臨床研修ブログ
水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
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臨床実習報告・・・歩行障害の一例③
りんご先生の最後の記事になります。ALSの鑑別についても、とても良く考察できています。そして最後にりんご先生からのコメントもありますので、ぜひお読みください!
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3週間、水戸済生会総合病院総合内科で臨床実習させていただいております、医学部6年のりんごです。ALSについて最後の記事になります。よろしくお願いいたします。
<筋萎縮性側索硬化症(ALS)について③>
【鑑別疾患】
今回は鑑別疾患として、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)と多巣性運動ニューロパチー(MMN)、頸椎症性筋萎縮症(頚椎症の一つ)が挙げられました。各疾患の概要と否定された根拠を書いていきます。
・慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
緩徐進行性または再発性の自己免疫性脱髄性末梢神経疾患。神経障害のパターンはポリニューロパチー(多発神経障害)であり、左右対称性の四肢の弛緩性運動麻痺と感覚障害(手袋靴下型)を主徴とする。末梢神経伝導検査にて髄鞘障害(伝導速度低下や伝導ブロック、時間的分散など)、脳脊髄液検査にて蛋白細胞解離を認める。副腎皮質ステロイド、免疫グロブリン静注療法、血液浄化療法が治療のファーストラインとなるが、3つの治療の間で優劣はない。
・多巣性運動ニューロパチー(MMN)
緩徐進行性の自己免疫性脱髄性末梢神経疾患。左右非対称性・多巣性であること、下位運動ニューロン障害をきたすが感覚障害は認められないことがCIDPと異なる点である。CIDPと同様に末梢神経伝導検査にて髄鞘障害、脳脊髄液検査にて蛋白細胞解離を認める。免疫グロブリン静注療法のみが治療効果を有する。
・頸椎症性筋萎縮症
加齢変性によって頸椎の形状が変化して脊髄が圧迫され、神経支配領域に一致した筋萎縮・筋力低下をきたす。感覚障害はない、もしくは軽微である。緩徐進行性であるが持続的な増悪は見られず、無治療であっても早期に完全回復する例も存在する。また、症状の発現が姿勢と関連することも特徴である。上位運動ニューロン障害や球麻痺症状は見られず、運動障害は上肢に限局する。治療法としては保存的治療と手術がある。
★否定の根拠★
→末梢神経伝導検査で髄鞘障害を示唆する所見を認めなかったこと、脳脊髄液検査で異常を認めず、筋力低下も両上肢にびまん性に生じていたことからCIDPとMMNは否定的であると考えられました。CIDPとMMNは治療可能な疾患ですが、ALSは根本的治療が確立されておらず、告知によって患者さんの今後の人生が一変するため、診断・告知には細心の注意を払わなければなりません。
→慢性進行性の経過や神経支配領域に一致しない筋萎縮と筋力低下を認めたこと、脊椎MRI検査で脊髄圧迫所見を認めなかったことから頸椎症性筋萎縮症は否定的であると考えられました。運動障害と感覚障害を共に認めた場合、主に脊椎疾患が疑われますが、ALSに脊椎疾患が合併しても同じような所見になります。ALSの症状が手術侵襲や麻酔によって急速に進行したと報告する論文もあるため、ALSに特異的な症候を早期に見出して正確に診断することが重要となります。
(余談)
もし、今回の症例のMRI検査で脊髄圧迫所見を認めた場合、どのするべきでしょう…。「MRI検査の脊髄圧迫所見=脊椎疾患有」ではなく、加齢性変化の可能性もあることを念頭に置いて診断を進める必要があると思います。国試では画像を見たらすぐに回答に辿り着ける問題もありますが、実臨床はそう簡単ではないということを今回の実習で痛感しました。多くの疾患を画像検査で診断できる時代になりつつありますが、診断の主役はやはり詳細な問診と身体診察であると改めて学びました。
(最後に)
総合内科の指導医の先生方、初期研修医の先生方のご指導のおかげで充実した日々を過ごすことができました。3週間、本当にありがとうございました。そして、学外実習をするか悩んでいる方、自大学以外の病院に実習申込をするのは本当に緊張すると思います。しかし、慣れ親しんだ環境から離れることは自分を見つめ直す絶好の機会になる(本当になります)ので、勇気を振り絞って挑戦してみてください。
(りんご)
(参考文献)
(1)辻 省次・祖父江 元. アクチュアル脳・神経疾患の臨床 すべてがわかるALS・運動ニューロン疾患. 株式会社中山書店
(2)安藤 哲朗.頸椎症の診療. 臨床神経学. 2012. Vol.52, No.7, p.469-479
「https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/052070469.pdf」
回診の一コマ
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