臨床研修ブログ
水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
医師の生涯のうち最も実りある初期臨床研修期間を私たちは強力にサポートします。
鑑別疾患のあげ方(解剖学的アプローチ)
あなたがたとえどの診療科に進むとしても、初期研修医のうちに必ず身に着けてもらいたいことの一つに、「鑑別疾患のあげ方」があります。
鑑別疾患は、星の数ほどあるので全部覚えることは無理ですが、鑑別疾患のあげ方(フレームワーク)をおさえておくと、考えやすくなるだけでなく、抜けがなくなるので、ぜひ覚えて下さい。
編集長が勧める鑑別疾患のあげ方には2つあって、前回は1つ目のVINDICATE!!!Pを紹介しました。今回は2つ目の、解剖学的アプローチを紹介します。
この方法は具体例を出した方が分かりやすいので、やってみましょう。
では、「胸痛」の鑑別をできるだけたくさんあげてみてください
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いくつ鑑別をあげられましたか?
狭心症、心筋梗塞、大動脈解離、肺塞栓、気胸・・・・、多くの研修医は、ERで見落とすとヤバい疾患はすぐに言えても、あまり
ヤバくない(生命にすぐにかかわらない)疾患は、なかなか挙げられません。ヤバい疾患ではなくとも、患者の不安は一向に解消されないので、下手をするとトラブルのもとになることもあります。
こんな時に、解剖学的に近い臓器や組織を考えていくと鑑別疾患を挙げやすくなります。
具体的に、胸に近い臓器は・・・・
皮膚:
帯状疱疹
乳房:
乳癌、乳腺炎
骨:
肋骨骨折、圧迫骨折、骨転移
筋肉:
筋肉炎
肺(さらに胸膜、肺胞、間質、気管支、気管と分けて考えましょう):
気胸、胸膜炎、肺癌、肺炎、気管支炎、肺塞栓
心臓(冠動脈、心外膜、心筋、弁):
狭心症、心筋梗塞、急性心外膜炎、心筋炎、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症、
大血管(大動脈とその分枝、大静脈):
大動脈解離(特に上行解離)、大動脈瘤破裂
縦隔:
縦隔炎、縦隔気腫、縦隔腫瘍
食道:
逆流性食道炎、食道破裂、食道腫瘍
胃:
胃炎、胃潰瘍、胃癌
肝臓:
肝膿瘍、肝腫瘍
胆嚢・胆道:
胆石、胆嚢炎、胆管炎
甲状腺:
甲状腺炎
神経:
肋間神経痛、帯状疱疹後神経痛
横隔膜:
横隔膜下膿瘍
まだまだあると思いますが、このように解剖学的に近いものを順に頭に浮かべて、それに関する疾患をあげていくと意外とたくさん出てきます。臨床の現場では、前回紹介したVINDICATE!!!+Pと、この解剖学的に攻める方法を無意識に組み合わせて鑑別疾患を考えていると思います。
医学生や研修医のうちは、鑑別疾患をたくさんあげるトレーニングを意識しましょう。同時に、鑑別疾患を広げるだけでなく、目の前の患者さんの診断に至るように鑑別を絞り込むトレーニングも大事です。こちらはまた別の機会で紹介します。
(編集長)
回診中に鑑別疾患を聞かれているところ♪
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救命救急センターだより「ロード アンド ゴー」
空飛ぶ消化器内科を目指すNaoです。本年も宜しくお願い致します。
「飛ばねぇ豚は、ただの豚だ。」
最近はドクターヘリよりドクターカーの出勤が多くて飛べていません。冬は、空気が澄んでいるのと、暑くないので空が楽しいんですけどね。ただの豚じゃなくなりたいものです。
さて、僕たち救命に携わる医師および看護師が現場進出の上で、病院外で患者さんに一刻も早い治療を届けるべく働いたりしますが、これを病院前診療と言います。現場進出の手段によりドクターカーやトクターヘリと呼んでいます(最近はドクタージェットというものもありますが、これはどちらかというと搬送が目的ですかね)。医師や看護師が現場進出するのも大切ですが、現場でできることには限りがありますので、やはり一刻も早い「搬送」が大切になります。
僕が現場に行った事案ではありませんが、このことを示す一つ良い事例がありました。交通外傷により大動脈損傷、横隔膜損傷および腹腔臓器損傷をきたした症例です。胸部大動脈損傷に対してTEVARを行い、その後緊急開腹して救命したというものになりますが、この時現場進出した救急医は、当然ながら超重症であることを一目で判断しました。
