臨床研修ブログ
水戸済生会総合病院は、救急医療から緩和医療まで多彩な症例が経験できる総合力の高い地域の基幹病院です。
医師の生涯のうち最も実りある初期臨床研修期間を私たちは強力にサポートします。
肺炎患者の対応・・・医療介護関連肺炎(NHCAP)
今回は医療介護関連肺炎(NHCAP:Nursing and Health-Care Associated Pneumonia)です。
NHCAPの定義は、医療ケアや介護を受けている人に発症した肺炎で、
①療養病床、介護施設、精神病床に入所している
②90日以内に病院を退院した
③介護を必要とする高齢者、身体障害者
④通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制剤等)を受けている
上記のうち、1つ以上を満たすものとなっています。
NHCAPの評価はHAPと同様にまず「患者背景のアセスメント」を行います。具体的には、誤嚥のリスクが高いか? 癌患者の終末期や老衰などの状況か? と言ったことを評価して、状況によっては肺炎の治療を行わないという選択肢も検討します。
続いて、①重症度の判断、②敗血症の有無の判断、③耐性菌リスクの判断を行うのは、他の肺炎の場合と同じです。
ちなみに重症度の判断には、院内肺炎(HAP)ではI-ROADを用いましたが、NHCAPでは市中肺炎(CAP)同様にA-Dropを用いて評価します。
耐性菌のリスク評価については以下のようになっています。
HAPと似ていますが、90日以内の入院歴や、胃酸分泌抑制薬、つまりPPIの使用が耐性菌のリスクに挙げられており、興味深いところです。
次回は誤嚥のリスクについて紹介します。
(編集長)
今回も徳田先生カンファの一コマ
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肺炎患者の対応・・・人工呼吸器関連肺炎(VAP)
今回は人工呼吸器関連肺炎(VAP)です。
VAPはHAPの一つですが、「気管挿管下人工呼吸を開始して48時間以降に発症した肺炎」と定義されます。
ICUにおける主要な感染性合併症であり、全挿管患者の9~27%に発生するとされています。
起炎菌は緑膿菌が最多ですが、エンテロバクターやセラチア、マルトフィリアなど、治療に難渋するグラム陰性桿菌も多く、黄色ブドウ球菌やMRSAの割合も高いようです。
では、ここで質問です。あなたはどうやってVAPを診断していますか?
そもそも、挿管されるくらい原疾患の状態が悪い、抜管できないという状況な訳ですから、CAPのようにレントゲンで肺炎像がはっきり見えるとは限りません。でも、挿管されている患者が発熱すればVAPと診断してよいしょうか?
欧米のガイドラインなどでも確立した診断基準はないようですが、成人肺炎診療ガイドライン2017では以下のようになっています。
こうしてみると、もっともなことばかりですが、臨床でははっきりしない、モヤモヤが残ることも多いのが実際のところです。
挿管されている患者さんでは、発熱の原因として、VAP以外に尿路感染症やCLABSI(ライン感染)などいくらでもあるので、VAPの診断は簡単ではないのです。
VAPは早期の治療開始は大事ですが、熱が出たからVAPと簡単に決めないで他の熱源の検索も忘れないようにしましょう。
そして、治療もさることながら、大事なのは予防です。具体的には
①手指衛生
②仰臥位の回避
③呼吸器回路を頻回に交換しない
④過剰な鎮静を避ける
⑤人工呼吸器からの離脱
⑥声門下腔吸引孔付きチューブの使用
⑦口腔ケア
ちなみに、②のために頭部を30~45度挙上するだけで、VAPリスクが67%も減少します。⑥はメタ解析でVAPの発症を低下させることが示されているそうです。
(編集長)
徳田先生カンファの一コマ
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肺炎患者の対応・・・院内肺炎(HAP)その2
院内肺炎(HAP)の続きです。
HAPの治療の流れは、①重症度の判断、②敗血症の有無の判断、③耐性菌リスクの判断を行っていきますが、特に重症度の判断では、A-DROPではなくI-ROADと2つの重症度規定因子を用いて評価します。
では、③耐性菌のリスクはどう考えればいいのでしょうか?
