集中治療室における挿管・鎮静管理を要する場合があります。鎮静にはベンゾジアゼピン系、フェンタニル、プロポフォールが使用されることが多いですが、使用期間が長期化することにより各鎮静薬に対する耐性形成が問題になります。

 

特にプロポフォールは長期使用によってPRIS (Propofol Infusion Syndrome)をきたしアシドーシスや致死性不整脈から致命的になる可能性があるため、長期に使用する際には注意が必要です。

 

以上、抗NMDA受容体脳炎の診療にあたって自分が学んだ情報をまとめました。厳しい経過を辿ることもあるこの疾患ですが、このブログが診療の一助になれば幸いです。

(平E)

 

カンファ中の一コマ

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抗NMDA受容体脳炎(1)

2025.02.04
カテゴリー: カンファレンス 内科

はじめまして、平Eです。

 

今回は自己免疫性脳炎のひとつ、抗NMDA受容体脳炎の症例を経験したので、その際に得た知識を共有します。

 

自分が診ることはないだろうと思うかもしれませんが、脳炎のうち最も多いのが感染性脳炎で、次いで多いのが自己免疫性脳炎です。抗NMDA受容体脳炎は自己免疫性脳炎の中で最も多いため、意外と接する機会は多いかもしれません。臨床像としては次第に増悪する妄想・幻覚などの精神症状で発症し、1−2週間ほどの経過で不随意運動・自律神経障害・中枢性低換気・けいれんなどの神経学的症状が出現します。重症例では神経学的症状のコントロールを目的に鎮静・気管挿管による管理を要する場合があります。

 

ここでは診断・治療・経過・予後と、特に重症例で問題になる鎮静について項ごとにまとめます。

 

【診断】

3ヶ月以内に進行する精神症状や新規発症のてんかん発作、神経局所症状を認めた場合、自己免疫性脳炎を鑑別に挙げる必要があります。基本的には除外診断で、感染性髄膜炎の除外→中枢神経症状を呈する可能性のある全身性自己免疫性疾患(SLE、ベーチェット病、血管炎等)の除外を行った上でどれにも当てはまらない場合、自己免疫性脳炎の可能性を考慮します。

 

診断には特異的自己抗体のスクリーニングに加え、悪性腫瘍のスクリーニングが必要です。自己免疫性脳炎は発症機序に悪性腫瘍が関連するものが多く、傍腫瘍性脳炎であれば治療に早期の腫瘍切除が必要になるためです。若年女性では卵巣奇形種との関連も指摘されているようです。

 

【治療】

治療は自己抗体陽性を待たずに開始することが多いです。理由としては検査可能な自己抗体が限られている点、結果が出るまで時間を要する点、抗体陰性の例も多い点などがあげられます。

 

治療は免疫抑制療法が基本で、1st lineとしてステロイドパルスや免疫グロブリン静注療法(IVIG療法)、血漿交換療法単独もしくは併用を行います。腫瘍性病変を合併する場合は免疫抑制療法への反応性が乏しいため、早期の腫瘍切除を考慮する必要があります。治療に対する反応性に乏しい場合、2nd lineとして保険適応外ではあるもののリツキシマブやシクロホスファミドが奏功するケースもあるようです。

 

【経過】

風邪様の前駆症状期が数日から2週間程度見られた後、精神症状が出現します。精神症状は不安や恐怖、幻覚など多岐にわたり、統合失調症の急性期を思わせる場合もあり、本症例も当初は精神科病院に医療保護入院していた経過があります。

 

数週の精神症状ののち、不随意運動や痙攣発作、自律神経障害が出現します。口腔・舌・顔面の不随意運動が特徴的と言われますが、実際には全身性に不随意運動が出現します。

治療反応性にもよりますが、数週から数ヶ月かけて不随意運動期を脱すると緩徐回復期に入り、数ヶ月から数年かけてもとの意識状態に戻る疾患です。

(平E)

<編集長追記>

映画の「エクソシスト」や「ブレイン・オン・ファイア」、邦画では「8年越しの花嫁 奇跡の実話」がこの抗MDA受容体脳炎をモチーフにしていますので、ご覧いただくとイメージがつきやすくなります。

 

ICUでの一コマ

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◆第23回水戸医学生セミナー

~復活!メディカルラリーで救急のエッセンスを体験しよう~

 

2025年3月15日(土)、16日(日)に開催します。

定員まで残り1名となりました!

JATEC,MCLSなどの内容を盛り込んだメディカルラリーに挑戦してください!

医学生セミナーの詳細を今すぐ確認する

 

井上純人先生によるリアルレクチャー開催!

