
臨床研修ブログ
水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
医師の生涯のうち最も実りある初期臨床研修期間を私たちは強力にサポートします。
SGLT2阻害薬の落とし穴(その4)
そろそろ⻑くなって来ましたので治療について、ざっと整理して今回の投稿を終わりたいと思います。
euDKAの治療も⼀般的なDKA治療に準じます。
・DKAと診断されれば、SGLT2阻害薬を即座に中⽌すること
・prehospitalでの治療⽅法として推奨されるプロトコールは以下の2つ
STOP diabetic ketoacidosis protocol
STICH protocol
STOP-DKAプロトコルはカナダで使われているもの、STICHプロトコルは⽶国で使われているものです。興味を持った⽅はご⼀読ください。「SGLT2阻害薬の使⽤を中⽌して、炭⽔化物とりながらインスリン投与量を増やせ」というプロトコール。
病院に来ていただくのが前提条件ですが…。
・inhospitalではガイドライン通り治療する。
等張液輸液、電解質補正、アシドーシス補正、インスリン投与が主な治療
⾼⾎糖は6時間、ケトアシドーシスは12時間以内の補正を⽬指す
⾎糖値200mg/dL以下になったらケトアシドーシス補正継続と低⾎糖予防のために糖を負荷する。
※ケトアシドーシスが改善されるまではインスリン静注をやめない
・euDKAではそもそも⾎糖値が⾼くないので、治療初期から糖含有液を使⽤するところが、普段の⾼⾎糖を伴うDKAへの治療と異なる。⾎糖値は150-250mg/dLで保持(Diabetes Care 2009;32:1164-1169.)
<まとめ>
・SGLT2阻害薬は⽐較的新しい糖尿病治療薬だが、特に1型糖尿病やリスク因⼦を持つ患者ではDKAのリスクが増⼤する
・その場合、euglycarmic ketoacidosisと呼ばれる⾎糖値が 基準値内〜軽度上昇程度にとどまるケトアシドーシスを呈することがあり、診断の遅れにつながる恐れがある
・呼吸の評価は呼吸様式まで観察する
・SGLT2阻害薬内服している患者で、ケトアシドーシスの症状や増悪因⼦を持つ場合には患者のケトンをチェックする
・尿中ケトン陰性の場合でもDKAを疑うなら⾎中ケトン濃度を測定することを躊躇わない
・治療はおおむねガイドライン準拠でよいが、より早い段階から糖含有液投与を要する
以上です。⻑い⽂章になってしまい申し訳ありませんでした。お付き合い頂きありがとうございました。
<参考>Musso G et al. Diabetic ketoacidosis with SGLT2 inhibitors. BMJ. 2020 Nov 12;371:m4147. PMID: 33184044
⽇本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド 2022-2023,p83,⽂光堂,2022
Goldenberg, R. M., Gilbert, J. D., Hramiak, I. M., Woo, V. C. & Zinman, B. SGLT inhibitors in type 1 diabetes: place in therapy and a risk mitigation strategy for preventing diabetic ketoacidosis ‐ the STOP DKA Protocol. Diabetes, Obes.Metab. dom.13811 (2019). doi:10.1111/dom.13811
(マッコイ)
これからPICC
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SGLT2阻害薬の落とし穴(その3)
今回も研修医のマッコイ先生の記事の続きです。
前回まではSGLT2阻害薬、DKA、euDKAについてシェアしてきましたが、今回はこれらを踏まえて、当初の疑問である「SGLT2阻害薬内服している⼈で意識障害を起こして救急搬送されたら何に気を付ける?」の答えとしてどこで疑って検査に進み、診断をつけたら良いかを考察したいと思います。
①PS(Primary Survey)での呼吸の評価
PSの段階可能であれば、それより前のInitial assessment での呼吸様式の異常でクスマウル⼤呼吸や頻呼吸など「深くて早い呼吸」でアンテナを⾼くすることが肝になりそうです。代謝性アシドーシスの存在を考えてDKAを鑑別にあげます。
呼吸の評価の奥の深さに様々な勉強会に出るたびに気付かされるのですが、回数だけでなく呼吸様式まできちんと評価してカルテ記載する。これは今後の臨床で必ず実施しようと思います。
②動脈⾎ガス評価
ここで注⽬するのは、まずはAGMAの有無かと思います。euDKAの存在を知った今だからこそ、⾎糖がそこまで⾼くないという理由で鑑別疾患から外さないことを⼼がけなければいけません。
③⾎清ケトン体の評価
代謝性アシドーシスを疑ったら、ガス+⾎清ケトンまでの評価で1セットここが今回の⼀番の学びのように感じます。ガス⾒ておしまいでは無い。肝に銘じました。
ちなみにもう⼀つポイントがありますが皆さん、お気づきでしょうか?それは検体の種類です。⾎清の検体でケトン体の⾎中濃度測定をする。これがポイントです。
<ケトンについて>
ケトン体とは、アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトンを指します。3種類ありますが、尿検査ではβヒドロキシ酪酸を測定できません。DKAの時に上昇してくるケトン体はβヒドロキシ酪酸なので、尿検査だけだと⾒逃しが⽣じる可能性があります。
・通常の検査試験は、アセト酢酸>アセトンで感度良好であり、βヒドロキシ酪酸は検出できない。尿検査でケトン陰性は33%(6例/18例)
(Endocr Res. 2004 Aug; 30(3): 395-402.)