そこからがポイントなのですが、現場でできることは少ないと判断し、必要最小限の治療を行い一刻も早く搬送することを優先したのです。ともすると、僕のようなひよっこは、現場で色々細かく評価したり、できる検査や処置全部やりたくなってしまったりしますが、患者さんの救命には、早く病院に連れていき、より正確に診断し治療介入することのほうが重要なこともあります。重症だからこそ、です。
医師の介入なしでも現場の救急隊でこれを判断して行えるようにした仕組みが、「Load and Go(ロード アンド ゴー)」です。Load and Goは収容してすぐに現場離脱するものですが、生命の危険が少しでも疑われる傷病者への対応方針を言います。状況評価で高エネルギー事故に該当するもの、初期評価ででABCに異常がみられるもの、全身評価でJPTECが定める損傷(フレイルチェストや頭頚部および体幹部の穿通性外傷、骨盤骨折、両側大腿骨骨折など)がある場合などに適応とされます。
この場合、救急隊はLoad and Goを宣言し、救命救急センターである我々は必要最小限の情報だけを受け取り、受け入れの準備を行います。病院選定時に不必要に情報のやり取りで時間をかけないための方策で、これにより収容から搬入までに少なくとも数分以上の時間短縮が見込まれます。
数分、数秒が命の時間を左右することは、救命センターでは少なからず経験されます。消防および救命センターの強い連携のもとで引き続き地域医療を守っていきたいと思います。
実際そこまでシビアな症例は多くありませんが、当院で2年の研修を積むと経験することになります。救命センターでの仕事は、大きなやりがいがあります。
皆さんと当院で一緒に働けるのを楽しみにしています。ぜひ見学にいらしてください!
(Nao)
慌ただしいERの一コマ
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新年明けましておめでとうございます。
ブログ読者のみなさま
新年明けましておめでとうございます。本年もこのブログをどうぞよろしくお願い申し上げます。
この数年はサボっていましたが、以前は新年最初のブログでキャリアなどの将来計画に関する話題を何度か紹介していました。今年は久しぶりにこれに関連する話題を紹介してみようと思います。
あなたは「キャリアのVSOP論」というのを聞いたことがあるでしょうか?年代ごとに求められるスキルのことだそうです。
20代はVitality(バイタリティ)
積極的にいろいろなことに取り組んで視野を拡げることで、自分の得意な分野や方向性を掴む年代
30代はSpecialty(スペシャリティ)
自分の得意分野を深堀りしていく時期。つまり、「自分はこの分野で勝負する」という方向性を決める年代。
40代はOriginality(オリジナリティ)
専門性を持ったとしても、周囲との差別化はできません。自分にしかできない仕事を意識して追及する年代。
50代はPersonality(パーソナリティ)
「役職が高い」と言うことではなく、周囲の人から「信頼されている人」なのかどうかで、自分の価値が決まる「人間力」で勝負する年代。
ちなみにこのVSOP論は1978年に脇田保と言う方の本に書かれたのが最初のようです。編集長はネットで見つけたので、原著はもちろん読んだことはありませんが、ネット上ではVがVariety(バラエティ:多様性)と書かれている記事が多くあります。でも、原著では「Vitality」と書かれているらしく、時代とともに少し変わっているようですね。さらに60代はPhilosophy(フィロソフィー:哲学)と書き加えられているものも見つけました。
由来はどうでもいいですが、研修医から医師として独り立ちしていく過程で、20代は失敗しながら一生懸命にいろいろなことに挑戦してみる、30代は自分の得意な専門性を高めていく、40代は専門領域の中で自分にしかできないことを探っていく、というのは、既にもうちょっと上の年代に達した編集長からするとすごく腑に落ちるところです。あなたの周りでカッコよく活躍している先生も、最初からできたわけではないのです。
将来のことは普段は忙しくて考えることを後回しにしがちです。せっかくの年の初めですから、短い時間でもVSOPを意識しながら将来のことを考えてみてはいかがでしょうか?
あなたにとって2022年が飛躍の1年になるよう一緒に頑張って行きましょう!本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
(編集長)
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