
臨床研修ブログ
水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
医師の生涯のうち最も実りある初期臨床研修期間を私たちは強力にサポートします。
BNP/NT-proBNPの使いどころ(2)
今回もBNP/NT-proBNPの続きです。
BNP/NT-proBNPは心室の壁応力(伸展ストレス)に応じて分泌されるので心不全の時に上昇しますが、じつはそれ以外の状況でも上昇することがあるので覚えておきましょう。
心不全以外でBNP/NT-proBNPが上昇するのは、心原性だと
・急性冠症候群、急性心筋梗塞
・肺塞栓症
・心筋炎
・肥大型心筋症
・弁膜症
・先天性心疾患
・上室性・心室性不整脈
・心臓挫傷、心臓浸潤、心臓悪性腫瘍
・除細動後、ICD作動後
・心膜疾患
・侵襲的あるいは外科的心臓手技
・肺高血圧症、右心不全
・炎症性心筋症
といったものが挙げられます。これらは心室の壁応力が上昇しそうなので、理解しやすいと思います。
一方、非心原性でBNP/NT-proBNPが上昇する要因としては
・高齢者
・貧血
・腎疾患
・敗血症
・虚血性あるいは出血性脳卒中
・肺疾患(肺炎、COPD、睡眠時無呼吸症候群)
・肝疾患
・重症貧血
・重症熱傷
・重症代謝性疾患(甲状腺中毒症、糖尿病性ケトーシス)
逆に、BNP/NT-proBNPが低下する要因としては
・肥満
・心膜疾患(心腔液貯留している時など。ドレナージにより上昇を来すことがある)
もちろん肺炎と心不全が合併することなど、いろいろな状況がありえます。なので、数値だけでなく、患者さんの状況を見てBNP/NT-proBNPの値を解釈する必要があります。
また、他の上昇する原因があるので安心せず、心不全にならないように輸液管理やレントゲンのフォローなど、油断せずにその後の管理に注意していくことも大事になります。
(参考:日本循環器学会/ 日本心不全学会 心不全診療ガイドライン 2025年改訂版)
(編集長)
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BNP/NT-proBNPの使いどころ(1)
気管支喘息で吸入薬(ICS/LABA)を継続している70歳台の男性患者さんが、休日のERを受診しました。
数日前から咳嗽がひどくなり、昨夜は眠れなかったと。発熱はなく、喀痰はいつもとあまり変わりないとのこと。喘息の中発作なのか、肺炎なのかと考えて、あなたは胸部レントゲンをオーダーしました。
レントゲンを見てみると、右下肺野に以前にはない陰影が出ていましたが、肺炎というか、胸水というか、微妙な影で判断が付きません。「臥位になるとひどくなる咳嗽」という訴えが気になり、もしかしたら心不全?と急に不安になりました。そんな時、あなたならどんな検査を追加しますか?
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こんな時に役に立つのがBNPまたはNT-proBNPです。今回から、このBNP/NT-proBNPの使いどころを紹介していきます。
【BNPについて】
まず、BNPはナトリウム利尿ペプチドと呼ばれるものの一つです。心室にて、壁応力(伸展ストレス)に応じて遺伝子発現が亢進し、速やかに生成・分泌されるため、壁応力が増大する心不全では、その重症度に応じて血中濃度が増加するという特徴があります。
主な作用は、ナトリウム利尿、血管拡張、アルドステロン分泌抑制などで、心不全の診断、治療効果の判定、予後予測に有用で、欧米のガイドラインでも、本邦のガイドラインでも取り上げられています。
なお、ナトリウム利尿ペプチドには、心房性(ANP)、脳性(BNP)、C型(CNP)の3つがあり、ANPは心房から97%、BNPは心室から90%、心房から10%分泌されています。BNPが心室から分泌されているのに、脳性ナトリウム利尿ペプチドとなっているのは、ブタの脳から単離精製されたためのようです。
【NT-proBNPについて】
一方NT-ProBNPは、BNP前駆体から分離された非活性型のペプチドで、BNPと等モルが分泌されます。
ANPは半減期が短く、検体採取後も不安定のため検査にあまり向いていません。3者の違いを以下の図にまとめてみました。BNPとNT-proBNPの検査の際には、血漿なのか血清なのか、検体の保存方法などの違いから、NT-proBNPを使う施設が多い印象です。NT-proBNPは血清を用いるので、通常の生化学検査をしていれば、あとから追加して検査できるのは大きなメリットだと思います。
また心不全で処方されるARNI(アルドステロン受容体ネプリライシン阻害薬:エンレスト®)は、BNPの分解を阻害しますので、服用開始から8~10週程度は高値になり、その後低下してくることを覚えておく必要があります。
(編集長)
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◆内科専門研修プログラム説明会を開催します
水戸済生会の内科研修プログラム説明会をZoomで開催します。
J2が対象ですが、水戸済生会の内科専門プログラムに関心のある方なら、医学生でもJ1でも参加可能です。あなたの参加をお待ちしています♪
日時:2025年9月26日(金)
19時開始(40~50分程度の予定です)
場所:Zoom
内容:①内科専門研修の概略
②消化器内科の専門研修
③腎臓内科の専門研修
④循環器内科の専門研修
⑤膠原病内科の専門研修
⑥血液内科の専門研修
⑦脳神経内科の専門研修
⑧質疑応答
申し込み方法
下記リンクの問い合わせフォームからお申し込みください。フォーム内の「お問い合わせ内容」欄に「内科専門研修プログラム説明会参加希望」と入力し、送信して下さい。
自動返信メールが届きますが、後日改めてZoomのURLをお知らせいたします。
お酒は飲んで良いですか?