翻って考えると、尿検査でもしもケトン体陽性であれば診断に繋げてもよい。ポイントとなるのは、初療の段階では陰性となることがあるということ。
(Diabetes Care. 2009 Jul;32(7):1335-43.)
・重症DKAではβヒドロキシ酪酸:アセト酢酸=6:1 ⾎清βヒドロキシ酪酸でのDKA診断寄与 感度98%/特異度79%/陽性的中率34%(cutoff 1.5mmol/L)
(Diabetes Care. 2011 Apr; 34(4):852-4.)
つまり、ケトン⾎症を証明するのはβヒドロキシ酪酸がゴールドスタンダードということです。
(マッコイ)
ERでの一コマ
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SGLT2阻害薬の落とし穴(その2)
今回も研修医のマッコイ先生の記事の続きです。
<DKAの主な所⾒>
・DKAの主な初期症状としては、悪⼼・嘔吐、⾷欲減退、腹痛、過度な⼝渇、倦怠感、呼吸困難、意識障害など
・⾝体所⾒では、Kussmaul⼤呼吸(過呼吸)、呼気のアセトン臭、⼝腔粘膜の乾燥、低⾎圧、頻脈などが主なものとなる
・アニオンギャップ開⼤性の代謝性アシドーシス(AGMA)
・⾎糖:250~1,000mg/dL
・⾎清総ケトン体≧3mmol/L
・HCO3≧18mEq/L
・pH≦7.3
以上が⼀般的なDKAの簡単な所⾒です。
次に、はぐれDKAとでも⾔いますか、euDKAについてまとめます。
<euDKA(WHO pharmacovigilance database)>
・上記の通り、DKAは典型的には⾼⾎糖があることが特徴ではあるが、SGLT2阻害薬内服中、妊娠中、⾷事摂取量低下(飢餓)、アルコール使⽤障害や肝硬変などでは1/3以上の割合で⾼⾎糖がない(<250mg/dL)が認められないことがある
・⾼⾎糖ではないことと、⾼⾎糖による浸透圧利尿が軽度であることから診断が遅れる可能性がある
・SGLT2阻害薬の観察研究によれば…1型糖尿病患者でのDKA発⽣頻度が相対的に⾼い
1型糖尿病…7.3 events/1000 patients-years
2型糖尿病…1.3-8.8 events/1000-years
・特に治療開始から最初の数か⽉でリスクが⾼くなる
・DKAイベントの76.8-85.2%が、SGLT2阻害薬開始から180⽇以内に発症している
・⾼⽤量の使⽤は低⽤量に⽐較して4.9倍リスクが⾼い
今回はここまで。
次回はこれらを踏まえて、当初の疑問である「SGLT2阻害薬内服している⼈で意識障害起こして救急搬送されたら何に気を付ける?」の答えとしてどこで疑って検査に進み、診断をつけたら良いかを考察したいと思います。
(マッコイ)
朝の慌ただしいEHCUの一コマ
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SGLT2阻害薬の落とし穴(その1)
どうもはじめまして、研修医のマッコイです。
突然ですが、「無理なく痩せるならSGLT2ダイエット」なんて広告をあなたも⽬にしたことがあるのではないでしょうか? 今回は、昨今、糖尿病(DM)だけでなく慢性⼼不全や慢性腎臓病(CKD)に適応が広がっていたり、⾃由診療での適応外使⽤など様々な形で利⽤されているSGLT2阻害薬を服⽤されていた患者さんで意識障害があった時、どんなことを考えますか?そんな内容で記事を書かせて頂きます。
そもそもなぜ、この記事を書くことになったかと⾔いますと(余談ですがお付き合いください)…水戸済生会の研修医である私マッコイ(救急科志望)が総合内科をローテーション中にカンファレンスで指導医に問いかけられたことがきっかけでした。
指導医:「SGLT2阻害薬内服している⼈で意識障害起こして救急搬送されたら何に気を付ける?」
マッコイ:「えっとー…低⾎糖、尿路感染症とー…」
指導医:「ブログの記事書こうか^ ^」