成人肺炎診療ガイドライン2017では、次のようなものを、耐性菌のリスク因子に挙げています。
さらに考慮すべき起炎菌はとして、下記のようなものを挙げています。
こう考えると、「HAPだから、緑膿菌もカバーしなければ」というのは、必ずしも正しくありません。
さらに、現実問題として、緑膿菌やESBLを考慮して、ペネム系抗菌薬を最初から使ってしまうと、次の手がなくなってしまい、非常に困ります。
「HAPだから緑膿菌も、ESBLもカバー」ではなく、起炎菌は何なのか?ホントにカバーする必要があるのか?この点を意識しながら抗菌薬を考えてみてください。
次回はVAPを紹介します。
(編集長)
回診で質問されて考え中
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肺炎患者の対応・・・院内肺炎(HAP)
今回から院内肺炎(HAP)です。
HAPの定義は入院48時間以上経過した患者に新たに発症した肺炎でした。また、HAPには人工呼吸器関連肺炎(VAP)も含まれます。
さて、HAPに遭遇した際にまず行うことは何でしょう?
成人肺炎診療ガイドライン2017によれば、まず「患者背景のアセスメント」を提唱しています。具体的には
・誤嚥のリスクが高いか?
・癌患者の終末期や老衰などの状況か?
などを評価して、状況によっては、肺炎の治療を行わないという選択肢も検討します。
では、治療をするなら、次にすることは何でしょう?
CAPと同様に、①重症度の判断、②敗血症の有無の判断 を行ったうえで、さらに③耐性菌リスクの判断 を行っていきます。
敗血症の有無についてはCAPと同様で、qSOFAとSOFAを用います。
重症度の判断は、CAPではA-DROPでしたが、HAPでは使えません。代わりにI-ROADと、2つの重症度規定因子を用いて評価を行います。
軽症群は、I-ROADが2項目以下+重症度規定因子なし
中等症群は、I-ROADが2項目以下+重症度規定因子あり
重症群は、I-ROAD3項目以上
となっています。
ちなみにI-ROADに含まれているFiO2>35%は、だいたいカヌラで4L以上の酸素流量に相当します。
(編集長)
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徳田先生のカンファレンス2023
徳田安春先生の症例検討会が昨日開催されました。
この企画は毎年恒例となっていますが、茨城県が主催しているもので、徳田先生が県内の各臨床研修病院をまわって症例検討会を行うもので、年2回開催されています。
徳田先生は著書も多数あり、あなたも知っているかと思いますが、当院とは徳田先生が水戸協同病院に赴任した16年前からのお付き合いになります。
今回もJ1の二人が症例提示をしてくれました。まずは大城先生が入院中に意識レベル低下を来した患者の症例を、そして友永先生が原因不明の発熱の症例を提示してくれました。
大城先生の症例では、意識レベル低下の原因が高カルシウム血症で、その原因が肺がんだったというものです。入院当初の主訴と違ってくるので、最初の診断に引っ張られないようにしながら鑑別するのがポイントでした。また友永先生の症例は、不明熱の原因精査を進める手順を改めて確認できた学びの多いものでした。
カンファを終えてからの感想には、「臨床推論をしていく中で、やるべきこと、考えるべきことについての思考の整理がなされた点が良かった」「参加型の症例検討で、積極的に学べたと思う」などと、満足度や学びの多いカンファになったようです。
(編集長)
グループでのディスカッション中
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肺炎患者の対応・・・市中肺炎(CAP)
市中肺炎(CAP)の続きです。
敗血症の有無や重症度の評価を行った後は、抗菌薬の選択を考えます。抗菌薬を選択する際は、大きく定型肺炎と非定型肺炎の2つに分けて考えます。
定型肺炎とは、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌、モレキセラ・カタラーリスなどによる肺炎のことです。一方の、非定型肺炎はマイコプラズマやクラミドフィラ(クラミジア)による肺炎のことを指します。
青木眞先生の「レジデントのための感染症診療マニュアル」によれば、定型肺炎は、肺に病像が限定される傾向あるそうですが、一方の非定型肺炎では、頭痛や筋肉痛、皮疹、関節痛など、肺外の臨床像が目立つ傾向にあることから名づけられたそうです。
とはいっても、青木先生も書いているように、定型肺炎と非定型肺炎を臨床的に区別することは難しいのが現実です。
そこで編集長のおススメは、