あなたがER当直をしていると、夕方からの動悸を主訴に50歳台の男性が受診しました。
モニター波形は心拍数が140~150bpmの頻脈で、12誘導心電図では心房細動のようです。今回が初めての動悸発作で、特に既往もありません。循環器の先生の指示で抗不整脈薬(ピルジカイニド)の点滴を行ったところ、比較的速やかに洞調律に戻りました。次回受診のことをお伝えして、帰宅してもらおうとしたら、一緒に来た奥様から「お酒は飲んでも良いのでしょうか?(飲んではダメですよねというニュアンス)」と質問されました。
あなたなら何と答えますか?
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心房細動に限らず、患者さんからよく質問されることの一つに「アルコール」があります。患者さんにとっては毎日の大事な楽しみですから、医師からのアドバイスは重要で、決してテキトーなことを言ってその場をごまかしてはいけません。
実はアルコールの過剰摂取は心房細動誘発の危険因子です。編集長の患者さんでも、飲酒した翌日には、毎回心房細動になる患者さんがいました。さらにアルコールの過剰摂取は、抗凝固療法中の出血の危険因子にもなるし、血栓塞栓症の発症や死亡リスクも増加させることが知られています。
一方で、常用飲酒している心房細動患者において、禁酒が心房細動再発を抑制するという報告があり、ガイドラインでも、心房細動発症予防および抗凝固療法を考慮する心房細動患者においてはアルコールの過剰摂取を避けるための助言と管理を行うべき(Class IIa)となっています。
冒頭の患者さんでは、今回の心房細動の誘因になったものがないかを問診で聞き出すことをしつつ、「アルコールは禁止まではいかないけど、飲みすぎはダメですね。飲む機会は控えた方がよいと思いますよ」などとアドバイスするのが良いかもしれません。
(参考文献:2024JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療)
(編集長)
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右室梗塞
60歳台の男性が胸痛で搬送されてきました。
心電図を確認すると、下壁誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)でST上昇を認めていて、STEMIの診断で間違いなさそうです。バイタルを確認すると、血圧は収縮期で60mmHgで、心拍数は46bpm、SpO2は室内気で100%でした。循環器内科の先生にコールしたところ「それって右室梗塞だね。すぐに行きます。」と言われました。
ここで、ちょっと考えてみてほしいのですが、循環器内科医が来てくれるまでの間に、右室梗塞に対して、あなたができることは何でしょう?