はい、ということでこの度執筆の機会を預かる運びとなりました(笑)
この⼀年ローテーションしていて、当院の指導医の先⽣⽅に共通して本当にありがたいなと感じることなのですが、救急志望の僕なら例えばERでこうした背景のある患者さんが搬送された時にどんなことに注意するべきか、どんな検査を考慮しておくべきか、治療介⼊する上で気を付けることは、救急医のファーストタッチとアセスメント、専⾨科へのコンサルの仕⽅でどれだけ患者さんのその後の診療の質が変わるか、など、その先の進路を考慮した指導や問題提起をしてくださることです。指導医の親⼼のようなものに⽇々感謝しています。
さて、本題ですがSGLT2阻害薬内服中の患者で意識障害を起こしている場合に早めにルールアウトするべき疾患は糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)です。
しかも、この場合のDKAはeuDKA、euglycarmicなDKAだそうです。⾎糖値の上昇に乏しいDKA…FDAとEMAからも警告が出ています。症例報告を調べると稀なものってわけではなさそうです。
「は? じゃあ、そもそもどうやって初療で気付くんだ?」
「Primary survey(PS)やっている間に勘づくのは難しいそうだから、Secondarysurvey(SS)で内服薬の状況集めた時にやっと考慮することになるのかなぁ」
指導医や先輩医師の話を聞きながらそんな疑問を抱いたので、その部分も含めて書けたらと思います。
<SGLT2阻害薬とは何か?>
・⾎糖コントロール⽬的に、メトホルミン、SU剤、インスリンなどと併⽤され、第2-3選択薬として使⽤される
・2016年の英国では第2選択薬の14%、第3選択薬の27%を占めていた
・2019年の⽶国および欧州でのコンセンサスガイドラインでは、2型糖尿病かつ⼼臓⾎管疾患やCKDがある患者への使⽤がさらに推奨されている
・欧州や⽇本では、⾎糖コントロールを改善するためのインスリン補助役として承認されているGLT2阻害薬はほとんどない
・FDAは、1型糖尿病に対するSGLT2阻害薬使⽤はDKAのリスクが⾼いことから使⽤を推奨していない
・SGLT2阻害薬は膵島a細胞のSGLT2を阻害し、グルカゴン分泌を直接刺激。結果として内因性グルコース 産⽣・ケトン産⽣・脂肪酸の分解が促進される
・腎臓ではSGLT2阻害によりケトン再吸収を促進する
・腎臓の尿中からのブドウ糖排泄を促進することで⾎糖値を低下させる
・尿糖が増加し⾎糖値が下がることでインスリン分泌が減少
・インスリン:グルカゴン⽐が減少するため、肝臓でのケトン産⽣・遊離脂肪酸分解が阻害されなくなる
・尿糖による浸透圧利尿で脱⽔が誘発され、グルカゴン、コルチゾール、アドレナリンの分泌につながり、さらに脂肪酸分解とケトン産⽣が進⾏する
以上が、SGLT2阻害薬の特徴や薬効機序になります。
今回はここまで。次回に続きます。
(マッコイ)
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糖尿病がある時に確認すべき4つのポイント
糖尿病は全く無症状の期間が非常に長いので、症状が出現した時はすでに手遅れ・・・・、という怖い病気です。網膜症などの合併症だけでなく、心血管イベントも多いし、感染症も重症化しやすい。いろいろとマネジメントも大変なことが多いので、苦手な人も多いようです。
でも、どの診療科に行っても糖尿病の患者さんに関わらないことはありません。もちろん、あなたの担当患者さんの中にも糖尿病の人がいるはずです。でも、糖尿病は耐糖能異常と呼ばれるような状態から、網膜症や腎症などの糖尿病性合併症を来した状態まで非常に幅広い病態を含んでいます。当然ながら対応すべきことが変わってきます。
では、糖尿病の対応をどうすべきか判断する時、糖尿病を持っている患者さんを問診する時、または指導医の前でプレゼンする時は、どんなポイントを押さえればよいでしょう?
