臨床研修ブログ
水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
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中枢性尿崩症(Central Diabetes Insipidus : CDI)
今回は蘇生後脳症による中枢性尿崩症(Central Diabetes Insipidus : CDI)の症例を経験したのでまとめてみました。
下垂体の後葉から抗利尿ホルモン(バソプレシン)が分泌されると、腎臓内で水の再吸収(尿濃縮)が促され、体内に必要な水分量をコントロールできます。下垂体機能障害の1つである中枢性尿崩症(Central Diabetes Insipidus : CDI)は、抗利尿ホルモンが分泌されなくなる、または低下することにより発症し、体内の水分が大量の尿となって失われます。
【症状】
症状は多尿→口渇→多飲→多尿…とループを繰り返し、昼夜を問いません。尿検査では低張尿(Uosm≦300 mOsm/kgH2O,Uosm<Posm)、低比重尿(<1.010)を認めます。続発性では原疾患の症状を合併します。
【検査】
検査は中枢性尿崩症の診断と治療の手引き(平成30年度改訂)にて明確に記載されていたため抜粋します。
1.尿量は成人において1日3000㎖以上または40㎖/㎏以上
2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下
3.高張食塩水負荷試験におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05 ml/kg/min で 120 分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める。
4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少で終了)においても尿浸透圧は300 mOsm/kg を越えない。
5.バゾプレシン負荷試験(水溶性ピトレシン 5 単位皮下注後 30 分ごとに2 時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は 300 mOsm/kg 以上
に上昇する。
確定診断は3症状すべてが揃い、検査の1,2,3または1,2,4,5を満たすもの、となります。検査を進める中で心因性多飲症と腎性尿崩症の鑑別が重要になります。
【治療】
治療はデスモプレシン(DDAVP)の経鼻製剤2.5μg/回または口腔内崩壊錠60μg/回を1日1回から投与します。治療導入後は尿量、尿浸透圧(または比重)、血清Na濃度、体重などをなるべく毎日測定し、投与量や回数を調整します。
発症原因は大きく3つ(特発性、家族性、続発性)に分かれ、続発性が最も多く約80%を占めます。これは画像上で視床下部や下垂体に器質的障害が認められるタイプで、具体的には脳腫瘍、脳手術後、感染など炎症、癌転移などがあります。一方で特発性とは、画像上で視床下部~下垂体に器質的異常を認めないタイプで約10%を占めます。
今回は蘇生後脳症にともなう中枢性尿崩症の症例を経験しましたが、文献によると、低酸素脳症後に尿崩症を発症するまでに60±46時間、2-3日後に尿崩症と判断されることが多い、と記載されており、本症例は心肺停止後から心拍再開するまでが長く、結果として低酸素脳症に至り、その2日後に尿崩症の診断に至りました。またその文献では、低酸素脳症の尿崩症は死亡リスクが高く予後不良因子とされており、予断を許さない状況であることに変わりはないと再認識できました。
我が国内の患者数は「3万人に1人」と言われる珍しい病気で、国内の患者数は約4000~5000人程度なので文献の絶対数も少ないです。調べる中で発症原因の統計にバラ付きがみられるのはこうした背景の影響と思われ、今後のデータ収集が期待されます。
(Aotearoa)
松永先生カンファの時の一コマ
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