2025.02.01
カテゴリー: カンファレンス 内科

昨日のことですが、山形大学の井上純人先生に当院にお越しいただき、レクチャーを開催しました。

 

今年度もZoomでのレクチャーを行っていただいているものの改めて紹介すると、井上先生は山形大学の第一内科講師、附属病院教授で、編集長と大学の同級生です。山形大学では、ベストティーチャー賞を何度も受賞しており、今では殿堂入りを果たしていて医学部学生はもちろんですが、学内では知らない人はいないほど教え上手で面倒見のいい先生です。専門はCOPDで吸入療法の重要性を普段から発信していて、吸入療法アカデミーやまがたの代表も務めています。

 

今までのZoomレクチャーでも吸入療法の重要性を繰り返していたので、今回は無理を言って水戸済生会までお越しいただき、リアルでのレクチャー開催となりました。

 

 

今回のタイトルは「吸入指導のエキスパートを目指そう」ということで、さまざまな種類のある吸入薬のデモ機を準備して、実際にやりながら指導法や各デバイスのピットホールを教えていただきました。

 

今回は研修医はもちろんですが、看護師や薬剤師も参加してもらいました。実際のところ、病棟では吸入器を処方すると看護師さんや薬剤師さんに丸投げしてしまい、どんなデバイスなのかすら把握していないことが多かったと思います。今回は様々な吸入デバイスが一通りそろっていたので、比べて特徴を把握することができました。終了後も質問が多くでるなど、学びの多いレクチャーになったようです。

(編集長)

 

デモ機で実際にやってみる

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~復活!メディカルラリーで救急のエッセンスを体験しよう~

 

2025年3月15日(土)、16日(日)に開催します。

定員まで残り2名です!

JATEC,MCLSなどの内容を盛り込んだメディカルラリーに挑戦してください!

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高齢者にはDEEP-IN

2024.12.28
カテゴリー: カンファレンス 内科

ご高齢の患者さんがとても多いことにあなたも気づいていると思いますが、担当患者さんのなかで一番若い方の年齢が88歳とか、90歳以上の患者さんが5名いるということも珍しくありません。ERに搬送される患者さんも同様です。さらにご高齢の患者さんは合併疾患も非常に多く持っていることがほとんどなので、普段なら悩まずにやっていた点滴や薬剤の選択も悩んでしまいます。

 

高齢者の診療では患者さん全体を把握して、何を優先すべきかを考えることが大事で、逆に言えばあなたの腕の見せ所とも言えます。今回はそんな高齢者の診療に役立つDEEPーINについて紹介します。

 

DEEP-IN とは

D :Dementia,Depression,Delirium,Drug(認知機能、抑うつ、せん妄、薬剤)

EE:Eye & Ear(視力、聴力)

P  :Fall&Physical function(転倒、身体機能やADL)

I :Incontinence(失禁)

N  :Nutrition(栄養、体重減少)

 

これらのポイントを「すべての高齢者に」、「ファーストタッチの時に」把握することで、後の診療がが非常にラクになります。

 

一つずつ具体的に見ていきましょう。

 

D:認知機能は、家族のこと、服用している薬のことなどを質問して、あやふやな答えなら「認知症があるかもしれない」と把握しておくだけでOK。あとで改めてMMSEなどをやればよいでしょう。

 

D:抑うつは高齢者に高頻度に見られ、不眠を主訴にしている場合もよくあります。介入で改善する可能性があるものだという認識を持ちましょう。

 

D:せん妄は成書をみるといろいろ書いてありますが、「いつもと違う」状態と思えばOK。問題はその原因が何か?です。

 

D:薬剤については、高齢者のポリファーマシーが問題になっているのは聞いたことがあると思いますが、まず何を服用しているのか?どんな病名で処方されているのか?を把握すること。でもこれがかなり大変な作業になることがしばしばです。

 

E:視力についてはメガネの有無はもちろん、「目が見えにくくて、生活に支障ないですか?」と聞いてみましょう。

 

E:聴力も同様で、「聞こえにくくて、生活に支障ないですか?」と聞いてみましょう。

 

P:身体機能は杖や車いすの使用の有無、転倒歴(骨折歴)の確認をすればとりあえずOK

 

I:失禁については質問しにくいですが、大人用おむつを付けている人も多いので、聴診する時などにそっと確認します。

 

N:栄養は、おいしく食事を摂れているか? 体重が減っていないか?などの質問に加えて、ベルトやズボンのサイズが明らかに合っていないことなどを確認するのもいい手です。

 

お気づきと思いますが、このDEEP-INは疾患を診断するものではなく、高齢者の機能評価のツールです。検査や治療の計画を立てるときに、これらを把握しておくとスムーズに進みます。まずはざっくりで良いので把握してみてください。

(編集長)

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