ちょっと考えてみてください。
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編集長は普段から以下の4点を把握するようにしています。
①罹病期間
10年以上か10年未満か ざっくりした把握でOKです。患者さん自身が合併症のことを把握していなくとも、10年以上の罹病期間があれば、なにか合併症があってもおかしくないと捉えておきましょう。
②現在の治療内容
インスリン? SU剤? など、当然把握しておくことが必須ですし、低血糖などの合併症への対応も変わってきます。インスリンを行っている患者であれば、Ⅰ型かⅡ型かを確認しましょう。つい忘れがちですが非常に重要です。いつからインスリンを開始されたことが分かるだけでも参考になります。
③最近のコントロール
HbA1cを確認しましょう。最近は患者さんもクリニックで教えてもらっていたり、糖尿病手帳に書いてあったりします。コントロールが悪いのも心配ですが、コントロールが良すぎるのも心配です。治療内容と照らし合わせましょう。
④合併症の有無
腎症は何期?網膜症は?神経障害は?コントロールされていない網膜症がある時に急に厳格な血糖コントロールをすると、網膜症が悪化すると言われています。3大合併症以外にも、脳梗塞や虚血性心臓病などの心血管イベントも把握しましょう。
この4点を押さえておけば別の疾患で入院することになっても、糖尿病への対応を絶対に外せない患者さんなのか、慌てなくてよい患者さんなのかをおおよそ掴むことができます。
もちろん、これらのポイントを押さえておけば、プレゼンする時でも、指導医に突っ込まれた時でも、慌てなくて済みますので、ぜひ使ってみてください。
(編集長)
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入院中の発熱には「8つのD」
あなたは、高齢の肺炎患者さんを担当しています。
入院時は低酸素血症も認めていましたが、徐々に酸素も減らせて昨日から終了できました。食事も摂れていて、むせ込みもありません。WBCもCRPもだいぶ改善してきました。明日には抗菌薬も投与終了の予定で、家族と退院の日程調整も終えたばかりです。
ところが、夕方の申し送りの時間帯に看護師さんから「先生、○○〇さんが、38℃と熱発していますよ。どうしますか?」と言われました。
なんで、このタイミングなの?と、がっかりする状況ですが、 こんな時、あなたはどう対応するでしょう?考えてみてください。
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あなたが、
「ホントは明日で抗菌薬は終了予定だったけど、そのままもう少し継続しよう」と考えたのなら、あまり賢明な選択とは言えません。
発熱の原因は、肺炎なのでしょうか?例えば、尿道カテーテルが入っていて、尿路感染症かもしれません。点滴刺入部のところが発赤していて、点滴ラインからの感染かもしてません。もしかしたら、患者さんの膝が発赤して、熱感を持っていて、偽痛風の発作かもしれません。
つまり、他の感染巣を検索する必要があるのです。最低でも、患者さんを診察して、血液培養をとって、新たな異常所見がないか確認しましょう。
そして、こんな時に、熱源検索に役立つのが、「8つのD」です。
・Device(デバイス)
・CD(CD腸炎)
・CPPD または Pseudogout(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症 または 偽痛風)
・DVT(深部静脈血栓症)
・Drug(薬剤)
・Decuvitus(褥瘡)
・GB Debris(絶食による無石性胆泥)
・Deep abscess(深在性膿瘍)
以前に、徳田先生から7Dと教わりましたが、当院では最後のDeep abscessを加えて、「8つのD」で覚えるようにしています。もう少しで治療が終わるとか、退院目前といった患者さんの発熱を見たら、「8つのD」を思い浮かべながら診察をしていきましょう。
(編集長)
総合内科の回診の一コマ
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治療可能な認知症・・・山中克郎先生のレクチャーより
2月6日に開催した山中克郎先生のレクチャーからです。
今回のレクチャーでは「危険な精神症状」がテーマでした。その中で取り上げられていた治療可能な認知症をシェアします。
71歳の女性が食欲低下を主訴に受診しました。ご本人の話では、1ヶ⽉前から⾷欲がなくなり、かかりつけのクリニックに5⽇間⼊院したら元気になった。でも 2週間前から再び⾷欲がなくなったとのこと。ところが看護師の記録では「朝⾷は全部⾷べました」とか、「⺟と同居しています。母は81歳です(本人は71歳!)。」
ご家族に話を聞いてみると、2週間前から⾷欲がなくなり、 1週間前からもうろうとしている。今⽇は何⽇と聞いたり、会ってもいない友達と会ってきたというようになった。幻視はない。⺟親は18年前に亡くなっているとのこと。
どうも1~2週間の経過で認知症の症状が悪化してきているようです。さらに身体診察では眼球運動障害も認めました。さて診断は?