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右室梗塞は単なる右冠動脈の心筋梗塞のことではありません。右冠動脈の近位部が閉塞することで、左室の下壁領域が壊死に至るだけでなく、右室の壁運動が障害された結果、右室から肺動脈への拍出が出来なくなり、左室への還流が減って血圧低下に至るものです。
STEMIの時に血圧低下に至るのは、通常は左室の収縮が低下して肺うっ血を来すパターン(心原性ショック)が多いのですが、右室梗塞では肺動脈への血流が低下するので、肺うっ血を来さずに、頸静脈の怒張を来します(閉塞性ショック)。
もし、あなたが下壁のSTEMIに遭遇した時に、
①血圧が低く
②SpO2が下がっていない(=肺うっ血がない)
この2つがあれば、右室梗塞を疑ってください。そして頸静脈怒張の有無を短時間で確認しましょう。
心電図では下壁梗塞(Ⅱ,Ⅲ,aVF)でのST上昇を確認したら、次にV1のST上昇がないかを確認します。V1のST上昇は右冠動脈近位部の閉塞を示すからです。さらにV4の電極を、胸骨を挟んで反対側に付け替えて(V4Rと言います)心電図を記録し、ST上昇があれば確実です。
さて、混乱しやすいのは治療です。
STEMIですから、速やかにPCIなど再灌流療法を行うのは言うまでもありませんが、STEMIなら硝酸薬とか、肺うっ血を伴っていれば利尿剤を使いたくなりますが、右室梗塞では利尿薬や硝酸薬を使用するのは危険です。利尿剤や硝酸薬を使って前負荷が低下すると、さらに血圧が下がるからです。
逆に生理食塩水などで輸液をどんどん入れる必要があります。さらに右室から肺動脈への拍出を少しでも増加させる目的でカテコラミン(ドパミン、ドブタミン)を使用します。
冒頭の症例も、循環器内科医が到着するまで全開で輸液をいれるのが正解です。可能であればカテコラミンの持続点滴も開始できるとスバラシイですね。
右室梗塞は、初期対応を間違えずに行えば、PCI後には比較的速やかに血圧が落ち着くことがほとんどですが、遷延する時はIABPやECMOの使用を考えます。
あなたが下壁のSTEMIでショック症例に遭遇した時は、右室梗塞を鑑別に挙げられるようにしてください!
(編集長)
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咳嗽失神
70歳台後半の女性が入院していました。ある日、病棟の看護師からあなたのところに連絡がありました。
「患者さんが気を失ったのですぐに来てください!」
あなたが病棟に行くと、患者さんの意識は戻っていて、受け答えも問題ありません。バイタルも問題なし。ベッド上にいたのですが、気を失う前には、立て続けに咳込んでいたそうです。そして、気を失ったときの心電図モニターには約10秒の洞停止が記録されていました。
あなたは不整脈(洞不全症候群)が原因の失神発作と考えて、一時ペーシング目的に循環器内科にコンサルトをしようとしました。でも、その後はまったく徐脈が出現していません。
さて、ホントに一時ペーシングが必要でしょうか?
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高齢患者で10秒の洞停止がとらえられているので、洞不全症候群による失神は当然鑑別にあがりますが、その後は全く徐脈は見られないとなると、この状況で考えることは「咳嗽失神」です。
「咳嗽失神」とは、日常動作の特定の状況で誘発される「状況失神」の一つです。中年の男性に多く、喫煙者やCOPD患者に多く発症するとされます。失神に至る機序としては、①胸腔内圧が上昇によるものと、②迷走神経反射によるものの二つがあるとされます。
①については、胸腔内圧が上昇することで静脈還流量が低下し、心拍出量の低下によって脳血流が低下することや、胸腔内圧上昇により脳脊髄圧が上昇して脳動脈を圧迫することによって脳血流を低下させることで失神を生じるとされています。
冒頭の症例は、約10秒の洞停止を来していることから、おそらく迷走神経反射に伴うものと考えていますが、その後は徐脈も症状も全く出現しませんでした。
治療としては、誘因となる咳嗽を減らす必要があり、禁煙や鎮咳薬、肺の基礎疾患の治療となります。
(編集長)
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狭心症の診断にはホルター?
いきなりですが、あなたに質問です。
60歳台の男性が外来に来ました。他院で高血圧と糖尿病の治療を受けているそうです。数か月前から労作時に4~5分続く、胸やけのような胸部不快感を自覚するとのこと。聴診では過剰心音も心雑音もない。心電図と胸部レントゲンは正常でした。どうやら安定狭心症が疑わしい状況です。
では、安定狭心症の診断を進めるために、あなたならどんな検査をしますか?
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こんな質問をすると、約半数以上の研修医が心エコーとホルターと答えました。では狭心症の診断にホルターは有用なのでしょうか?