・定型肺炎:ペニシリン系やセフェム系が効く肺炎。
・非定型肺炎:ペニシリンやセフェムが効かない肺炎
と覚えておくと便利です。
非定型肺炎の起炎菌であるマイコプラズマとかクラミドフィラ(クラミジア)では、ペニシリンやセフェムが効きませんので、マクロライド系やキノロン系を選択します。
この、定型肺炎と非定型肺炎を見分けるためのスコアがあったりしますが、編集長的には実際にはどうかな?という印象で、ほとんど使っていません。
参考までに・・・
編集長的に一番役に立つのはグラム染色です(もちろん良質の喀痰を染色するのが前提です)。
グラム染色で
・起炎菌が分かれば定型肺炎
・何も見えなければ非定型肺炎
と推定できます。
一番よくないのが、CAP=セフトリアキソン(第3セフェム)とワンパターンになってしまうこと。非定型肺炎のことなど、これっぽっちも考えていないのはNGです。
患者の話をよく聞いて、マクロライドを選択するのか、セフェムにするのかを症例ごとに、よーく悩んでみてください。
そのほか、定型肺炎の起炎菌として、黄色ブドウ球菌やクレブシエラ、緑膿菌も記載されていることもあります。
ですが、黄色ブドウ球菌はインフルエンザ罹患後、クレブシエラはアルコール依存患者、緑膿菌は気管支拡張症の患者といった、限られた状況で起炎菌となるので、CAP患者さんで毎回全部をカバーする必要はありません。
定型肺炎か?非定型肺炎か? 抗菌薬の選択をどうするか? 基本通り、病歴や既往を確認して決めていきましょう。
(編集長)
ERで救急車の到着を待つ二人
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◆今夜はレジナビでお会いしましょう!
今夜6月22日(木)19時からのレジナビFairオンライン 西日本week
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肺炎患者の対応・・・A-DROP
前回に続いて、肺炎についてのポイントを整理していきます。今回は市中肺炎(CAP)です。
まず質問です。あなたがERでCAPの患者さんをみた時に最初にすることは何でしょう?
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まずはA-DROPですね。研修医も医学生も、ほとんどの人が答えてくれるほど浸透しています。A-DROPは重症度評価に使いますが、入院させるのか、それとも外来で治療するのかの判断材料になります。
A-DROPでは、各項目を1点としてスコア化します。それを基に治療方針を判断します。
・0点なら軽症:外来治療
・1~2点なら中等症:外来もしくは入院
・3点なら重症:入院
・4~5点なら最重症:ICU入院
ポイントは、レントゲン所見が入っていないことに注意しましょう。例えばレントゲン所見が大したことなくとも、SpO2が低ければヤバいと判断する必要があります。
重症度評価と共に、敗血症の有無についても評価して下さい。いろいろと議論はあるところですが、臨床で簡便なので敗血症の有無はquick SOFAを使うのが良いでしょう。
quick SOFAは
・呼吸回数≧22回/分
・意識障害
・収縮期血圧≦100mmHg
2点以上なら敗血症疑いとして、さらに本来のSOFAスコアで評価します。
すでに気づいているかもしれませんが、A-DROPの中にはR(呼吸)、O(意識)、P(収縮期血圧)とquick SOFAの項目もかぶっているので、同時に評価できます。微妙に基準値が異なりますが、その辺は気にしないでOKです。なにより、ヤバい肺炎を逃さないことが優先事項です。
これらを頭に入れておいて、指導医の先生に上手にプレゼンして下さい。例えば・・「71歳の男性のCAPで、qSOFAは0点ですが、A-Dropが2点(年齢・脱水)でした。SpO2も92~94%と低めで、呼吸回数も20回前後とちょっと速いので、入院させた方がいいと思いますが・・・。」とプレゼンできればイイですね。
(編集長)
ERでのライン確保
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肺炎患者の対応・・・分類
肺炎は日常的に遭遇する疾患です。たぶんあなたも担当したことがあると思います。ですが、よく遭遇するので、診療もついついワンパターンになりがちです。
例えば、肺炎ならA-Dropで評価して、入院させたらセフトリアキソン(CTRX)を開始。他にも、高齢者でちょっとでも誤嚥が疑われるなら、絶食にしてアンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)。呼吸器関連肺炎(VAP)ならメロペネム(MEPM)と言った感じでしょうか。
