臨床研修ブログ
水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
医師の生涯のうち最も実りある初期臨床研修期間を私たちは強力にサポートします。
奇異性塞栓症・・・徳田先生カンファより
前回は徳田先生カンファで検討した
症例をシェアしました。
そこで鑑別に挙げたのが、
奇異性塞栓とトルーソー症候群でした。
今回は奇異性塞栓の補足説明です。
奇異性塞栓とは、
心房細動など塞栓症の原因となる
ものがないにもかかわらず、脳塞栓症など
動脈系の塞栓症を引き起こすものです。
DVTなどで静脈系に生じた血栓が、
心房中隔にある卵円孔(卵円孔開存:PFO)や
肺動静脈奇形(AVM)などの右左シャントを介して
動脈系に入り込むことで起こります。
ちなみにPFOは正常健常人でも
20%前後の頻度で見られると言われて
おり、決して稀なものではありません。
よく心房中隔欠損(ASD)と混同されて
いますが、PFOは普段は穴が開いて
いない(=シャントがない)のですが、
完全に閉鎖していないために、
重いものを持ち上げるとか、排便など
息こらえる時(=バルサルバ手技)などで
右房圧が上がった時に右左シャントが
生じるものです。
一方ASDは欠損孔が開いているので、
通常は左右シャントがあります。
もう一つの肺AVMは、肺動脈と肺静脈が
直接つながっているものです。本来は
肺がフィルターとして血栓や細菌などを
動脈系に入らないようにしているのに、
そこをすり抜けて動脈系に入り込んで
しまうのです。
左下葉の肺AVM
肺AVMがある患者さんでは奇異性塞栓症
の他に、脳膿瘍などが多くみられます。
ちなみに治療としては流入血管径が
3㎜以上で治療適応となり、手術的に
切除したり、コイル塞栓でAVMを塞いで
しまいます。
肺動脈造影
コイル塞栓後
最近は原因の良くわからない脳塞栓症を
ESUS(Embolic Stroke of Undetermined Sources)
と言ったりしますが、いずれにせよ
比較的若年者の脳梗塞や、心房細動が
捕まらないけど、画像上は塞栓症が
疑われる時に奇異性塞栓症を考えて下さい。
(編集長)
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◆第3回
小児救急はこわくない
~こども達の未来を救おう~
2018年12月15日(土)
当院で開催します!詳細はこちらから!!
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心筋梗塞の診断基準
ERに搬送されて来た80歳代の女性。
主訴は胸痛。発症から約3時間で
来院しました。心電図は下壁誘導で
ST上昇あり。緊急PCIで右冠動脈の
閉塞を認めてステント留置で再灌流
成功と、よくあるSTEMIの症例です。
ところがPCI終了後にERで対応した
研修医からこんな質問がありました。
「来院時の採血でWBCもCPKも
LDHもトロポニンも全く正常でしたけど、
こんなことってあるんですか?」
答えはもちろん、「あり」です。
STEMIでも発症から早ければ
血液検査が正常ということは
当然あります。
でも現場でやっていると、
「WBCも何も上昇していない、
いいのかな?」とか
「循環器の先生を呼んじゃったけど
良かったのかな?」
などと、急に不安になった経験が
あなたにもあるはずです。
後から考えれば何てことないのですが、
臨床とはそういうものです。なので
心配しなくて大丈夫です。
でも、自分なりに症例を振り返り、
次に同じような状況に遭遇した時に
自信をもって対応できるように
経験を積み上げていくことが大事です。
では、この症例に関連して質問です。
急性心筋梗塞の診断基準は何でしょう?
↓
↓
意外とこの質問に自信をもって
答えられる研修医は少ないです。
なので、この機会に是非とも
覚えてください。
急性心筋梗塞の診断基準は2012年に
欧州心臓病学会と米国心臓病学会から
Universal definitionなるガイドラインが
出されています。これには、
トロポニン上昇に加えて、
- 心筋虚血による症状
- 心電図による新たなST-T変化、新たな左脚ブロックの出現
- 心電図にて異常Q波出現
- 画像診断にて新たな心筋のバイアビリティ喪失、新た壁運動異常
- 冠動脈血管造影や剖検での冠動脈内の血栓の同定
上記5つのうち1つ以上を満たす
と定義されています。
このUniversal definitionが覚えにくい
もしくは覚えたくない、という場合は
以前に用いられていた
WHOの診断基準が簡単です。
それは
「虚血による胸部症状」
「(心筋梗塞に合致する)心電図変化」
「心筋逸脱酵素の上昇」
このうち2つ以上あれば急性心筋梗塞
と診断します。
疾患の定義や診断基準は変わるもの
ですが、自分の不得意な領域でも、
現場で経験した時に確認してみると
効果的ですよ。
(編集長)
慌ただしくPCIの準備中
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徳田先生のカンファレンス
10月30日に徳田安春先生にお越し
いただき、症例検討を行いました。
もう何度も紹介していますが、
徳田先生は超有名で、患者さんでも
「ドクターG」と言えば分かってしまう
ほどです。現在は沖縄をベースに
全国を飛び回り、超多忙な
スケジュールでご活躍です。
8月に引き続き、今回も茨城県の
実力派講師教育回診事業の一環で
お越しいただきました。
さて、今回の症例をシェアしたいと
思います。
50歳台後半の女性
主訴は意識障害
数日前から姿が見えないのに気づき
自宅を訪ねた人が廊下で倒れている
のを発見し、搬送されました。
既往は高血圧とDVT、子宮筋腫が
ありました。
検査の結果、MRIで脳梗塞と診断され
さらに高Ca血症、両下肢のDVTと
子宮頸がんが判明しました。
この情報で、あなたはどんな鑑別を
挙げられますか?考えてみて下さい。
↓
↓
ヒントです。
①脳梗塞とDVTは一元的に説明できる
でしょうか?
②高Ca血症と子宮頸がんは関連ある
でしょうか?
①この症例では、脳梗塞で倒れてから
時間がたっているので、二次的にDVTが
出来たと考えても良いのですが、
比較的若年女性の脳梗塞なので
静脈血栓による奇異性塞栓も鑑別に
挙げる必要があります。
具体的には肺動静脈奇形(AVM)や
卵円孔開存(PFO)を検索します。
さらに悪性腫瘍が絡んだ時は、
Trousseau(トルーソー)症候群も
鑑別になります。
②悪性腫瘍(特にSCC)では副甲状腺
関連タンパク(PTHrP)が高値になり、
高Ca血症を来します。
この症例は肺AVMやPFOはなく、
血栓性素因も認めなかったことから
トルーソー症候群と考えられました。
また、PTHrPが高値で子宮頸がんによる
高Ca血症と診断しました。
今回はこの1症例を約2時間もかけて
詳細に検討していきましたが、
徳田先生の膨大な知識と
明快な臨床推論に圧倒され、
非常に学ぶ点が多いカンファになりました。
徳田先生どうも有り難うございました。
(編集長)
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