臨床研修ブログ

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抗NMDA受容体脳炎(1)

2025.02.04
カテゴリー: カンファレンス 内科

はじめまして、平Eです。

 

今回は自己免疫性脳炎のひとつ、抗NMDA受容体脳炎の症例を経験したので、その際に得た知識を共有します。

 

自分が診ることはないだろうと思うかもしれませんが、脳炎のうち最も多いのが感染性脳炎で、次いで多いのが自己免疫性脳炎です。抗NMDA受容体脳炎は自己免疫性脳炎の中で最も多いため、意外と接する機会は多いかもしれません。臨床像としては次第に増悪する妄想・幻覚などの精神症状で発症し、1−2週間ほどの経過で不随意運動・自律神経障害・中枢性低換気・けいれんなどの神経学的症状が出現します。重症例では神経学的症状のコントロールを目的に鎮静・気管挿管による管理を要する場合があります。

 

ここでは診断・治療・経過・予後と、特に重症例で問題になる鎮静について項ごとにまとめます。

 

【診断】

3ヶ月以内に進行する精神症状や新規発症のてんかん発作、神経局所症状を認めた場合、自己免疫性脳炎を鑑別に挙げる必要があります。基本的には除外診断で、感染性髄膜炎の除外→中枢神経症状を呈する可能性のある全身性自己免疫性疾患(SLE、ベーチェット病、血管炎等)の除外を行った上でどれにも当てはまらない場合、自己免疫性脳炎の可能性を考慮します。

 

診断には特異的自己抗体のスクリーニングに加え、悪性腫瘍のスクリーニングが必要です。自己免疫性脳炎は発症機序に悪性腫瘍が関連するものが多く、傍腫瘍性脳炎であれば治療に早期の腫瘍切除が必要になるためです。若年女性では卵巣奇形種との関連も指摘されているようです。

 

【治療】

治療は自己抗体陽性を待たずに開始することが多いです。理由としては検査可能な自己抗体が限られている点、結果が出るまで時間を要する点、抗体陰性の例も多い点などがあげられます。

 

治療は免疫抑制療法が基本で、1st lineとしてステロイドパルスや免疫グロブリン静注療法(IVIG療法)、血漿交換療法単独もしくは併用を行います。腫瘍性病変を合併する場合は免疫抑制療法への反応性が乏しいため、早期の腫瘍切除を考慮する必要があります。治療に対する反応性に乏しい場合、2nd lineとして保険適応外ではあるもののリツキシマブやシクロホスファミドが奏功するケースもあるようです。

 

【経過】

風邪様の前駆症状期が数日から2週間程度見られた後、精神症状が出現します。精神症状は不安や恐怖、幻覚など多岐にわたり、統合失調症の急性期を思わせる場合もあり、本症例も当初は精神科病院に医療保護入院していた経過があります。

 

数週の精神症状ののち、不随意運動や痙攣発作、自律神経障害が出現します。口腔・舌・顔面の不随意運動が特徴的と言われますが、実際には全身性に不随意運動が出現します。

治療反応性にもよりますが、数週から数ヶ月かけて不随意運動期を脱すると緩徐回復期に入り、数ヶ月から数年かけてもとの意識状態に戻る疾患です。

(平E)

<編集長追記>

映画の「エクソシスト」や「ブレイン・オン・ファイア」、邦画では「8年越しの花嫁 奇跡の実話」がこの抗MDA受容体脳炎をモチーフにしていますので、ご覧いただくとイメージがつきやすくなります。

 

ICUでの一コマ

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