↓
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診断はビタミンB1欠乏症(Wernicke脳症+Korsakoff症候群)でした。
Wernicke脳症は
・リスクファクターとして、アルコール多飲、がん、AIDSなど
・原因はビタミンB1⽋乏(1-2週間で⽋乏)
・症状は ①錯乱、②運動失調、③眼筋⿇痺が有名ですが、3徴がそろうのはたった30%のみで多くの患者は錯乱のみ
・治療をしないとKorsakoff症候群へ移⾏
Korsakoff症候群は
Wernicke脳症の後遺症として発症する認知症のことで、記銘力障害、失見当識、作話が有名です。治療法はありません。
そして、治療可能な認知症には以下のようなものがあるので、これらは是非とも覚えておきましょう。
・甲状腺機能低下症
・正常圧⽔頭症
・慢性硬膜下⾎腫
・ビタミンB1/B12⽋乏症
・肝性脳症
・尿毒症
・神経梅毒
・うつ病
・⾼齢者てんかん
・薬物依存
(編集長)
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市民公開講座のご報告
こんにちは、水戸済生会 脳神経内科のKiです。
普段は神経内科の一般診療を中心に行っていますが、その他には急性期脳梗塞に対する脳血管内治療(脳血栓回収療法)や、1-2週に1回のドクターヘリ乗務(フライトドクター)をしており、三刀流のつもりで頑張っています。
先日2月8日の土曜日の午後に私と脳神経外科のKo先生と認知症ケアナースともに、水戸市の内原イオンで市民公開講座を行ってきました。実は当院は内原イオンと提携して、年に3-4回市民公開講座を行っており、今回は脳神経系としては初めて市民の皆様の関心の高い、脳卒中と認知症についての講演会を行いました。
最初にKo先生から脳卒中の予防について、2番目にAさんから認知症患者さんとの向き合い方、最後に私から認知症の診断や最新の治療についてお話をしました。
脳卒中予防についてのKo先生の講演では、脳卒中は日本人の死因第4位、介護を必要とする疾患では第1位となっているため、予防が非常に重要性だとのお話がありました。予防としては生活習慣の改善が中心になります。脳卒中であれば高血圧の予防のために、塩分制限や適切な運動、毎日の過剰な飲酒は控えるべきですし、糖尿病の予防のために過剰な炭水化物接種を控えることも大事です。
また、特に急性期脳梗塞では、血栓溶解療法、血栓回収療法という、発症間もない時間に病院に来てもらわないとできない治療があり、発症したらすぐに病院を受診する、もしくは救急車を呼ぶことが重要です。ちなみにKo先生は脳血管障害の手術のスペシャリストで、特に脳血管のバイパス術を得意としており、実際に手術を行った症例についても紹介もされました。
認知症の人との接し方についての認知症ケアナースからの講演では、認知症患者さんの徘徊や、突然怒り出すことについても、本人なりの理由があり、それを尊重することが大事だというお話をされました。患者さんの意思を尊重することは、認知症患者さんの人権を尊重することにもつながります。
また、認知症のケアにおいては、患者さんのみではなく、介護する周りの家族の方の心と体の健康も非常に重要であり、どちらも保たれてこそ認知症のケアがうまくいきます。現在は水戸近辺にも認知症治療を中心に行う医療機関が何個かあり、それらを積極的に活用していくことが大事です。
最後に私からは、軽度認知機能障害や初期アルツハイマー型認知症に対する治療薬である、レケンビ®(レカネマブ)、ケサンラ®(ドナネマブ)についてお話をしました。
どちらの薬でも適応になるのは、かなり早期の段階であり、そのときの症状に気づくには、周りの家族がしっかり注意している必要があります。また、アルツハイマー型認知症では糖尿病がアルツハイマー型認知症のリスクであることが明らかになっており、こちらもやはり脳卒中と同様に生活習慣の改善が予防につながります。
その他には、講演会以外にもブースを設けて医師・看護師・栄養士の相談コーナーを用意して、リハビリからは高齢者の疑似体験、当院に併設する健診センターで用意している「のうKnow」という認知機能チェックのコーナーも用意しました。
脳神経系のイベントとしては初めての試みで、どのくらいの人が集まってくれるか心配でしたが、事前の予約だけで40人以上の予約があり、当日は全てのコーナーを含めて、のべ200人弱の方々に集まっていただき大変盛況でした。来ていただいた方々、当日のイベントのお手伝いをしてくれた当院スタッフの皆様にはただただ感謝です。