まあ、決して間違っている訳ではありませんが、色々なツールやガイドラインをきちんと利用できているでしょうか?このへんで、もう一度要点を整理してみようと思います。
今回は肺炎の分類から。肺炎患者を見た時は、まず下記の3つの分類の、どれに該当するのかを考えましょう。
・市中肺炎:CAP:Community Acquired Pneumonia
・院内肺炎:HAP:Hospital Acquired Pneumonia
・医療介護関連肺炎:NHCAP:Nursing and Health-Care Associated Pneumonia
では、それぞれの定義を確認しておきましょう。
・CAPは「病院外で日常生活を送っている人に発症した肺炎」
・HAPは「入院48時間以上経過した患者に新たに発症した肺炎」
・NHCAPは「医療ケアや介護を受けている人に発症した肺炎で、以下の1つ以上を満たすもの」
①療養病床、介護施設、精神病床に入所している
②90日以内に病院を退院した
③介護を必要とする高齢者、身体障害者
④通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制剤等)を受けている
ちなみに、ここでの介護の定義はPS(Performance status)≧3が該当します。PS3とは、限られた身の周りのことしかできない、日中の50%以上をベッドか椅子で暮らしている状態のことを指します。
次回は、CAPについて紹介します。
(編集長)
今回はこの二人♪
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初めての神経筋疾患
(George)
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下剤のキホン2
こんにちは。現在、呼吸器内科で研修中の新潟県産もやしです。
肺癌患者さんの入院管理を行う上で必ずぶち当たるのが便秘の対応です。入院しているだけでも便秘が生じやすいのに、抗がん剤の副作用にも便秘があり、また抗がん剤に対する制吐薬の副作用にも便秘があります。以上より抗がん剤治療中の肺癌患者さんはほぼ必ず便秘の訴えがあります。というこうとで今回は下剤についてまとめてみました。以前、ネギトロ先生がまとめてくれたやつがあるので、それに追加してまとめたいと思います。
まず便秘患者さんを診たら器質的な便秘を見逃さないでください。腸閉塞の方に便秘薬を処方すると悪化してしまうので注意です。
さて、機能的な便秘についてですが大きく以下の2つのパターンがあります。
①排便の回数が減少する
②便は直腸にあるが排便するのが困難
患者さんがどちらのパターンなのか知るには患者さんの訴えも大事ですし、直腸診をして便があるのか軟便・硬便なのか判断してもいいですし、エコーで直腸内を評価しても良いです。
患者さんがどんな便秘なのか評価できたら、使用する下剤について考えます。下剤には大きく分けて刺激性下剤と非刺激性下剤があります。具体的な下剤についてはネギトロ先生の記事を参照ください。
①の患者さんには刺激性下剤と非刺激性下剤を用います。ネギトロ先生がまとめてくれたように、非刺激性は長期的な使用に、刺激性下剤は短期間の使用に向いています。ですから、まずは頓用で刺激性下剤を使用し腸を動かし、その後、定期的に緩下剤を使用し便の硬さをコントロールするのが良いです。
②の患者さんには、摘便や浣腸、座薬によって物理的に直腸にある便をとり除いたり、定期で非刺激性下剤を使用し、便の硬さをコントロールします。刺激性下剤は直腸を刺激する作用はないので②の患者さんには不向きです。
指示簿での便秘の指示は、基本的には頓用の即効性のある刺激性下剤で大丈夫です。ただし、連用すると耐性ができてしまうため、その後は定期で非刺激性下剤を処方しておきましょう。
参考文献:レジデントノート誌2021年5月号「ルーティンを見直す!病棟指示と頻用薬の使い方」
(新潟県産もやし)
日本海の夕焼け
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◆専門研修ブログもご覧ください!
当院には基幹型内科専門研修プログラムがありますが、その強みは消化器内科、循環器内科、腎臓内科の診療体制です。あなたも最短で内科専門医、そして施設を異動することなくサブスペシャルティ専門医と関連する各種の資格を取得できます。そんな内科専門研修プログラムを紹介するブログもぜひご覧ください。
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