臨床研修ブログ

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救命救急センターだより「脳死と植物状態」

2023.10.07
カテゴリー: 救命救急センター

長い長い長い夏も終わりを告げ、だいぶ涼しくなってきましたね!来年は涼しい夏であることを期待しますが、期待だけに終わるでしょうね…

 

さて、本日も空を夢見る消化器内科医ことNaoです。こんにちは。この間の当番日は雨で飛べず、不完全燃焼中です。

 

今日のお話しは「脳死」と「植物状態」の違いです。

 

医者なら即答できなければいけない質問かもしれません。が、恥ずかしながら、医者を10年以上やっておりましたが、今までその違いを明確に区別できていませんでした。いや、ほんとに恥ずかしながら、ですね。

 

植物状態と脳死、これは実は厳密には同じ土俵で語る内容ではありません。植物状態というのは患者さんの状態を表す言葉で、脳死(本来は全脳死)は生理学・解剖学的な障害部位を指す言葉であり、本来対比されるべきではありません。

 

細かいことを話し始めると、とてもとてもブログにまとめられないので…(神経内科の師匠に話を聞いたら、難しくて途中から全く理解できませんでした) なので、これから脳神経を専門にしていく学生さんにとっては、ちょっとおかしいぞ、っていう内容もあるかもしれません。ごめんなさい。とりあえず、皆さんが考えるきっかけづくりになれればと思い、記事を書いてみます!ちょっと長くなりますが、記事を分けずに書き切ります。

 

さていわゆる「植物状態」については明確な定義はありませんが、一般的には

 

「大脳半球の機能障害により、覚醒状態が欠如した状態であり、自律神経反射や運動反射を維持できるだけの還納および脳幹機能は保たれている状態。」

 

つまるところ、「栄養さえ与えられ続ければ、人工呼吸器などの助けなしに生命機能の持続がなされる状態」を指します。

 

脳の機能部位で言うと、大脳の機能は失われているが、生命維持のために必要な脳幹部の機能はある程度保たれている状態です。そして植物状態は非常にわずかな可能性ながら、機能が回復する可能性は否定されない、と言えると思います。

 

一般的に言われる「脳死」は「全脳死」を指し、「脳幹を含む全脳髄が不可逆的に機能を失った状態」となります。

 

脳の機能はすべて失われ、機械のサポートなしには呼吸をすることもできなくなっており、もちろん体を動かす、言葉をしゃべる、そもそも感情などの人間的活動はすべて失われています。自律神経のコントロールもありませんので、レートコントロールすらされないため、一般的には10日程度で致死的な経過は免れないと考えられます。

 

更なる脳死の話の前に、私たちが一般的に死亡診断を行うときに何をするかを考えてみましょう。

 

この記事を読んでくださっているほとんどの方は学生さんだと思いますので、死亡診断の場面にまだ立ち会ったことがないかもしれませんが、僕は以下の手順で死亡診断を行います。

 

①聴診器を用いて心音が聴取されないことを確認(心拍動の確認)、装着している場合は心電図モニターの確認。

②(人工呼吸器を用いている場合は接続を外して)呼吸音が聴取されないことを確認(自発呼吸の停止の確認)

③ペンライトを用いて瞳孔の診察(対光反射の消失および瞳孔散大の確認)

 

この3つの徴候をもって死亡診断を行い、時刻を確認の上で死亡宣告と患者さんへの挨拶および礼。この診断法で確認されるのは心臓死です。

 

脳死は、心臓死の前の、まだ各臓器が血流を得ていて臓器死に至る前の段階で死亡を確定し、臓器は生きた状態で取り出し他の生命の維持のために用いる診断法になります。したがって、大前提として、患者さん本人に臓器移植の意思がある必要があります。

 

脳死には国で定めた判定基準があります。

①深昏睡(JCS 300, GCS 3)

②瞳孔の固定、瞳孔径が左右とも4mm以上

③脳幹反射の消失(対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射)

④平坦脳波(少なくとも4導出で30分間以上)

⑤自発呼吸の消失(無呼吸テスト)

 

これを臓器移植に関わらない、脳死判定に豊富な経験を有する医師2名以上で、6時間以上の時間をあけて2回行って初めて診断とされています。

 

そういえば国家試験対策で覚えた気がしましたが、実臨床で脳死と植物状態がごっちゃになっていました。

 

僕のアメリカ人の知人がアメリカで心臓移植を受けて、コントロール困難な心不全から立ち直り数年家族との時間を過ごせたという経験もありますので、自分自身はその時には僕の体で使える部分はいくらでも使ってもらいたいなと思っています。

 

日本は臓器移植が非常に少ない国ですが、まず医療者が臓器移植までのステップを理解していないことには、患者さんの想いを汲み取ることができずに終わってしまう可能性があります。

 

ですので、皆さんは是非脳死判定の手順を理解しつつ、いざというときに患者さんの意思を確認して言葉を伝えられない患者さんの想いを汲み取ってあげていただければと思います。

 

では、また次の記事で!

(Nao

ERの一コマ

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