臨床研修ブログ

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たこつぼ心筋症

2023.03.16
カテゴリー: カンファレンス循環器

日本人が発見したたこつぼ心筋症。今年の医師国家試験でついに新規出題されるなど話題の疾患ですね。今回私は国試と同時期に同症例を経験したため、まとめてみました。

 

まず疾患背景について、1990年ころ➀急性心筋梗塞に類似した発症経過で、②左室心尖部を中心とした領域の収縮異常を呈するが、③その責任病変として妥当な冠動脈病変を認めず、④短期間で正常化してしまう病態が報告された。左室収縮末期像が「たこつぼ(入口が狭く奥が広い形)」に似ていることから「たこつぼ型」と形容されて以来、この名称は次第に定着し「たこつぼ心筋症」と呼称されるようになりました。

 

原因は未解明です。多枝冠動脈攣縮説、微小循環障害説などありますがカテコラミン心筋障害説が今のところ有力視されています。カテコラミン心筋障害説では、哺乳類の心臓において交感神経とβ受容体の分布が心尖部と心基部とで真逆であり、それが発症に関与しているのではと指摘されています。しかしどの説でも臨床像と合致しない事象が多く、確証に至っていません。

 

臨床症状としては、突然の感情的・肉体的ストレスを誘因とした胸部症状(胸痛・息苦しさなど)が典型例です。感情的ストレスの場合、討論会で緊張した、口論になった、震災を経験したなど日常誰でもあり得るエピソードで発症します。肉体的ストレスの場合、基礎疾患による症状がストレスとなり発症、あるいは検査・治療など医療行為を契機に発症します。

 

疫学としては、高齢女性(73±11歳)に好発する(凡そ男:女=1:4)と言われていますが、男性では肉体的ストレスに関連し発症することが多いという特徴もあります。

 

症状が急性心筋梗塞と類似しているため検査も同様の手順を踏みます。心電図では急性期にST上昇(心筋梗塞に類似)、陰性T波やQT延長など、冠動脈造影では異常を示さないことで、急性冠症候群との鑑別ができます。心エコー・左室造影は図1を参照してください。

 

図1:たこつぼ心筋症の左室造影

左室心基部の過収縮と心尖部を中心とした収縮低下を認める。

 

経過としては、1か月以内に壁運動以上は正常化し一般的に予後良好とされています。治療も多くの場合対症療法のみ(原因不明なので確立されていない、というのが本音)です。しかし、心破裂やtorsade de pointesといった致死的不整脈を合併することもあるため決して甘く見てはいけないと指導医が強調していました。

 

今回私が経験した症例は70歳台の女性で、胸痛・V1~V5でST上昇・心筋逸脱酵素の上昇あり、STEMIを疑われ緊急カテーテル検査が施行されるも責任病変はなく、たこつぼ心筋症の診断に至りました。その後合併症はなく入院10日目の心エコーにて心尖部壁運動の改善みられ入院14日目に退院、以降も再燃なく経過しています。

 

この症例で問題になったのは、この方の誘因は何だったのか、という点です。患者さんは体が不自由で、自宅で転倒したのですが、帰宅した家族に発見されて、いつ、どうして転倒したのか本人も覚えていませんでした。転倒し際に頭部打撲で出血もあり、感情的ストレスというよりは肉体的ストレス(今回は転倒とか頭部外傷)の関与があると推測されましたが、原因未解明なだけに断定は難しかったです。

 

たこつぼ心筋症は基礎疾患の症状により隠蔽されることも多く、重篤な状態で発症した場合自ら訴えようがないことから、急性期には見過ごされ後の心電図変化で初めて診断されるケースもあります。このような疾患の性質から、救急領域はもちろんのこと、内科領域あるいは外科領域とほぼすべての診療科で遭遇しうる疾患と言っても過言ではありません。

(Aotearoa)

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