UpToDate(2024年12月時点)を見ると安定狭心症の診断には、画像を用いた負荷テスト(Stress test with imaging)として運動負荷心電図(Treadmill test)や運動または薬剤負荷心筋シンチ、負荷心エコー、負荷MRIが記載されています。
いずれも運動や薬剤負荷をかけることで虚血の有無と予後判定に役立つ情報が得られます。そのうえで 「冠動脈CTや冠動脈造影」 など解剖学的な評価に進みます。
そう、ホルターとは書いてないのです。
もう一つ研修医が答えてくれた心エコーは、UpToDateにも全員にやる検査として記載されています。ただ、冠動脈支配に一致した壁運動の低下といった典型的な所見が見られたらより精度が高くなりますが、それだけでは狭心症の診断はできません。つまり、安定狭心症の診断には何らの負荷をかける必要があるのです。
その疾患の診断にはどんな検査が必要なのか?その検査をすることで得られる情報は何なのか?
自分が担当している患者さんで指導医に言われた検査も、こういった点を整理しておくと応用が利くようになりますよ。
(編集長)
回診の一コマ
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その心筋梗塞はヤバイのか?
あなたは担当患者さんの既往歴に「心筋梗塞」とか「STEMI」とあったら、それ以上の情報を取りに行っていますか?
もしあなたが循環器内科のローテーションを終えているのなら経験しているかもしれませんが、STEMIといってもPCI後は何事もなく、すぐに退院してその後も入院前と変わりなく生活している人も多くいます。一方で、なかなか退院できなかったり、退院しても心不全などで何度も入院を繰り返す人もいます。さらに元気に過ごしている患者さんの中でも、EFが正常な人もいれば、EFが30~40%と低下している人もいます。
あなたの担当患者さんがこれから化学療法を予定しているなら、レジメの中には心機能に影響するため避けなければいけないレジメもあります。これから手術を受ける患者さんなら、周術期の管理や輸液に注意しなければいけない患者さんもいます。
でも、上述のように心筋梗塞の既往がある患者さんの中でも、ヤバイ患者さんから、ほぼ心配しなくて良い患者さんまで幅広くいるので、心筋梗塞の既往があるだけでレジメが使えないとか、手術ができないと判断するのは良いことではないと思います。
それよりも心筋梗塞の既往がある患者さんの中から「ヤバイ心筋梗塞」の患者さんを、あなたが見つけ出せるようにしておくことが重要です。
では、心筋梗塞の既往がある患者さんのなかで、どこを見れば「ヤバイ心筋梗塞」を見つけ出せるでしょうか?あなたは考えてみたことがありますか?
編集長は心筋梗塞の既往を見つけたら、カルテを遡って以下の項目をチェックしているので参考にしてみて下さい。
・EF
循環器が苦手な人でも知っているのがEFです。循環器内科医にとってはEFが低いだけで恐れることはないのですが、そうは言ってもEFが低い人は注意が必要です。
・発症時の最大CPK
心筋梗塞発症時の最大CPKが分かればチェックしておきます。このCPKは梗塞量(=心筋ダメージ)を反映するので、高いほどヤバイ心筋梗塞と言えます。ザックリですが、CPKが6000以上ならダメージは大きいと思ってOKです。8000以上、特に10000以上なら循環器内科医でも相当にヤバイと考えて慎重に見ているはずです。
・残存病変の有無
心筋梗塞を起こした部位(責任病変)以外に狭窄病変があれば要注意です。
・合併症の有無
心筋梗塞発症直後やPCI中の心室頻拍(VT)や心室細動(Vf)は急性虚血によるものなので、その後はあまり心配いりません。ところが発症から1週間以上経過してからのVTやVfは植え込み型除細動器(ICD)が必要になり要注意です。また、重篤な機械的合併症(乳頭筋不全、心室中隔穿孔、左室自由壁破裂)はそれだけ心筋ダメージが大きいことを意味しますのでヤバイ心筋梗塞です。また心筋梗塞後に心不全を来したのであれば、これだけでヤバイ心筋梗塞と思ってください。
あなたもこれらの情報をカルテから探して、ヤバイ心筋梗塞を見つけ出せるようになってください。
(編集長)
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超音波によるショックの鑑別
(T.N)
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ERでSTMIに遭遇した時の対処法⑤
前回までは急性心筋梗塞患者がERに搬送されて、カテ室に行くまでの流れを整理しました。今回はSTEMIの中でも、取扱いに注意が必要な右室梗塞についてまとめてみようと思います。