脳卒中と認知症は、現在の高齢化社会において非常に重要な疾患でもあり、今後も定期的にこのようなイベントを開催していこうと思っています。
(Ki)
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一過性全健忘・・・山中克郎先生のレクチャーより
2月6日に山中克郎先生をお迎えして、今年度2回目のレクチャーを開催しました。
山中先生は藤田医科大学の教授を務めた後、諏訪中央病院の総合診療科、福島県立医大会津医療センター総合内科の教授として活躍され、退官後の現在は諏訪中央病院に戻られて診療を続けている総合内科の大御所の一人です。著書もたくさんあります。
当院とは2018年からのお付き合いでコロナ期間中もZoomでのレクチャーをお願いしていました。今年度は10月にもお越しいただきましたが、今回もリアルでのレクチャーをお願いしました。
最初にJ1の川並先生から症例提示を行って、後半は「危険な精神症状」のテーマでレクチャーをしていただきました。
いくつかの疾患の典型例を教えていただいたのですが、今回は一過性全健忘についてシェアします。
症例は48歳⼥性。現病歴はご主人の話によると、22︓30頃に突然話が通じなくなったとのこと。具体的には「ここはどこ︖」と聞いたり、⾃分で作ったおかずを⾒て、「これ何︖」と突然⾔い出した。話をしている相⼿が夫ということは分かっているようだ。既往は特になし。内服もなし。
経過観察のため⼀泊⼊院を勧め、本⼈も同意されたが、10分後「どうして⼊院することになったの︖もう帰る︕」と患者は夫と喧嘩を始めた。
こんな症状で画像検査でも何も所見がなければ、一過性全健忘(Transient Global Amnesia)を思い出してください。
一過性全健忘(TGA)とは
<症状>
・数⽇〜数年の記憶が喪失(逆⾏健忘)
→「ここはどこ?」「これ何?」
・発作中は新たな記憶ができない(前向健忘)
→本人も同意したが「どうして入院することになったの?」
・患者は不安になり、何度も同じ質問を繰り返す
・昔の記憶は障害されていない
→話をしている相⼿が夫ということは分かっている
・記憶以外の⾼次機能は障害されない
・24時間以内に症状は改善する
<原因>
・不明、中年に多い
・MRIでは海⾺の神経脱落や虚⾎が⽰唆されている
・疼痛、ストレス、息こらえがtriggerとなることがある
編集長もTGA症例に遭遇した経験がありますが、知っていれば一発診断できるものなので、ご家族を安心させることができますよ。
(編集長)
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透析患者の糖尿病にはHbA1cを用いて良いのか?
糖尿病で維持透析中の患者さんが入院してきました。採血データをみると、HbA1cが5.9%と正常範囲内でした。ところが、内服薬を確認するとDPP4阻害薬を服用していました。コントロールは非常によいのに、なぜDPP4阻害薬を継続しているのでしょうか?
糖尿病のコントロール目標としてHbA1cが使用されるのはご存じの通りです。過去1~2か月の平均血糖値を反映する便利な指標です。ところが、一般的に透析患者さんはHbA1cが低くなって、平均血糖値と解離することが知られています。ですから糖尿病のコントロール指標としては不適とされています。
HbA1cは、すごく単純に言うと砂糖漬けのヘモグロビンの割合のことですが、これは平均血糖だけでなく赤血球寿命にも関連があります。具体的には出血や溶血性疾患、肝硬変のときには低値になります。
透析患者は透析による失血(回路内の残血など)や出血、エリスロポエチン製剤による幼弱赤血球の増加などの影響でHbA1cが低値、つまり過小評価になるのです。
そんな透析患者さんの血糖コントロールに役立つ指標がグリコアルブミン(GA)です。
グリコアルブミンは血清アルブミンの糖化産物のことで、半減期約17日。つまり約2週間の平均血糖を反映しています。基準値は11~16%。血糖の管理目標としては20%未満が目標とされています。
冒頭の患者さんに戻ると、HbA1cは5.9%でしたが、GAは20.1%とやや高めでしたので、DPP4阻害薬の継続が必要なことが理解できました。
(参考文献:糖尿病治療ガイド2022ー2023)
(編集長)
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