臨床研修ブログ

水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
医師の生涯のうち最も実りある初期臨床研修期間を私たちは強力にサポートします。

TAFな3X

2025.01.07
カテゴリー: 救命救急センター

年明け早々にER当番をしていたら、バイクの単独事故の患者さんが搬送されてきました。橈骨動脈は蝕知できるけど、脈が速く、皮膚は冷たくしっとりしていて、意識もイマイチです。何より呼吸がおかしいことに、あなたも一目見て分かりました。聴診すると胸部で呼吸音に左右差があります。そのうちに橈骨動脈も触れなくなってきました。

 

何が起こったのでしょう?

今回は胸部外傷の患者に遭遇した時の対応についてです。外傷患者でもABCDEが基本となりますが、B(Breathing & Breast)の評価には「呼吸・頸部の評価と致命的な胸部外傷の処置」が含まれます。

 

モニターで酸素飽和度や呼吸回数の変化に注意を払いながら、胸部では

・外傷性出血は?

・胸郭挙上は?

・左右差は無いか?

・奇異呼吸は?

・呼吸音の左右差は?

・胸郭の動揺は?

・圧痛は?

・皮下気腫は?

・頸静脈の怒張は?

・呼吸補助筋の使用は?

・気管の偏位は?

 

これらを素早く評価して、すぐに処置をしないと致命的な疾患を見逃さないようにします。

致命的な胸部外傷を疑う状況では「TAFな3X」が役立ちます。

 

TAFな3X(タフなスリーエックス)とは、

 

T:Tamponade Cardiac 心タンポナーデ

A:Air way obstruction 気道閉塞

F:Flail chest フレイルチェスト

X:Open pneumothorax 開放性気胸

X:Tension pneumothorax 緊張性気胸

X:Massive hemothorax 大量血胸

 

これらはABCの異常がオーバーラップしているので生命に直結してきます。

ERで行う処置は、気道確保、人工呼吸、陽圧換気、胸腔ドレナージですが、複数を併発していることもあるので、繰り返しの評価も重要になります。

 

冒頭の症例は、緊張性気胸を起こしていたため血圧低下を来していましたが、ドレナージで改善できた症例です。外傷患者では素早い評価と対応が重要ですね。

(編集長)

ERで申し送り中

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

水戸済生会総合病院の臨床研修は

総合診断能力を有するスペシャリスト

を目指します

◆病院見学に来ませんか?

当院の研修医がどんなふうに仕事しているのか?どんな生活を送っているのか?

あなたの目で確かめてみてください!

 

病院見学をご希望の方は、下のフォームからご連絡ください。

 

なお、病院見学がむずかしい時は、Zoomで個別説明会を行っていますので、

下のフォームに「Zoom希望」と記入してご連絡ください。

病院見学の申し込みはこちら

 

心停止の鑑別・・・6H6T

2025.01.04
カテゴリー: 救命救急センター

あなたが年始からER当番をやっていたところ、救急要請が飛び込んできました。

 

「70歳台の男性のCPA(心肺停止)症例です。自宅で胸痛を訴えたあとに突然意識を失いました。」

 

10分かからないうちに救急車は病院に到着しました。救急隊員が車内で点滴ルートを確保してくれて、胸骨圧迫を続けいていますが、まだ自己心拍は再開していません。あなたもERの看護師さんらとともに、手際よく胸骨圧迫を代ったり、薬剤投与を行います。

 

でも、この時にあなたには、もう一つやらなければいけないことがあります。それは何でしょう?

それはCPAの原因を探ることです。なぜCPAに至ったのか、その原因がわからなければ同じことを繰り返してしまい、せっかくROSC(自己心拍再開)しても、その心拍をつなぎ留めておくことができなくなってしまいます。

 

蘇生と同時に、蘇生する先の「なぜ」を探る必要がありますその鑑別が「6H6T」です(5H5Tと言われることもあります)。

 

6H6Tとは、

 

Hypovolemia(循環血液量減少)

Hypoxia(低酸素

Hydrogen ion(アシドーシス)

Hypo/Hyperkalemia(カリウム異常)

Hypoglycemia(低血糖)

Hypothermia(低体温)

 

Tamponade(心タンポナーデ)