右室梗塞は単なる右冠動脈の心筋梗塞のことではありません。右冠動脈の近位部が閉塞することで、左室の下壁領域が壊死に至るだけでなく、右室の壁運動が障害された結果、右室から肺動脈への拍出が出来なくなり、左室への潅流が減って血圧低下に至るものです。
STEMIの時に血圧低下に至るのは、通常は左室の収縮が低下して肺うっ血を来すパターン(心原性ショック)が多いのですが、右室梗塞では肺動脈への血流が低下するので、肺うっ血を来さずに、頸静脈の怒張を来します(閉塞性ショック)。
もし、あなたが下壁のSTEMIに遭遇した時に、
①血圧が低く
②SatO2が下がっていない(=肺うっ血がない)
この2つがあれば、右室梗塞を疑ってください。そして頸静脈怒張の有無を短時間で確認しましょう。
心電図では下壁梗塞(Ⅱ、Ⅲ、aVF)でのST上昇を確認したら、次にV1のST上昇がないかを確認します。V1のST上昇は右冠動脈近位部の閉塞を示すからです。
さらにV4の電極を、胸骨を挟んで反対側に付け替えて(V4Rと言います)心電図を記録し、ST上昇があれば確実です。
さて、混乱しやすいのは治療です。
STEMIですから、速やかにPCIなど再灌流療法を行うのは言うまでもありませんが、STEMIなら硝酸薬とか、肺うっ血を伴っていれば利尿剤を使いたくなりますよね。
しかし右室梗塞では利尿薬や硝酸薬を使用するのは危険です。利尿剤や硝酸薬を使って前負荷が低下すると、さらに血圧が下がるからです。
逆に生理食塩水などで輸液をどんどん入れる必要があります。さらに右室から肺動脈への拍出を増加させる目的でカテコラミン(ドパミン、ドブタミン)を使用します。
初期対応を間違えずに行えば、PCI後には比較的速やかに血圧が落ち着くことがほとんどですが、遷延する時はIABPやECMOの使用を考えます。
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ERでSTMIに遭遇した時の対処法④
前回に続いて、PCIの準備ができるまでの少し時間で患者さんから情報を聞き出すポイントを紹介しています。
4.本人や家族への説明
患者さん本人はじっくり話を聞く余裕がありませんし、点滴されたり、薬を飲まされたり、フォーレを入れられたりと訳が分からない状況でしょう。そこで家族がいれば病状や治療の必要性を要領よく短時間で説明します。原則として同意書にサインをもらう必要もあります。
でも日常臨床では家族がいなかったり、救急車に同乗してきたのが高校生の孫で、あとから他の家族が自家用車で向かっているなどという状況があります。個々の事例で判断していくしかないと思いますが、筆者の個人的な考えとしてはSTEMIであれば「Time is Muscle (時は心筋なり)」と「虎穴に入らずんば虎児を得ず」を判断の基準にしています。つまり家族の到着を待たずにPCIをやらなければいけないことは実際にありますし、状態の悪い人ほどPCIが起死回生の決め手になり得ます。
また、カテ室に移動した後でもERに残ったあなたや看護師さんから家族に簡潔に状況を説明して安心してもらうことは重要だと思います。ドクターはPCIのことで頭がいっぱいになり、家族のことまで気が回らないことが多いでしょう。でも家族は一体どうなっているのか早く知りたいと思っています。仮に良くない結果になった場合、ここでのコミュニケーションが上手くいっていないとあらぬ疑いをかけられるかもしれません。あなたの冷静な状況判断と適切な対応が大きなカギを握っています。
5.カテ室へ移動する時は
AMI患者がERにいる場合、常に心電図モニターを見えるようにしておく必要があります。何故かというと、いきなり前触れなくVT(心室頻拍)やVF(心室細動)を起こすことがあるからです。
AMIで死亡する患者の大半が病院到着前に亡くなっていますが、これはVTやVFなどの致死性不整脈が原因です。再潅流性不整脈と呼ばれるもので、冠動脈が血栓で閉塞してAMIになりますが、血栓が自然に溶けて再び冠動脈に血液が流れ込む時にVTやVFが起こりやすいのです。当然こういったことがERにいる間にも起こり得ます。筆者の印象ですが、年に1例くらいは経験します。起こるかもしれないと心の準備があれば、慌てずに電気的除細動をすればすぐに戻ることが多いのですが、心の準備がないとかなり焦ってしまいますね。
なので、モニターをいつも見えるようにしておくこと、患者を一人きりにしないこと、カテ室に移動する時もできればAEDや除細動器と一緒に移動しましょう。特にエレベーター内で患者さんの具合が悪くなると編集長でもちょっとビビってしまいます。研修医の先生などでも構いませんから、この症例のように移動の際にもドクターがそばにいるのが望ましいです。
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