臨床研修ブログ
水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
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臨床実習報告・・・歩行障害の一例①
今回の記事は3週間ほど当院で臨床実習をしてくれた医学生が書いてくれました。総合内科ではJ1,J2と同様に病棟を回って、患者さんも何人か担当して、朝夕の回診ではプレゼンもやってもらいました。実習のまとめ的な感じで書いてもらいましたので、ぜひご覧ください。
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3週間、水戸済生会総合病院総合内科で臨床実習させていただいております、医学部6年のりんごです。実習中に出会った症例のまとめがブログに載るという非常に貴重な機会をいただいたので、頑張って書いていきます。よろしくお願いいたします。
症例は70代の男性の方です。主訴は歩行障害です。現病歴についてですが、腰痛と両下肢痛を主訴に当院整形外科を受診したところ、手指振戦や姿勢保持困難などが認められ、Parkinson症候群が疑われたため当院脳神経内科に紹介されました。
外来受診時、両下肢のびまん性筋萎縮が認められたこと、数カ月程前から慢性進行性に症状が増悪していることから「●●●」が疑われ、精査目的に入院となりました。
さて、「●●●」には何が入ると思いますか?
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答えは筋萎縮性側索硬化症(ALS)が入ります。ALSは報道番組などでも頻繁に取り上げられるため、ポピュラーな疾患になりつつありますが、医師国家試験での出題頻度はそこまで高くない印象です。そこで教科書に書かれている基本事項と実習中に新たに学んだことを織り交ぜながら、3回に分けて書かせていただきます。
<筋萎縮性側索硬化症(ALS)について①>
【概要】
上位運動ニューロン及び下位運動ニューロンが選択的にかつ進行性に変性・消失し、全身の筋萎縮と筋力低下を来たす原因不明の指定難病である。
【症状・身体所見】
主な症状・身体所見は以下の3つである。
①上位運動ニューロン障害:皮質脊髄路(錐体路)の障害による。下肢に強く出現することが多い。
②下位運動ニューロン障害:脊髄前角細胞の障害による。上肢に強く出現することが多い。
③球麻痺:延髄の運動核(Ⅸ、Ⅹ、Ⅻ)の変性による。
★重要事項★
・筋萎縮の強い筋でも腱反射が保たれている、もしくは腱反射亢進を認めることは、上位運動ニューロン障害を示唆する重要な所見になります。
・前面に出るのが上位運動ニューロン障害か下位運動ニューロン障害かは、障害の程度によって変わります。
・糖尿病などの末梢神経障害をきたす疾患併発例では腱反射が減弱するため、上位運動ニューロン障害の有無を正確に把握することが難しくなります。
・母指球筋は萎縮し、小指球筋は保たれる解離性小手筋萎縮(split hand)がALSに特徴的な所見です。余談ですが、母指球筋は短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、母指内転筋の4つの筋肉から成ります。手掌では、母指から環指の撓側半分までを主に正中神経が支配しているため、母指球筋は正中神経支配では?と思いがちですが、母指内転筋のみ尺骨神経支配になっています。母指を外転、屈曲、対立させた場合はいずれも母指球筋が固くなりますが、母指を内転させた場合のみ母指球筋は柔らかいままです。この点に着目すると母指の運動を支配する神経支配の覚え方は簡単になります。ちなみに母指の伸展は橈骨神経支配ですが、その際には全く母指球筋は固くなりません。指導医の先生が教えてくださったのですが、ここまで記憶に定着しやすい覚え方があるのかと感動しました。
・末梢神経や髄節の分布に沿わない上位運動ニューロン障害または下位運動ニューロン障害が見られることが特徴で、鑑別の際にも重要になります。鑑別疾患については3個目の記事に書かせていただきます。
・医師国家試験で出題頻度が高いのはALSの陽性所見よりも陰性所見です。四大陰性所見としては感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡があり、さらに小脳症状と錐体外路症状が加わることもあります。今回の症例でも感覚障害や眼球運動障害などは見られませんでした。
今回はここまでとさせていただきます。次回は病型と検査所見についてまとめようと思います。それでは失礼します。
(参考文献)
(1)辻 省次・祖父江 元. アクチュアル脳・神経疾患の臨床 すべてがわかるALS・運動ニューロン疾患. 株式会社中山書店
(りんご)
回診の一コマ
(りんご先生も写っています)
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