Toxins(毒)

Tension pneumothorax(緊張性気胸)

Thrombosis coronary(冠動脈疾患)

Thrombosis pulmonary(肺動脈血栓)

Trauma(外傷)

 

この鑑別を常に頭の中に入れ、心肺蘇生法を行いながら、採血、レントゲン、エコーを隙間を縫いつつ行っていきます。蘇生の先を見据えて行動することで、救命~社会復帰を手繰り寄せることができるのです。

 

なお、冒頭の症例はROSC後に造影CTで急性肺動脈塞栓症と診断されました。ECMO管理で改善し、無事退院となった症例です。

(編集長)

慌ただしい年始のER

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

水戸済生会総合病院の臨床研修は

総合診断能力を有するスペシャリスト

を目指します

◆病院見学に来ませんか?

当院の研修医がどんなふうに仕事しているのか?どんな生活を送っているのか?

あなたの目で確かめてみてください!

 

病院見学をご希望の方は、下のフォームからご連絡ください。

 

なお、病院見学がむずかしい時は、Zoomで個別説明会を行っていますので、

下のフォームに「Zoom希望」と記入してご連絡ください。

病院見学の申し込みはこちら

 

新年のご挨拶

2025.01.02
カテゴリー: 初期研修

新年明けましておめでとうございます!

本年もこのブログをどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

新年を迎えて、あなたは今年の目標、そして将来の目標を考えてみましたか?6年生のあなたなら今年の目標はもちろん国試合格ですが、臨床研修が始まってからの将来の目標も忘れずに考えてくみてださい。

 

さて、その将来の目標に絡めての話ですが、内科系であっても外科系であっても、何か一つの仕事をマスターするには時間が必要ですよね。単に仕事ができるのではなく、想定されるあらゆる状況下できちんと結果を出せるようになるには、かなりの時間が必要なことはあなたも想像できると思いますが、どのくらいの時間を考えておけば良いのでしょうか?

 

そこで、今回はあなたに「1万時間の法則」を紹介したいと思います。

 

「1万時間の法則」とは、マルコム・グラッドウェルの著書『天才!成功する人々の法則』で紹介された、ある分野で一流になるためには1万時間の練習や努力が必要だという話です。1万時間と言えば、毎日3時間の練習を10年間続けることに相当します。

 

10年と言われるとガッカリする人もいると思いますが、ここで注意してほしいのは、この法則を「何かに熟達するには1万時間の練習が必要である」「1万時間練習しないと技能を身につけることはできない」という意味ではないということです。

 

ちょっと考えればわかることですが、練習時間だけが全てを決めるわけではありませんし、効率よく学べばもっと短い時間で熟達できるはずです。必ずしも1万時間を費やす必要はありません。

 

でも、何かに熟達するには自分から勉強して、繰り返し練習して、フィードバックを受けて、また繰り返すことが必要で、それには時間がかかるものなのです。手技の習得だとこのプロセスはイメージしやすいですが、手技以外の業務でも同じことが言えます。

 

すぐに上達しないから、自分にはセンスがない、自分には向いていないと判断するのは賢いとは言えません。

 

そして、時間をかけて熟達するにはいくつかコツがあります。よく言われることですが、目標を明確にする、そして努力の対象を好きになる、努力を習慣化することで、熟達するまでの長い期間でもモチベーションも維持できます。

 

1万時間の法則は、医学生のあなたにも、研修医や専攻医のあなたにとっても、大いに参考になる考え方だと思います。長い道のりを歩む中で、日々の努力を積み重ねることが成長への鍵となります。2025年も、皆さんが目標に向かって努力し続けることを応援しています。

 

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

(編集長)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

水戸済生会総合病院の臨床研修は

総合診断能力を有するスペシャリスト

を目指します

◆病院見学に来ませんか?

当院の研修医がどんなふうに仕事しているのか?どんな生活を送っているのか?

あなたの目で確かめてみてください!

 

病院見学をご希望の方は、下のフォームからご連絡ください。

 

なお、病院見学がむずかしい時は、Zoomで個別説明会を行っていますので、

下のフォームに「Zoom希望」と記入してご連絡ください。

病院見学の申し込みはこちら